真鍮とアイオライト 1

司書Y

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甘味と猫とほうじ茶と

甘味と猫とほうじ茶と 2

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 からん。
 ドアを押すと、ドアベルが鳴る。この音も好きだ。
 俺は思う。
 静かな店内に、この音がすると、やってくるのだ。
 彼女たちが。

『にゃあん』

 約一週間ぶりの聞きなれた声に思わずふにゃり。と、だらしない笑顔になった俺の足元に、彼女がすり寄ってきた。

『紅。久しぶり。元気だった?』

 自分の声がワントーン高くなっているのも自覚している。

『にゃー』

 彼女の前に座り込んで、その頭を撫でると、彼女は嬉しそうにその手にすりすりと、その細くて、しなやかで、柔らかくて、暖かくて、ふかふかな身体を擦り寄せて、歓迎してくれた。
 そう。
 俺が会うのを心待ちにしていた彼女。キジトラの紅。この店一番の愛嬌とスター性を兼ね備えた文字通りのアイドルだ。俺が店に来ると大抵一番に挨拶に来てくれる。
 
『やあ。池井君こんばんわ』

 紅を抱っこして立ち上がると、店主が声をかけてくる。
 カウンターの向こうで、急須の蓋に手をかけて時間を計っているのは、長くてふわりとした少し色素の薄い髪を後ろで一つにまとめた20代後半の男の人で、名前は風祭さん。優し気な印象の瞳の色もヘーゼルナッツの色合いで、少し日本人離れした容姿をしていた。

『ちょっと混んでるけど、カウンターでいい?』

 そう言われて、頷きながら店内を見回す。
 土蔵なのでもともと窓はあまり多くも大きくもない。今は日没後だから頭り前なのだが、そうでもなくても、外から入る明かりが少ない店内は、柔らかな電球の色の照明で照らされていた。
 店内の壁の入ってきた入り口の向かい側。つまりは北側以外の三方の壁は、目線くらいの高さの棚になっていて、金属製の茶箱がずらりと並んでいる。箱には一つ一つ香りや色で分類された色違いのラベルが貼られていて、その色の落ち着いた色合いが、店主の趣味の好さを連想させた。
 店の中央部分には、背の低い棚が置かれていて、人気のあるお茶や、季節のお茶・おすすめのお茶が並んでいる。とにかく、お茶と、その棚が店の大部分を占めていた。
 
 入り口から正面側の棚がない壁側が、カウンター席になっている。カフェスペースには小さな四角い4人掛けのテーブル席が3つとカウンター席が4席しかない。カウンター席の並びにはレジと日替わりスイーツ用のガラスケースがあって、客は3種類ある日替わりスイーツの中から一種類と、店内にあるお茶の中から一種類を選んで、頂くというスタイルだ。

 普段はカフェスペースがいっぱいになることなんて殆どない。大抵は、自分以外に1・2人のお客がいるだけだ。

『どうしたんですか? 今日。人多いですよね? 日曜日っていつもこうなんですか?』

 今日はテーブル席が全部埋まっていた。それから、カウンターにはたまに会う常連さんが1人座っている。
 実は、たまたま今日は交代を頼まれて早番だったから来たのだけれど、普段は日曜日にこの店に来ることは殆どないから、もしかしたら、自分が知らないだけでいつもこうなのだろうかと思う。

『いや。いつもはこんなことないんだけどね。ちょっと、先週から…』
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