魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

84 剣豪

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 それから数日は、悶々とした気持ちで過ごした。

 コレットがかつて憧れたプリンシパル王立魔法学校の生徒は、実はレイチェルの恋人であり既に故人となっているイリアス・サンドラだったのだ。

 いつか会えたら、と能天気な妄想をしていた平和な自分の頭を呪うし、ぼんやりと考えていた「いつか」は二度と来ないことが今では分かる。

 レオンはコレットに、魔法が魔術に敵うことはないと言った。

 同じ魔力の量で相対した場合、より強い効果を持つのは魔術なのだと。だから彼はリンレイに対して魔術で応戦したわけで、魔法の限界を知ったからプリンシパルを自ら去ったのかもしれない。


「…………魔法は、光……」

 呟いたコレットの隣の席がガタンッと引かれた。
 見上げればそこにはジョセフが立っている。

 今日は日曜日で、家で遅めの朝食にフレンチトーストを食べていたところ。メゾン・ド・ミロワの住人たちも出払っているのかと思ったけれど、全員そうではなかったようで。

「おはよう、ジョセフさん」

「おはよう。マダムを見なかったかい?家賃の支払いをしようと思ったんだがァ、またタイミングが合わなかったかな?」

「残念ね、マダムはついさっきハインツを見送りに駅まで行っちゃった」

「駅?」

「うん。なんでも、今日から旅行でヘールの湖を撮りに行くんですって。写真が趣味だと色々忙しいわよね」

「ヘールといえば東の極地の?」

 ジョセフの問い掛けにコレットは頷く。

 それを見て白髪混じりの頭を少し掻くと、同居人は懐かしそうに目を細めた。その視線の先には朝の光を浴びてキラキラと輝く花瓶がある。

「懐かしい。実に懐かしい。年寄りの昔話で悪いが、実はこう見えてわしは若い頃、軍隊に入ることを期待される程度には剣の才があってね。よく挑戦者と勝負したりしたもんだ」

「ジョセフさんって出身はサガンですよね?」

「ああ、そうだ。サガンの貧困街が産んだ剣豪、なんて言われることもあったが……」

「すごいじゃないですか!」

 驚きながらコレットはジョセフにフレンチトーストを進める。牛乳の入ったマグカップを片手に老人は「ありがとう」と礼を言った。

 デパートの警備員として働く彼にそんな過去があったなんて素直に驚きだ。他人の人生というものは数ヶ月一緒にいたぐらいでは分からないもの。


「軍隊には入らなかったんですか?」

 ジョセフがいったいいつから今の仕事を続けているのか知らないけれど、彼に入隊の経験があるとは思えない。ソロニカもそうだが、軍に身を置いていたものはやはりその身体に傷が目立つ。魔法使いとして従事していたソロニカでさえ、腕にいくつかの古傷があった。

「入れなかったんだ。恥ずかしい話じゃが、入隊を控えた一週間ほど前に遠方から来た挑戦者に敗れてね。利き手が暫く使い物にならなくなった」

「敗れた……?」

「ああ。彼の出身が東の極地ヘールだった。ちょうど君ぐらいの若い頃の話じゃ。生きていたら、そうじゃな……六十は越えとるじゃろう」

「そうだったんですね、」

 しんみりと返すコレットに、ジョセフはマグカップを机に置いて右腕をブンブンと振って見せる。

「今はほれ、この通り!軍隊に入れんかったのは残念だが、日常生活が送れるぐらいには腕も復活したからのォ。老いぼれは老いぼれらしく、静かな余生を過ごすことにするよ」

 ジョセフはそう言って窓際に近付くと、先ほどまで彼が眺めていた小さな花の花弁をちょいっと触った。マダム・ミロワが気まぐれで生けた白い花は太陽に向かって首をもたげている。

「あの頃はセレスティアも発展途上で……進むも修羅、退くも修羅の道じゃった。夢を追い続けた者がどうなったのかわしは知らんが、何処かで同じように穏やかな空を見ていると良い」



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