336 / 411
第11章〜勇者編〜
演説
しおりを挟むSランク冒険者として勇者一行に近付く為に私達は動き出した。
私達のパーティーメンバーは聖皇国パルドフェルドへと入ると、冒険者としてクエストをいくつも達成していく。
信頼が集まる私達。
「ーーディア様、5日後に勇者のお披露目があるようです。」
そんな頃、リリスから待望の報告が。
「そう、ついに、ね。」
心が軋む。
ようやく次のステージへ進める嬉しさと、会う事への恐怖。
震える自分の手を、握り締めた。
「・・・ディア様が無理と思われるなら、僕達だけで勇者を地獄へ叩き落としますよ?」
コクヨウの目尻が下がる。
「いいえ、大丈夫。私のこの手であの男へ復讐するわ。」
許しはしない。
この相馬凪への増悪は、私だけのもの。
「でも、側にいてね?」
「もちろんです、ディア様。」
コクヨウ、そして他の皆んなも笑顔で頷く。
5日後。
その日が、私と相馬凪の運命を決める時。
ひっそりと、その日を待った。
「100年も前、当時の勇者は魔王を打ち滅ぼしたが、魔族の脅威が再び我らの平穏を脅かそうとしている。」
5日後。
リリスの報告通り、聖皇国パルドフェルドの皇王パルファンの演説が始まった。
魔法で拡散された皇王の声が民衆へ届く。
「魔王を失い、身を潜めていた魔族の活動が報告されたのだ!」
皇王の言葉に、民衆がどよめく。
恐怖、絶望。
民衆の中に駆け抜けていく。
「だが、何も案ずる事はない。我らは魔族の脅威から守って下さる勇者様を、女神ニュクス様からのお告げにより召喚した事を宣言する!」
広がるさざ波。
困惑と、魔族への恐怖心、そして、勇者への期待が民衆の中に広がる。
「・・何とも滑稽な演説ね。」
歪む口元。
フードを深くかぶった私達は、路地裏の影から皇王の演説を見ていた。
「何も知らないって、幸せな事だわ。」
勇者など偽り。
その日が来れば、無くなる称号だと言うのに。
「それでも、魔族の脅威がある今、勇者の存在は民衆の希望にはなるのね。」
誰でも、平和を享受したいと望む。
今ある幸せを誰からも害されず、平穏に暮らしたいと。
「果たして、あの男が大人しく勇者として活躍するかしら?」
この世界は現実なのだ。
異世界で争いもなく生きていたあの男が、死ぬかも知れない戦いに堪えられるとは私は思えない。
大きな希望は、裏切られた時、増悪へと変わる。
その増悪は、誰に向かう?
「偽の勇者だと民衆が知った時、あの男と王家に批難が向くわ。」
あの男を勇者に選んだのだ、王家。
そして、勇者本人へと向く。
「皆に紹介しよう、異世界より召喚されし勇者様だ!名は、ナギ・ソウマと言う。」
笑顔の皇王の隣に、あの男が並ぶ。
あの頃と変わらぬ姿で。
「俺が皇王様から紹介されました、ナギ・ソウマです。皆さんの平和を守る為に、全力で魔族の討伐に挑みますからご安心を。」
笑みを浮かべる相馬凪に、私は胸元を握る。
あちらの世界で半年以上前に見た頃の彼と変わらぬ、その笑顔。
吐き気が込み上げる。
「あの方が、勇者様なのか・・?」
「見ろ、髪も瞳も黒いぞ!」
「本当に、勇者なのか?」
こそこそと民衆から囁かれる、あの男への不信感。
誰もが、その色彩に眉を顰める。
「・・黒は、不吉な色と皆に敬遠されますからね。」
コクヨウに浮かぶ、自嘲の笑み。
「これから先、勇者様も色々と大変でしょう。」
その目は冷ややかだ。
「その強さを磨く為に、勇者様は我が国の迷宮に入る事となる。」
皇王の言葉は続く。
「よって、我が国の迷宮への入場へ規制が設けられる事となるが、皆も勇者様と世界の平和の為だと理解して欲しい。」
冒険者達と思われる人達の顔が怒りに染まる。
迷宮は命の危険があるが、冒険者達にとって大金のお金が入る場所。
はいそうですかと納得は出来ないだろう。
「不満は、爆発する。」
全ては世界の平和の為だと言い聞かせてみても、実際に自分達に被害のない者達以外は皇国の勇者への優遇へ不満を覚えていく。
そして思うのだ、勇者は必要なのか、と。
「楽しみね、相馬凪?」
貴方がどんな理由で世界を守ると決めたのかは知らないけど、その決意は無駄になる。
私はあの男へ背を向けた。
「ーーー聞いたか?勇者様の迷宮攻略が全く進んでないって話。」
「あぁ、まだまだ俺達は迷宮へは入れそうにないみたいだな。」
あの演説から1ヶ月、冒険者ギルドの中に入れば、聞こえる勇者の話。
誰もが顔が険しい。
「実際、勇者の姿を見たが、髪も瞳も真っ黒だったじゃないか!」
「本当に勇者か疑わしいもんだぜ。」
「違いねぇ!」
ゲラゲラと笑い出す冒険者達。
「皆さん、勇者様を選んだのはニュクス様ですよ?あまりの言いようは、不敬と思われてしまいますから注意してくださいね?」
仲良くなった冒険者の皆んなへ、私は微笑んだ。
芽吹け。
不満と、あの男への疑いの芽よ。
11
お気に入りに追加
2,256
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
魔法の華~転移した魔女は勘違いされていても気づかないわよ?~
マカロン
ファンタジー
ここに、美しく怪しい魔女がいた。
彼女は町の皆が恋い焦がれるほどの美女だった。時には賢者のような賢さに恐ろしさを感じさせ、時には男を無邪気に、妖艶に振り回す。すべてわかってやっているからたちが悪い。それでも、俺たちは彼女に愛を囁く。彼女を護る。彼女に従う。それが彼女のお望みだからーーーーーーーーーーー。
「えっ、ちょっと待って……?」
やることなすこと勘違いされる、
不憫な異世界に飛ばされた女性のお話。
剣やら盾やら出てくるこの世界。ふと起きればそんな世界へ迷い込んでいた。
いつのまにか魔法が使える、
チートライフここに極まれり!!
しかも女性が少なく貴重っ!!?転生して肌と髪が綺麗になったら絶世の美女判定されたわっ!?
え、魔女?女神?ちがいます普通の人間の女の子です!誰一人本名で呼んでくれないのはどうして!?
気がつけば、森の奥の大きな館に住む魔女となり……女性の少ないこの世界で、唯一の妖艶な魔女として君臨し、動物も人も踊り出す。
コミカル要素、ミュージカル要素満載!そんなラブコメ小説。
王族、貴族、精霊、魔神、弟子…なんでもござれ!
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
見た目幼女は精神年齢20歳
またたび
ファンタジー
艶のある美しい黒髪
吸い込まれそうな潤む黒い瞳
そしてお人形のように小さく可愛らしいこの少女は異世界から呼び出された聖女
………と間違えられた可哀想な少女!
………ではなく中身は成人な女性!
聖女召喚の義に巻き込まれた女子大生の山下加奈はどういうわけか若返って幼女になってしまった。
しかも本当の聖女がいるからお前はいらないと言われて奴隷にされかける!
よし、こんな国から逃げましょう!
小さな身体と大人の頭脳でこの世界を生きてやる!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる