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プロローグ

ヒーローは異世界でお巡りさんに就職したようです

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「これで終わりだ、ワイズマン!キルマオォォォーFファイナルストライィィクゥッッ!! 」

 天草 救人あまくさ きゅうとは愛と正義の変身ヒーロー【キルマオー】である。
 救人の正義の叫びによって、彼の家に代々伝わる神秘の”生体強化鎧”【魔装鎧まそうがい】は次元の壁を引き裂いて顕現、救人と融合して無敵の超戦士【キルマオー】となるのだ!

 いきなりだが、悪の秘密結社『イーヴィル』との、長く苦しい闘いも、いよいよ終焉の時を迎えようとしていた。
 
 強敵、大首領ワイズマンの三度に渡る形態変化に苦しめられたキルマオーであったが、何度倒れようとも正義の血潮を燃え上がらせ、不屈の闘志で立ち上がるキルマオーの攻撃に、とうとうワイズマンが膝を屈したのだ。
 その隙を見逃さず、キルマオーは最大最期の必殺技【キルマオーFファイナルストライク】を発動する。
 超高圧エネルギーを発生させ、両の拳を揃えて螺旋を描くように激しく回転しながらワイズマン(最終形態)へと飛翔するキルマオー。

「グオォォォォォォォォォッッ!? おのれ!おのれ!! キルマオォォォォォォーーーッ!! 後一歩のところでぇぇぇぇぇっ! だがワシ独りでは死なん!貴様も道連れだ!永遠に時空の狭間を彷徨うがいいぃぃぃぃっ!!!! 」

 ーーーー 閃光  ーーーー

 そして……、辺り一面が紅蓮の炎に包まれ、大爆発が天地を揺るがす。

 こうして悪の秘密結社『イーヴィル』は、大首領ワイズマンの最期と共に滅び去ったのだった。

 しかし、我等がヒーロー【キルマオー】の姿も忽然と消えてしまった。大首領ワイズマンの呪いの叫びの通り、【キルマオー」は時空の狭間へと消え去ってしまったのだろうか……?








「もし、お嬢さんや、すまんが此処にはどうやって行ったらいいんかね?教えて下さらんか?」

 〈警備隊詰所〉と看板が掛かった建物を覗き込み、中のテーブルに座っていた赤毛の女性警備兵、通称”婦警”へと老婆が声を掛けた。

「ん?なあにお婆ちゃん、道に迷っちゃったの? どれどれ……?」

 老婆が持っていた街の地図を覗き込み、印の付いた住所を確認する赤毛の婦警。

「ああ、ここね!大丈夫、ここからそんなに遠くないわ。けど、路が入り組んでて分かり辛いかも? …そうね、ちょっと待ってて、が連れてってあげる!」
「本当かい!? そりゃ助かるよ、ありがとう婦警さん 」
「いいの、いいの! じゃあ、ここで座って待っててね、今を呼んで来るから 」

 にっこりと、優しい笑顔で老婆に椅子を勧めると、詰所の奥へと入っていく婦警。彼女は詰所の奥にある休憩所のドアを開けると、老婆に対して向けていた態度をガラリと変えて、中に居た少年を怒鳴りつけた。

「ちょっと! いつまで飯食ってるんだい!サボってんじゃないよ!」
「わわっ!? びっくりした~~! ヒドイなミーナ先輩、いつまでも何も、俺さっき巡回から帰って来て、今いま食い始めたばっかりですよ?」

 と呼ばれた少年が、口の端にパン屑をつけたまま慌てて振り返ると、婦警に向かって不満気に言葉を返す。

「あ~~っ!うるさい、うるさい!新入りが生意気言ってんじゃないよ!お仕事だよ、オ・シ・ゴ・ト! 困ってるお婆ちゃんがいるんだ、さっさと来な!! 」
「痛いいてててててっ!? ちょっ!先輩、耳!耳が千切れちゃうって!? 」

 有無を言わさず少年の耳を引っ張って席から立たせると、そのまま少年を引きずって歩き出す婦警。

「あ~~痛て、酷えなあミーナ先輩!マジで千切れるかと思った!? 」
「うるさい! いいから、さっさとこのお婆ちゃんを案内してあげなさい!」

 ヒリヒリと痛む耳を撫りながら、キュウトは涙目になってミーナを恨みがましく見るが、結局”うるさい”の一言で切って捨てられてしまった。

「すまないねえ、本当にええんかのう?」
「あっ!? いいよお婆ちゃん、気にしなくて大丈夫! どれどれ? ……ああ、ここね!うん、分かったよ。ん?その荷物も重そうだね?俺が持ってってあげるよ 」
「おやまあ、優しい”お巡りさん”だねぇ、ありがとう、助かるよ 」
「いいよ、いいよ!それじゃあ行こうか!」

 にっこりと笑いながら、老婆を案内するべく先導して歩き出すキュウト。当然、老婆の歩みに合わせてゆっくりとだ。

 そう、我等がヒーロー、愛と正義の超戦士【キルマオー】こと『天草 救人』は、悪の大首領ワイズマンの最期の攻撃で、時空の彼方へと弾き飛ばされてしまった。

 だが、彼は生きていた!正に”日頃の行い”が幸運を招いたか、救人は弾き飛ばされた先で別の世界へと転移していたのだ!

 彼が転移した世界の名は【グランバルド】地球とは全く異なるファンタジー世界である。
 そしてこの街の名は【メイズロンド】この世界にはいくつも存在するダンジョンの側に造られた、比較的大きな冒険者の街だ。
 あの戦いで大怪我をして倒れているところを、冒険者によって発見、救助されたのが約半年前。
 それから救人は、”キュウト”としてこの街で生活を始めることにしたのだが、ここは全くの別世界、いや異世界。当たり前だが、頼るべき人も知り合いすら一人もいない。

 「働かざる者食うべからず」である。だからキュウトは就職した。

 ーーそう、

『ヒーローは異世界でお巡りさん警備兵に就職したようです 』






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 すいません、ふっと(面白そうかな?)との思い付きだけで書き始めました。別の作品が主ですので、こちらは相当不定期更新になると思います(汗)
気長にお付き合い下さると嬉しいです。
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