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04 飯炊き女はメイドになる2

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 まだキスだけしか交わしていないのに、オリヴィアの脚はすでに震えていた。

 母から教わった緊張を解く方法を思い出す。
 相手のことをカエルだと思えば良いのだ。

 オリヴィアはベッドに腰を下ろしながら、隣に腰掛けるネロのことを緑色の大きなカエルであると思い込もうとした。ゲロゲロゲロ。それはそれで嫌だ。


「オリヴィア、今日の設定を伝える。君はメイドで、俺は太った汚い男だと思ってくれ」

「太った男……?」

「その方が都合が良い。罵倒してくれても良いから、とりあえずはそういう感じで進めよう」

「どういう感じですか!?」

 わけが分からず取り乱すオリヴィアの頭をネロは優しい調子でポンポンと叩いた。

「慣れれば分かってくる」

「はぁ……!?」

 彼の性癖が分からない。

 メイドが好きだとか弱いものを甚振りたいといった感情なら理解出来るけれど、ネロ自身までもが役に入る意味があるのだろうか?

 それに太った小汚い男だなんて、彼と真反対だし、なかなか想像力をもってして思い込めるものでもない。


「いやらしいメイドだ。屋敷の物を盗んだのか?」

「………いいえ」

「お前の嫌いな主人に抱かれる気分はどうだ。臭くて汚いと罵っていた醜い男だぞ…」

「すみません、中断しても良いですか?」

「どうした?」

 オリヴィアは息を吸ってネロを見据える。

「臭くもないし汚くもない陛下を醜いと思うことは出来ません。きっと馬の糞を被っても陛下は高貴だし、ちょっと想像に苦しむのですが」

「そこが君の腕の見せどころだ」

「そんなこと言ったって、」

「とりあえず嫌がってくれ。君だって進んでこんな話を受けたわけじゃないだろう?嫌がるぐらい、演技じゃなくても出来るはずだ」

「………それは、そうですが…」

 言葉に詰まるオリヴィアの服にネロが手を掛ける。

「脱がすぞ。良いか?」

「小汚い男ならお伺いは立てないでしょう」

 それもそうだな、と頷いてネロは一思いに制服のチャックを下ろす。外気に触れた上半身は肌が粟立つような感覚があった。気が張っているのが分かる。

 遠慮がちに伸びて来た手が下着の上からオリヴィアの胸に触れた。そろりそろりと持ち上げられた下着の下に、自分のものではない硬い手のひらが忍び込む。


「………っあ、」

 思わず声を発すると、驚いたようにネロは手を引っ込めた。

「すまない、嫌だったか?不快なら今日はこれで、」

「いいえ……ビックリしてしまって。というか、陛下。こんなに恐る恐るでは全然役不足です。メイドを襲う悪党になりたいのならば、私の両手を拘束するぐらいしないと」

「こ…拘束……?」

「はい。小汚い主人ならその程度のことはしますよ」

 オリヴィアは子供の頃に隠れて読んだ猥褻小説の内容を思い出しながらそう説明した。

 ネロは「そういうものか」と考え込みながら、やがて思い付いたような顔でするっとバスローブの紐を外すと、柔らかなその紐をオリヴィアの手首に巻き付けた。

「残念ですが、これではすぐに解けます」

「痛いことはしたくない」

「………左様ですか」

 少し満足そうに笑うとネロは身を屈める。

 オリヴィアは、自分の首元で熱い息遣いを感じた。くすぐったい。チロチロと猫のように肌を舐め上げるから、思わずそれに反応して身体が跳ねてしまう。


「面白いな。強気なメイドがしおらしくなった」

「醜い豚が汚い舌で私の身体を汚すので」

 吐き気がしました、と言い添えると、ネロは少しだけ目を丸くしてやがて乾いた声で笑った。

「なかなか楽しんでるじゃないか。それで良い。そのまま続けてくれ、オリヴィア」

「かしこまりました」

 合意を示すオリヴィアの前でネロは鬱陶しそうに白いローブを脱ぎ捨てた。下着一枚になった彼が取り出した暴君を見て、思わず息を呑む。

「………え?」


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