魔法学校のポンコツ先生は死に戻りの人生を謳歌したい

おのまとぺ

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第五章 祈りと迷い

83 光

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 6月中旬の土曜日。
 柳が亜紀ちゃんと双子を連れて、顕さんの家に行った。
 第二週に掃除をし、第四週にもう一度通水に行くスケジュールが組まれている。
 掃除は大体午前中で終わり、家に帰ってからみんなで昼食。
 大掛かりな掃除の場合を除き、大体そんな感じだ。

 今日は夏前に一度草むしりをするということで、みんなで向こうで食事をすることになっていた。
 俺は皇紀とレイ、そしてロボの分の食事を作った。
 皇紀は大変に忙しい。
 各地の防衛システムの指示や調整に追われている。
 レイも手伝うようになって、大分楽にはなってきているが、それでも他の用事を言いつけることは無い。
 人数を増やせないのが悩みの種だ。
 いずれ柳も加わるようにするつもりだ。
 今、柳は双子から高等数学の特訓を受けている。

 「私、一応東大生なんですけど……」

 柳は困惑している。



 俺は天ぷらを揚げ、蕎麦を茹でた。
 通常の量の食事で嬉しい。
 ロボにはエビやキスを素揚げにしてやる。

 レイも和食にすっかり馴染んだ。
 響子もそうだが、レイも味付けが濃いものが苦手だ。
 カレーなどは好きなようだが、中華は好きではない。
 まあ、食べるが。
 それと、生臭いものはダメだ。
 サシミも、あまり食べない。
 寿司も苦手なようだ。
 いずれ慣れるかもしれないが。

 他の煮たり焼いたりする和食は好きになってきた。
 蕎麦などは、もう好物になっている。



 俺たちが食べ終わると、アルファードで柳たちが戻って来た。

 「「「「ただいまー」」」」
 「おう、お帰り」

 柳が俺に写真を見せる。

 「綺麗になったな!」
 「はい!」

 もう柳もすっかり自分の仕事としてこなしている。
 嬉しそうだ。

 「来月、もう一度草取りをしようと思います」
 「そうか。でも大分暑くなるからな。次に行った時に、ちょっと除草剤を使ってみろよ」
 「ああ!」
 「植栽の周辺はダメだけどな。離れた場所なら使っていいぞ」
 「じゃあ、薬を探してみます」
 「うちで使ってるのがあるから、後でやってみろよ。具合を掴むために、うちの庭でまず試してな」
 「はい!」

 俺は毎月、柳が撮った写真を顕さんに送っている。
 今はメールで添付できるので便利だ。

 
 
 俺は柳を連れて、庭に出た。
 亜紀ちゃんも付いて来る。

 物置から、除草剤を出していると、或民さんの家のヤマトが庭に入って来た。

 「ヤマトー!」

 亜紀ちゃんが呼ぶと、駆け寄って来る。
 俺の足に身体を摺り寄せた。
 カワイイ。

 「なんで私が呼んだのにー!」
 「アハハハハ」

 亜紀ちゃんがヤマトの背中を撫でると、気持ちよさそうに尾を伸ばした。

 「タカさん、うちでもっとネコ飼いましょうよ」
 「ええ?」
 「だって、ロボはタカさんが帰るとベッタリじゃないですか。私ももっとネコと遊びたいです」
 「多頭飼いをする人はそれでいいんだけどなぁ」
 「うちもいいじゃないですか」
 「俺はどうもな。一匹に愛情を注ぎたいんだよ」
 「えー!」
 「ネコ同士で飼い主の愛情を欲しがるからな。どうしても不平等になる」
 「分かりますけどー」
 「まあ、そういうことだ」

 「人間の女は多頭飼いするのに」
 「あんだと!」

 俺は笑って亜紀ちゃんのこめかみをグリグリした。

 「俺は亜紀ちゃん道の人間だからな」
 「ほんとですかー!」

 柳が俺を見ている。

 「柳道の人間でもある」
 「ウフフフ」

 「やっぱり多頭飼いだぁ」
 亜紀ちゃんが言い、三人で笑った。

 柳が除草剤を使ってみると言うので、ヤマトを帰した。
 その時、ルーが俺を呼んだ。

 「タカさーん! 顕さんからお電話ですー!」

 俺は家に入り、電話を受けた。

 


