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報告書 2

日報 20

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「ここは………?」

 ミーナが目を覚ましたのは小さな小部屋のベッドの上。自分の部屋ではないが、簡素な作りではあっても、掃除の行き届いた清潔そうな部屋だった。

 まだ意識がはっきりしないのか、どこかボゥッとした目で夕暮れの光が差し込み、赤く照らし出された部屋の中に視線を泳がせる。

 光の先を目で追えば、窓から見える雲は赤々と彩られていたが、夕暮れといっても既に夜が近いのか、空には藍色が混じり始めていた。

 焦点の定まらぬ目で流れる雲を眺めていたミーナだったが、暫くしてその目に漸く明瞭な意思の光が灯る。

「私……は、いったい…? はっ!シスっ‼︎ ぁ…っ、ぐぅっ⁉︎ 」
「ミーナさん、目が覚めましたか~って!動いちゃダメですよミーナさん⁉︎ 」

 さっきまでの戦闘を思い出し、ベッドから跳ね起きようとしたミーナの体を激痛が襲う。その激痛によって起き上がれず、ミーナがベッドの上で苦痛を堪えていると、ちょうどタイミングよく通りがかった少女が慌てて声をかけた。

「ナールス?じゃあ、ここは治療院…か?いや、離せナールス!私はこんな所で寝ている訳には!バーサーク・ボアが!シスがっ⁉︎ 」

 必死になって立ち上がろうとするミーナを押し留めようと、ナールスと呼ばれた少女もミーナの肩を押さえて必死に宥める。

「お、落ち着いて下さいミーナさん⁉︎大丈夫、大丈夫ですから!そもそもミーナさんを治療院ここに運んで来たのはシスティーナさんですよ?それに、さっきミーナさんの様子を見に来た警備隊の方の話では、そのバーサーク・ボアも無事に倒されたそうです。だから落ち着いて下さい、ミーナさんにはまだ安静が必要なんですから!」
「倒された?バーサーク・ボアが?無事?シス…ティーナ……も?」
「はい!ですから大丈夫です!」

 ナールスの言葉に反応して、やっと暴れるのを止めるミーナ。同じ女性とはいえ、片や治療院助手と警備隊の分隊長、怪我はしていても身体能力が違うため、自分から暴れるのをやめたミーナの様子にホッと息を吐くナールス。

「ほらほら、知ってると思いますが、当治療院ウチレベルで一気に治せるのは、精々6~7割までです。治癒魔法で一応骨折や打撲の治療は終わっていますが、完治している訳じゃないんですからね?まずはしっかりと安静にして下さい。でないと、治るものも治りませんよ?」

 この世界における一般の治癒魔法とは、あくまの魔法でしかない。
 確かに高位の神官による《神聖治癒魔法》という欠損部位まで蘇生させるような魔法も存在するが、その治療を受ける為には莫大な寄付が必要になる。
 その為、《属性魔法》や薬草を使用した方法で、重傷・重症の患者の病気やケガを、命の危険が無いレベルまでは魔法で治し、後は自然治癒に任せるという、あくまで完治までの期間を短縮するというやり方が一般的な治療方法なのである。
 
 なので、一気にある程度までは回復したとは言っても、まだまだミーナの身体にはかなりのダメージは残ったままなのだ。

 思ったより素直に横になったミーナへとシーツをかけ直しながら、注意事項を言うナールス。そんなナールスに対して、先程の言葉の意味をミーナは問い返す。

「ここに私を連れて来たのがシス…システィーナだって?システィーナはケガは?大丈夫だったのか?」
「ハイ、埃まみれではありましたけど、特にケガとかはされていませんでしたよ?そうそう、一緒に居た見覚えの無いが、ミーナさんを担ぎ上げて連れて来てました 」

 それを聞いて、やっと険しい表情を解き、ホッと安堵の溜息を漏らすミーナ。

「女の…子?ああ!いや、そうか、良かった……。じゃあ、バーサーク・ボアは警備隊が倒したのか?」
「いえ、それが…、警備隊の皆さんの話では、駆け付けた時には既にと……。それでミーナさんを担いで治療院ここに向かうというシスティーナさんに後始末を頼まれたそうですよ? 」

 ナールスの言葉を聞き、それまで安堵を浮かべていたミーナの表情に、またも険しい色が混ざる。

「既に倒されていた…だって?」

(「どういう事だ?あのバーサーク・ボアは通常のモノより1ランク…いや、2ランクは上の強さを持った個体だった。ソレを警備隊ではない誰かが倒した? 誰が…………? まさか!っ⁉︎ 」)

「じゃあミーナさん、ちゃあんとおとなしくして下さいね?また様子を見に来ますね、ゆっくり休んで下さい 」

 思考の中に沈み込んだミーナの様子を勘違いしたナールスは、他の病室を見回るべく部屋を出て行く。

 しかしこの数時間後、再び巡回に来たナールスは、すっかりになったミーナのべッドを発見することになる。

 そんなナールスが部屋を出て行った事にも気付かないほどに、思考に没頭していたミーナはどこに行ったのか?

 その答えは………。

「シスぅっ!無事かぁぁぁぁぁっ⁉︎ 」

「何やってるんですかぁ、ミーナさぁぁぁんっ‼︎ 」

 無論、システィーナの居る教会なのだが、そのミーナが今どうしているかといえば、現在システィーナからの絶賛お説教され中なのであった。

 折れた腕を包帯で吊り、全身至る所にに包帯を巻いた痛々しい姿でありながら、大事な妹分のことが心配で居ても立っても居られなかったミーナ。
 
 …それに、さっきの話しの中で、どうしても気懸りな部分があった。

 その為、何とかナールス達看護婦と呼ばれる治療院助手達の目を盗み、杖を突きつき教会までやって来たのだが……。

 待っていたのはシスティーナからの盛大なお説教であった ーーーー 。
 
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