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第三章 南の楽園マリソル
31.悪役令嬢は眠れない
しおりを挟むダメだ、ぜんぜん眠くならない。
食事を食べ過ぎたわけではないと思うんだけど。ルイジアナから聞いた話を頭がまだ処理しているのだろうか。あんなに歩いたし、見知らぬ街で緊張状態にあったのに、まったく眠気が訪れない。
(こんな時間じゃ…皆眠ってるわよね)
カーテンの隙間から外の様子を窺ってみても、真っ暗だ。人っこ一人歩いていない。頑張って目を閉じても眠れそうにないので、仕方なく部屋の電気を付けた。
簡素な部屋の中にはベッドと小さなサイドテーブルの他に、私の荷物が詰まった鞄が一つ、そして入り口には姿見が置いてあった。鏡を覗き込むと、青白い顔をした女が映っている。鏡の中のアリシア・ネイブリーは不安そうな顔で、小さく溜め息を吐いた。
自分が歩んでいる道が正しいのかどうかなんて、いつも分からない。アリシアに掛けられた呪いのことを探れば、何かが変わるのではないかとぼんやり考えているけれど、はたしてこれで本当に良いのか。
私はちゃんと前に進めている?
それともすべて無駄?
一度、リナリーに会って話がしてみたい。「貴女はどうしてそんなに皆に愛されるの?」「どうすれば貴女みたいに上手に生きていける?」と聞きたい。同じ年に生まれて同じ男を好きになった二人。どうしてエリオットの心はアリシアから離れてしまったのか。
ニケルトン公爵家でエリオット・アイデンを見た時には、彼はヒロインに愛を囁きそうな甘い男には見えなかった。あんな無愛想で無口な男が、誰かに心を奪われてドキドキするなんて想像できない。
リナリーはどうやってエリオットに好かれたのだろう。どうしてアリシアは後先を考えずに子供じみた嫌がらせをリナリーに続けたのか。船上の男たちの会話を間に受ける訳じゃないけど、アリシアが社交会で嫌われ者だったと聞くと流石に私の心も痛んだ。
(エリオットにもう一度会うことがあれば、はっきり二股野郎って言ってやりたいわ……)
憎むべきはリナリーではなく、フラフラするエリオット本人なのだから。完全無欠な男と作中で謳われているくせに女性にダラシないなんて、いくら他が良くても最悪だ。
ベッドに片手を突いて意気込む私の隣で、ゴロンとペコロスが寝返りを打つ。大きく膨らんだ鼻提灯が小さな頭の上に浮かんでいた。どんな夢を見ているのだろう。幸せそうな顔からするに、きっと食べ物か何かの夢だろう。
「はぁ…エリオットのことを考えると苛々しちゃう」
こめかみを押さえつつそう溢すと、視界の隅でペコロスの鼻提灯が割れるのが見えた。驚いたようにパッと目を見開いた魔獣はベッドの上で怯えたように身を震わせている。
悪い気を放ってしまっただろうか、と反省してまた身体をベッドの上に放り投げた。今の私は、柵を飛び越える羊を数えるよりも、エリオット・アイデンにビンタする妄想を脳内で繰り広げる方が眠りに落ちるのは早そうだ。
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