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第二章 ウロボリア王立騎士団
30 原因と究明
しおりを挟む「なに?つまり、貴方はローズの夫で、彼女がプラムを産む前に恋人同士だったけれどすれ違いで別れたってこと?それで騎士団で二人は運命の再会を……!?」
「そうですね。おっしゃる通りです。さすがローズのご友人、理解が早くて助かりますね」
「んまぁ…!そんな小説みたいな!」
驚きのあまり空いた口が塞がらないメリルを見ながら、私は胃がキリキリ痛んだ。
私が口を開いて事情を説明する前に、フランはすらすらと私たちの出会いから、プラムが彼を「パパ」と呼ぶ理由までを完璧に話してみせた。もちろんそれは殆どがでっち上げの壮大な空想物語だ。
時折私が視線を投げ掛けて、冗談も大概にしろと伝えようとしたけれど、フランはその度に作り物の笑顔を返すだけで聞き入れてはくれなかった。というか、そんな顔が出来るならば家でも愛想良くしてほしい。
「はぁ~しかし、プラムのお父さんに関しては今まで一度もローズが口を割らなかっただけに意外だったわ。てっきり行きずりの男が相手だと思ってたけど、随分と良い男じゃないの!しかも騎士ですって?」
「はい。二人が生活に困らないぐらいには支えていけると思います。家のことはローズに任せっきりですが」
すまないね、と穏やかな顔で言われては私も曖昧に頷くしかない。彼がこんなに演技上手とは知らなかった。
確かに資金面で援助は受けているけれど、実際は家の外に掃いて捨てるほど愛人がいると教えてあげればメリルの評価もきっと変わることだろう。
(外面は良いのね………)
私は呆れた顔でフランを眺める。
本当に底が知れない男だ。
◇◇◇
結局、昼食をレストランで済ませた後、メリルたちを交えて三時間ほどコデグの港を散策した。
ほとんどの間は公園で走り回る子供たちを観察する時間で、駆け回る三人は皆揃って嬉しそうに笑顔を見せていた。プラムも久しぶりにバニラとサルートに会えて良かったみたいだ。
ダースの一推しであるコテグの港から見る夕焼けは、確かに美しかった。赤く染まった空の下、追いかけっこをする子供たちを眺めてフッと口元を緩める。
「もしかすると、ローズさんやフランさんには仕事でまたお会いすることになるかもしれません」
口数の少ないバートンが別れ際にそう言った。
理解出来ない私にメリルが説明を添える。
「バートンは今、魔物の研究で王都とマルイーズを行き来しているの。なんでも、採取した細胞から本来の姿や魔物になった時期なんかを知ることが出来る装置を作ってるんですって」
「へぇ。研究も日々進んでいるんですね」
「ええ、魔物同士は共鳴しますから、最終的には人工的に共鳴を起こして魔物を誘き寄せることが目的です」
「………それは、必要なんですか?」
珍しくフランが否定的な声音で質問した。
前を向いていたバートンがフランを振り返る。フランはただ視線をプラムたちの方に投げ掛けたままで「悪く思わないでください」と前置きして話し始めた。
「魔物を狩るためには、そうした装置は役立つのかもしれません。だけど僕は、そもそも魔物になるに至った原因を解明した方が良いと思います。最近の増え方は尋常じゃない」
バートンは深く頷いて見せた。
「はい。フランさんのような考えを持つ研究者も居ます。ですが……魔物が魔物になる由縁は複雑です。自然に発生するものだと唱える者も居れば、黒魔法の影響だと言う者も居る」
「だから消していくしかないと?」
「発生する数は着実に減っているのです。討伐を行なって浄化すれば危険性も消える。今はまだ、研究は貴方の望むところまでは到達していない」
「………そうですか、」
それっきりフランは黙った。
私は話の続きをもっと詳しく聞きたかったけれど、残念ながらそのタイミングで子供たちの方から声が掛かって、ままごとのお客さんとして駆り出された。
振り返った先でフランの表情は見えなくて、強く吹いた風が黒い前髪を揺らしても、俯いた顔がこちらを向くことはなかった。
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