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第一章 女王とその奴隷
20.教育と成果
しおりを挟むさて、ミュンヘン邸での下女としての一日を何事もなく終えた私は、そのままバスに揺られて特殊風俗へと出勤しました。道中に食べたサンドイッチの味を歯磨きをして消し去り、受付の男に「今日の予約一覧」を見せてもらった時、私は自分の顔が引き攣るのを感じました。
「………ミュンヘン男爵がいらっしゃるの?」
「そのようだ」
「この店って、出禁はないのかしら?」
「出禁に値する理由でも?」
私は閉口してすごすごとプレイルームへと向かいました。彼は私の雇用主なので、とは口が裂けても言えません。「もうじきに到着するぞ」という受付の男の親切な教えに頷きながら、どうしたものかと考えました。
時給五倍の特別労働契約を結んだことにより、ロカルド・ミュンヘンはもうこの店には姿を見せないと思っていました。だって実際に、私が大声で出て行けと叫んだ日以降、彼は夜の館に来店しなかったのです。
私としても、正体を知った男が客として来るよりも、通常労働の延長として適当にあしらっていた方が気持ちが楽でした。面倒な化粧もしなくて済みますし、腱鞘炎になるほど鞭を振るう必要もありませんから。
「こんばんは、ここでは女王様と呼ぶべきだな」
時間通りにやって来たロカルドはどこか楽しそうでした。
私は苛々してまたタバコが吸いたくなって来ましたが、オデットの一件があって以降、やや控えていることもあり、なんとか思い留まりました。
「こんな真似をしてすまない。今日はメイドとしての君ではなくて、女王としての君と遊びに来たんだ」
「遊ぶ………?」
「実は昨日、ある使用人が主人である俺の手を縛ったまま屋敷の外へ逃げ出してね。散々な目に遭ったよ…ほら、まだ赤い」
私の目の前でシャツの手元を捲るロカルドの双眼を見据えたまま、この男はいったい何を望んでいるのだろうと考えました。それほど怒り狂っているなら、今朝の時点で私を叱責したはずです。彼は雇い主なので、あの場でクビにすることだって出来たのです。
黙りこくる私の頬に、ロカルドの手が触れました。
変なリズムで叫ぶ心臓の音が聞こえないことを祈ります。
「何が狙いなの?貴方、怒ってるの?」
「怒ってなんかいないさ。ただ、俺ばかりがやられっぱなしなのもつまらないだろう。今日は君を好きにさせてくれ」
「なに、言って……」
「ここは君のテリトリーだ。嫌なら逃げたって良い。受付の男を呼んでくれたって構わない。君に教育された俺がどれほどの成果を出せるか、少し見てほしいんだ」
私は青い双眼を見つめたまま、口付けを受け入れました。
女王としてのプライドが試される時が来たようです。
この一年あまり、私が彼にしてきたことを、この男はやり返すつもりなのでしょうか。蔑み、軽蔑し、穢らわしいと心の内で笑っていた私に、同じことを返すと。
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