 「石神くん! いつもありがとうね!」
 「いいえ。柳が頑張ってくれてますよ」
 「そうかぁ。今度お礼をしなきゃなぁ」
 「いりませんよ。好きでやらせていただいてるんです。ああ、これから暑くなるんで、ちょっと除草剤を試してもいいですか?」
 「構わないよ。草むしりは大変だろう」
 「植栽の周辺は使いませんから、安心して下さい。あまり強いものもやりません」
 「任せるよ」

 「お元気そうですね」
 「ああ、俺は元気なんだけどね」
 「何かあるんですか?」

 顕さんは、プロジェクトが中断しそうだと言った。
 現地のある組織から反対運動を受けているとのことだった。
 要は、示談金目当ての嫌がらせだ。

 「どうもマフィアみたいな連中らしいんだ。今本社と工務店とで相談しているんだけど、とんでもない金額を要求していてね」
 「困りましたね」
 「ああ。でもどうにか頑張ってみるよ」
 「危ないことはしないで下さいね」
 「もちろんだ。石神くんみたいに強くないしね」
 「アハハハハ」
 
 俺は内心、猛烈に怒っていた。

 「相手の名前は分かってるんですか?」
 「ああ、なんだっけな、サップ……」
 「サップセーケーですか!」
 「おう、そうだ! よく知ってるな」

 14K(サップセーケー)。
 中国の三合会(サムハッホイ)の最大派閥だ。
 フィリピンのギャング組織と繋がりがあることが知られている。
 それが現地で独立した勢力を伸ばしているのか。

 「顕さんは絶対に無理しないで下さいね。友人に傭兵を派遣する会社を経営してる奴もいますから。何か必要があったら言って下さい」
 「ああ、そんな人がいるのか。石神くんは顔が広いね」
 「いいえ。でもそういうのは顕さんは関わらない方がいいですが。身の危険を感じるような場合はすぐに言って下さい。すぐに友人に言って派遣してもらいますからね」
 「そういう時は頼むよ。いつも済まないな」
 「遠慮しないで、本当にお願いしますよ」
 「ああ、分かった」

 俺は電話を切った。




 桜に電話した。

 「おう!」
 「石神さん!」
 「久しぶりだな」

 俺は東雲たちの仕事ぶりを話し、非常によくやってくれていると言うと桜が喜んだ。

 「ところでな。俺の大事な人間が、フィリピンで困ってるんだ」
 「フィリピンですか?」

 俺は桜に14Kが巨大商業施設の建設を邪魔している話を伝えた。

 「お前の所で、フィリピンで伝手があるようなことを言ってたじゃないか」
 「はい。今でも繋がりはありますが」

 「紹介してくれよ。俺が現地に行った時に、案内を頼みたいんだ」
 「それはいいですけど、石神さんがいらっしゃるんで?」
 「そうだ。極秘裏にやりたいからな」
 「自分も一緒に行きますよ」
 「いや、ダメだ。飛んで行くからな」
 「飛行機ですよね?」
 「バカヤロー! 俺が飛んで行くんだ! お前は飛べねぇだろうが!」
 「へ?」

 「「跡」を残したくねぇんだ。サッと言ってぶっ潰してサッと帰るからな」
 「はい?」

 「お前は現地の人間に連絡して、14Kのアジトを調べろと言ってくれ。来週の金曜の夜に行くからな」
 「分かりました!」
 「大丈夫そうか?」
 「はい、問題ないかと。でも飛んで行くって」
 「お前は分からんでいい。とにかく頼むぞ。調べたら連絡くれ」
 「はい!」



 俺は亜紀ちゃんと双子を呼んで地下へ行った。
 顕さんのトラブルを話すと、三人とも激怒した。

 「許せませんね!」
 「「うん!」」

 「そうだろう! 絶対に許さん! 俺たちで潰しに行くぞ!」
 「「「はい!」」」
 「向こうで結構なことをやるからな。通常の入国はしない。「飛ぶ」からな」
 「分かりました」

 「来週の金曜の晩に行く。大体俺たちなら30分もかからねぇ」
 「「「はい!」」」
 「暴れっぞ!」
 「「「ワハハハハ!」」」

 マッハ10以上で俺たちは「飛ぶ」ことが出来るようになっていた。
 現地に千万組の人間がいることを話した。
 
 安全を期してマッハ5で飛べば、大体30分を切るくらいだ。





 石神家フィリピン篇が始まる。
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