魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

85 赤いリボンのついた鍵

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 そして翌週の月曜日、コレットはソロニカから預かった鍵束を手に彼の部屋を訪れていた。

 生徒たちが帰宅したあとの校内は、シンと静まり返っていて、学校に関する怖い話が生徒間で流行るのも今ならちょっと納得出来る。つまるところ、なかなか雰囲気があって怖い。こんな時に限ってデボワ伯爵扮するハムスターは居眠り中で、手に持ったカゴからは気持ちの良さそうな寝息が聞こえていた。


「えーっと……赤いリボンが巻いたやつが部屋の鍵で……」

 一人呟きながら鍵穴に大きめの鍵を差し込んで捻ってみる。ギィッと軋んだ音が廊下に響いて、重たい扉が内側に開いた。

「ジル……?コレットが来たわよ。お邪魔するわね~~……」

 いつもなら入り口の近くに待機するジルがどういうわけか見当たらない。ソロニカは部屋の電気を切って行ったのか、薄暗い室内でコレットは目を凝らす。なんとか壁に手を這わして部屋の出来を点けた後、ジルの姿を探して足を進めた。

「ジル?どこに居るのー?」

 入ってすぐの部屋には小さな少女は見当たらず、仕方がないのでコレットはソロニカの研究器具が置かれている奥の区切られたスペースの方まで見に行くことにした。

 雑多に置かれた物を避けながら、ジルの名前を呼び続ける。探し始めて五分ほどが経過したところで、机の下に縮こまる身体を発見した。

「ジル……!こんな場所に居たの?」

「…………」

 青い目を大きく見開いて床を見つめたまま、幼い少女は何も言葉を発さない。不思議に思ってコレットはその背中に手を添えた。

「どうしたの?何処か調子が悪い……?」

 瞬間バチッと大きな音がして、ピリッとした痛みが指先を走る。目をやればジルの背中に触れていた指先は皮膚が火傷したように赤くなっていた。

 慌ててコレットは手を引っ込める。

「ごめんなさい、何か嫌だった?ソロニカ先生が言っていたように私の外側の魔力のせい?」

 少女は何も言わない。
 徐々に不安が胸の内を満たした。

 ジルをよろしく頼む、とソロニカは言って鍵を預けてくれたけれど、肝心のジルの様子がおかしい。いつものように流暢なお喋りが始まらないし、笑顔も無ければ反応がまったく無い。


「ジル?」

 もう一度だけ名前を呼んだ瞬間、仕切りの向こうで部屋の扉が開く音がした。

(えっ……!?)

 鍵を掛けなかった自分を猛反省しつつ、高鳴る心臓を押さえようとギュッとスカートの裾を握る。動かない小さな身体に覆い被さるように息を潜めて、コレットは侵入者の登場に備えた。

 もしも、魔導書を目当てに来た悪党だったら。
 自分に倒すことが出来るのだろうか。

 幸いレイチェルとお茶をした際に魔力の受給は済ませている。マウロ・ソロニカから支給してもらった銃もまだ所持しているし、自衛のために少しは役立つはず。だけど、学内への侵入者を追い返すとなれば、相応の力が必要となる。

 カツッと靴が床を踏む音がして、いよいよ近くに人の気配が迫っていることを察知した。積み上げられた段ボールの向こうで動く影を見る。それなりに大きいから、女性ではなく男性だろうか。

 意を決してコレットは銃を手に飛び出した。


「それ以上近付かないでください……!」

「分かったから、構えるな」

「はぇっ!?」

 鋭い声に目を凝らすとそこに立っていたのは、呆れ顔のレオン・カールトンだった。






◆お詫び

前回の更新からかなり間隔が空いてしまい、すみませんでした。ゆるく続けますので、気長に付き合っていただけますと幸いです。
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