上 下
44 / 68
第二章 シルヴィアの店編

41.王子は詰められる

しおりを挟む


「ノア、お前は一度でも自分の行いの尻拭いをする人間が居ることを考えたことがあるか?」
「尻拭い…?」
「お前が好き勝手遊び回っている傍らには、必ずそのケツを拭く親切な人間が控えているんだ。今だとウィリアムが上手く立ち回っているんだろうな」
「………、」

ノアは考える素振りを見せながら、話を聞いていた。

エレンは怒るでもなく、感情を露わにして喚くでもなく、ただ淡々と言葉を紡ぐ。その顔にはどこか諦めすら滲んでいるような気がした。

「何でもかんでも思いのままに操るお前に憧れていた。何をしても許される。欲しいものは必ず手に入る。自由で気儘きままなアルカディアの王子」
「……何が言いたい?」
「馬鹿らしく思ったんだよ。お前と同じように遊び、振る舞っても俺はお前と同等の特権を得ることはできない。五年前に刑罰を喰らったよ、知ってたか?」
「知らない」

だろうな、と自嘲的に笑うと、エレンは立ち尽くす私たちの顔を順に眺めた。

「よく一緒に行った南部の娼館を覚えているか?あそこに軍の仲間と行く機会があった。運悪く付いた女がお前の知り合いだったみたいで散々なじられて揉み合いになった。お前、いったい彼女に何したんだ?」
「……覚えていない」
「彼女は死んだよ。俺が手を出したんじゃない。倒れ込んで、打ちどころが悪かったんだ。だけど、警察はそうは思ってくれないようだった」
「………、」
「監獄から出て来たら、職も爵位も失ってたよ。冤罪えんざいも良いところだろう?本来であればお前が被るべき罪だ」

涙すら浮かべて力なくそう話すエレンを見ながら、私は娼館で初めてノアの接客をする際にヴィラから聞かされた警告を思い出していた。甘い言葉を多用する彼に本気になって後を追う娼婦が多いと、ヴィラは確かにそう言っていた。

信じたくないけれど、彼本人にその気があるかないかは別として、人を誤解させるようなノアの言葉は知らない間に女たちの心をもてあそんで、恨みや辛みを生んでいても不思議ではない。そしてその結果、エレンが被害を被ったというのは酷く気の毒な話だった。

「ここまでは俺の個人的な愚痴。そして、此処に集まった反王党派の奴らはみんな、雲隠れして国政に参加しないお前に不満を持ってる者たちだ。国王の影に隠れてその恩恵だけ受けようなんて、随分と虫の良い話だな」

エレンの言葉を受けて、取り囲むように近付いて来た男たちは椅子に座るノアに厳しい目を投げ掛ける。ノアはただ、片肘をついて変わらぬ顔でその話を聞いていた。

「俺たちが要求するのは、反王党派を正式にメンバーに加えた議会の開催。そして、お前の心からの謝罪だ」

私は頭の中でアルカディア王国の議会の在り方を思い出す。平和を重んじる現国王オリオンは、議会の構成を王党派と中立派に分けており、過激派とされる反王党派は慣例的に収集されていなかった。以前食事の場で、反王党派の意見も聞く必要があると頭を悩ませていたけれど、当事者である彼ら側にもその願望はあったようだ。

気になるのは謝罪を要求されたノアの出方。腕を組んで冷たい目を向けるエレンの顔を見上げて、薄く笑うとノアは立ち上がった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの愛は、もういらない

蜜柑マル
恋愛
サーラは、婚約者のライアンが義妹に夢中なため、いつも気をもまされていた。そのまま結婚したものの…。 暴力表現、性描写あります。 設定は緩いです。書きたくなり突発的に書きました。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
 猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。  しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。  その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!

東導 号
ファンタジー
雑魚モブキャラだって負けない! 俺は絶対!前世より1億倍!幸せになる! 俺、ケン・アキヤマ25歳は、某・ダークサイド企業に勤める貧乏リーマン。 絶対的支配者のようにふるまう超ワンマン社長、コバンザメのような超ごますり部長に、 あごでこきつかわれながら、いつか幸せになりたいと夢見ていた。 社長と部長は、100倍くらい盛りに盛った昔の自分自慢語りをさく裂させ、 1日働きづめで疲れ切った俺に対して、意味のない精神論に終始していた。 そして、ふたり揃って、具体的な施策も提示せず、最後には 「全社員、足で稼げ! 知恵を絞り、営業数字を上げろ!」 と言うばかり。 社員達の先頭を切って戦いへ挑む、重い責任を背負う役職者のはずなのに、 完全に口先だけ、自分の部屋へ閉じこもり『外部の評論家』と化していた。 そんな状況で、社長、部長とも「業務成績、V字回復だ!」 「営業売上の前年比プラス150%目標だ!」とか抜かすから、 何をか言わんや…… そんな過酷な状況に生きる俺は、転職活動をしながら、 超シビアでリアルな地獄の現実から逃避しようと、 ヴァーチャル世界へ癒しを求めていた。 中でも最近は、世界で最高峰とうたわれる恋愛ファンタジーアクションRPG、 『ステディ・リインカネーション』に、はまっていた。 日々の激務の疲れから、ある日、俺は寝落ちし、 ……『寝落ち』から目が覚め、気が付いたら、何と何と!! 16歳の、ど平民少年ロイク・アルシェとなり、 中世西洋風の異世界へ転生していた…… その異世界こそが、熱中していたアクションRPG、 『ステディ・リインカネーション』の世界だった。 もう元の世界には戻れそうもない。 覚悟を決めた俺は、数多のラノベ、アニメ、ゲームで積み重ねたおたく知識。 そして『ステディ・リインカネーション』をやり込んだプレイ経験、攻略知識を使って、 絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!  と固く決意。 素晴らしきゲーム世界で、新生活を始めたのである。 カクヨム様でも連載中です!

処理中です...