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第一章 魔法学校のポンコツ先生

23 サマーキャンプ

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「はい、それでは今年度のサマーキャンプはアーベル先生とクライン先生が引率で付き添ってもらうことになります。各自しっかり責任感を持ってやり遂げてください」

「はい!」

「クライン先生、お返事は?」

「………はい」

 拝啓、くじ運様。
 いったい何処へ行ったのでしょう?

 コレットは右手に持った先端が赤く塗られた木の棒を眺める。確率にして五分の一ほどだ。三年の担当教員たちは就職指導で選考から外されるため、一年生と二年生の教員を合わせた全十人の中から二人。当たってほしい観劇なんかでは外れるのに、よりによって二度目の人生で二度目のサマーキャンプ。

(最低最悪………)

「クライン先生!頑張りましょうねっ!」

「はぁ……」

「元気がありませんな!大丈夫ですよ、キャンプのテーマはこのボクが考えましょう!敢えての逆を取って雪山ハイキングなんか面白いと思いませんか?」

「思いません」

 即答すると、アーベルは少し怯んだような顔をして見せた。さすがに罪悪感がチクッと胸を刺すので「ハイキングは苦手なんです」と言い添える。

 どうかこれで、アーベルが何か別の案に乗り換えてくれたら良いのだけれど。コレット自身もテーマを考えると主張したけれど、先輩である彼からの強めの拒否があったので諦めざるを得なかった。

 もうすぐ六月に入って、プリンシパル魔法学校も試験期間に突入する。ピリつく学生たちと同様に教師陣もテスト問題の作成に追われるから、アーベルが率先してキャンプの内容を組んでくれるのは有り難いことなのかもしれない。




 ◇◇◇




「えぇっ、サマーキャンプの担当になったの!?」

「うん………」

 昨日の今日でまさか自分が本当に引率教諭に選ばれてしまうとは、未だに信じがたい。

 ズンとした顔で机に突っ伏するコレットに「御愁傷様」と声を掛けて、レイチェルは再びノートに向き直る。保険医である彼女は生徒たちの魔力測定の記録管理やらも任されているらしく、多忙だ。

「レイチェルもサマーキャンプに来ない?」

「行かない。夏場は涼しい室内で毛布を被って過ごすのが好きなの。わざわざ暑い場所に出て青春ごっこなんて出来ないわ」

「リアリストね………」

「ちなみに一緒に行くのは誰?」

「………アーベル先生」

「尚更行きたくない」

 げんなりした顔で肩を落とす友人を見て、コレットは絶望感を覚える。

 考えるまでもなく、都会が似合うレイチェルが自然と触れ合うサマーキャンプに参加するわけはないと分かっていたが、念のため聞いてみたらこの答え。もしかするとピクシー・ベルーガあたりなら、自慢のスクーターで同行してくれるかもしれない。

(そもそも参加者が居るのかしら?)

 昨日の帰りの会で告知の紙は配ったけれど、生徒たちの反応はイマイチだった。「一緒に行く先生次第ね」とミナを始めとする数人の女子は言っていたけど、その点で言うと期待は出来そうにない。

 落ち込むコレットの上でブブンッと電子音がして、消えていたはずのパネルが点いた。


「あら、緊急会見だわ」

 レイチェルは机から顔を上げる。

 どうやら応用魔法学の産物であるこのパネルは、レイチェルの魔力をもとに機能していて、セレスティア国内で放送される会見などを同時視聴することが出来るらしい。こうなるともう、魔力なのか科学なのか分からないところだ。

 パネルの中では軍服を着た厳つい男が彼の部下なのか数人並んだ若手と深刻な顔で話し合っている。やがて中継が始まったことを理解したようで、男は何度か咳払いをした末に口を開いた。


『本日は国民の皆様に残念なお知らせをしなければいけません……』

「なに?何なのよ、いったい」

 レイチェルが待ち切れない様子で溢す。
 コレットはただ黙ってその続きを見守った。

『実は……来月王宮で予定していた春夏秋冬祭が延期になります。理由としましては……あー、レオン王子が体調を崩されたのです』

「まさか!風邪で倒れる男じゃないと思うけど」

「知り合いなの?」

 コレットは驚いてレイチェルの方を向く。
 レイチェルは青い目を右へ左へと泳がせながら「だって頑丈そうでしょう」と言った。

 いつも比較的落ち着いている友人が見せる挙動不審な動きに、コレットは眉を寄せる。しかし、ジッと見つめたところでそれ以上の説明を受けることは叶わなかった。


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