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第二章 シルヴィアの店編
15.王子は持て余す【N side】
しおりを挟む「……え!婚約者様が居なくなってしまったのですか?」
カーラは大きな瞳を揺らして、心配そうに両手を口に当てた。リゼッタが消えた後、様々な人間から叱責を受けて頭も身体も疲れ果てていた。
本来ならば、自分が探すべきなのだろう。大慌てで宮殿中を駆け回り、足を走らせて、見つけるまで帰ってこないぐらいの勢いを見せるべきだ。しかし、記憶のない今の状態では、婚約者であるリゼッタへ掛けられる情けなどなく、ただ面倒ごとを起こしたことへの苛立ちだけを感じていた。
だからこうして、二人の寝室も兼ねている自分の部屋へ、何の関係もないカーラを招き入れることにも抵抗がない。
「私のせいでしょうか?私がノア様の側に居たから…」
「いや、君のせいじゃない。ただ…」
言い淀んだ。リゼッタが出て行った理由はおそらく、最後の日に彼女に放った発言だ。まだ結婚もしていない婚約者相手に、パートナーを持つことを提案したのだ。ウィリアム曰く溺愛と呼ばれる愛を捧げていた自分から、そんな提案を受けるなんて裏切りも良いところなのだろう。
でも、リゼッタは怒ることはしなかった。責めることも、喚き散らすこともしなかった。ただ、記憶を失くした自分には価値がないのかと尋ねると、泣き出した。どんな言葉を掛けても既に手遅れで、結局その後はまともな話し合いも出来ず、気付けばリゼッタは居なくなっていた。
「ねえ…ノア様。婚約者が居なくなったらどうするんですか?」
「どうもこうもない。前代未聞な事態だろうね」
「新しい婚約者を募集されますか?」
「……どうだろう」
よく分からない不安がずっと胸の内にあった。混沌とした闇の中で、何も見えないような恐ろしさを感じていた。
「私では…ダメでしょうか?」
「カーラ、」
「ノア様の力になりたいのです…リゼッタ様にはあまり愛情が向いていないようでしたし…」
「…………」
「カーラならきっと、ノア様に愛される皇太子妃になれます!その方が将来の王国にとっても良いと思うのです」
太腿に手を這わしながら、そんなことを言い出すカーラの顔を見つめた。遊び相手には丁度いいと思ったが、婚約者となると話は別だ。
まさかの申し出に対して正直返答に困った。カーラは確かに一途に自分を想ってくれて、庇護欲をくすぐるような女性らしい愛らしさもある。しかし、将来を誓うにはあまりにお互いのことを知らない。
考えあぐねていると、部屋の扉がノックされた。
ウィリアムかと思ったので入るように伝える。
「次期国王ともあろうお前が婚約者に逃げられるとは、先が思いやられるな!ノア!」
大きな声を部屋に響かせて入場して来たのは、それまで宮殿を留守にしていた父親、オリオン・イーゼンハイムだった。
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