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番外編
『溺愛以外お断りです!』9
しおりを挟む「なるほどね、それでセイハム大公を疑っていると」
「ええ。証拠もなく人を悪人と決め付けるのは良くないけれど、大公が私に友好的ではないことは分かってる」
「私からしたらデリックの父というだけで十分疑うに値するわ。あの無法者を世に送り出したのは大罪よ」
「それは……」
「悪いが、ちょっと良いか?」
返答に困る私の前にレナードが割って入った。
綺麗な金色の髪が視界を横切る。
「なんで君がこの場に居るんだ?ミレーネ」
「あら。大切な友人たちの一大事に駆け付けるのは当然のことだと思うけれど。貴方はそう思わないの?」
「………帰国は来週だと伺っていたが」
「早めたのよ。それぐらいどうってことないでしょう」
ねぇ?と同意を求められて私は曖昧に頷く。
レナードとミレーネが蛇とマングース並みの仲であることは以前から知っていたけれど、彼女の留学を経て少しは関係が改善されることを願っていた。
だけれど、どうやらそれも難しいようで。
私は久しぶりに会う美しい友人の姿を眺める。腰まであった長い髪は胸元で切り揃えられ、両手には相変わらず高貴な輝きを放つ宝石たちが並んでいた。
ふと、その中に見たことのない青い石を見つける。夏の夜のような少し明るいブルーの宝石は、彼女が新しく留学先で仕入れたものだろうか。ミレーネに問おうと口を開いた時、ラゴマリア王宮の来客用の部屋の扉が勢いよく開いた。
「すまない、門番に足止めを喰らった。君はどうしてそうも歩くのが速いんだ?俺と並んで歩くことが恥ずかしいのか?」
バーンと姿を現したのは不機嫌そうな長身の男。
黒髪の下の青い瞳が部屋に居座る面々を見て驚く。
見たことのない人物の登場に、レナードに「知り合い?」と聞こうとしたところ、隣に座るミレーネが小さく舌打ちする音が聞こえた。気のせいだと思いたい。
「リゲル、ついて来て良いなんて言っていないわ。貴方が来ると面倒だからわざわざ夜中の便で帰ったのに」
「ああ。おかげでかなり寝不足だ、そんなに照れなくても俺の方から君の友人に話をしよう。みんな聞いてくれ、」
「照れているんじゃないわ……!」
私は目を丸くして二人のやり取りを眺める。
あのミレーネ・ファーロングが取り乱している。レナードと婚約破棄しても、私が大勢の前で糾弾されても、澄ました顔を崩さなかった公爵令嬢が。顔を赤くして、男を睨みながら地団駄を踏んでいる。
「………っふふ、」
「イメルダ?」
「ごめんなさい、貴女のそんな姿を初めて見たからビックリしてしまって。素敵なお友達を見つけたのね」
「友達じゃない。俺はリゲル・カローナ、この夏に俺たちは正式に夫婦になった」
「ふっ…夫婦……!?」
素っ頓狂な声を後ろで上げたのはグレイス。
私は振り返ったレナードと顔を見合わせた。
リゲルと名乗る大柄な男はかなりワイルドで男っぽく、ミレーネとは対照的に見える。しかし、その手を払い除けながらも何処か嬉しそうなミレーネを見て、私は彼女もまたこの男のことを大切に思っているのだと理解した。
「待てよ、カローナというとクレサンバル王国の王族ですか…?すまない、連絡を受けていなかったから出迎える準備が、」
「いや、問題ない。妻の友人たちに挨拶をしたかっただけだ。君が元婚約者のレナードくんだな?噂では新しい婚約者を迎えたらしいが結婚はまだなのか?」
「………っ!」
私は思ってもみない質問に身体が強張る。
前に立つレナードはどんな顔をしているのだろう?
コーネリウス国王とフェリス王妃からは「期待している」という言葉をもらったものの、肝心のレナードは一切そんな話を振って来ない。私から急かすのも気が引けるので様子見でここまで来てしまったのだけれど。
「申し訳ませんが……それはラゴマリアの問題なので、今この場でお答えすることは出来ません」
なるほどね、と面白そうに口角を上げるリゲルの隣でミレーネが目を細めるのが見えた。
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