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第19章 ヒロト先生の新型ゴーレム開発日誌 1
第154話
しおりを挟む「絵、絵が勝手に動いてる!いったい何がどうなってるんだっ!? 」
「何っ!何これっ!? どうなってんの!? 」
リアルではあるものの、単なる"絵"だと思っていた物が突如として動き出し、その訳の分からない現象に目を白黒させて吃驚しているセイリア達。
しかしスゴイな、マジで"カメラ"と"モニター"じゃないか。魔道具のモニターディスプレイに釘付けになっている面々を横目に、珍しく悪戯っ子のような表情で笑っているメイガネーノの方を見る。
どうやらメイガネーノの持つあの懐中電灯のようなモノがカメラ部のようだが、彼女が右に左にとそれを動かすことで画像も動くため、その度に大きな声で驚愕の声を上げるセイリア達は画面の方を注視するばかりで、その事にはまったく気が付いていないようだ。
ふむ、これはあのネタが出来るかな?
俺は人差し指を唇の前に立てて、し~っとメイガネーノに合図を送ると、そ~っとその場を離れる。
部屋の端まで離れたところでもう一度メイガネーノに向かい、"カメラをこちらに向けろ"とジェスチャーで合図を出した。
メイガネーノは俺の悪戯の意図にすぐに気が付いたようで、クスクスと小さく笑いながら、俺の方へとカメラを向けてくれた。
その途端 ーーーー 、
「ヒ、ヒ、ヒロトっ!? なぜヒロトが絵の中にっ!」
「どどど、どういうことだっ?ま、まさか中に吸い込まれたのかっ!? 」
「ひいぃぃぃっ!? ヒ、ヒロト様、今お助けしますぅぅぅっ!! 」
あっ!ヤベっ!? セイリアの奴、テンパって刀を抜きやがった!?
「わぁーっ!? 待て待て待てっ!違う違う、ここ、ここにいるからっ!セイリア、刀を下ろせっ!」
慌てて魔道具に向けて刀を振り下ろそうとしているセイリアを抱き止めた。
「えっ!あ、あれ?ヒ、ヒロト様!? よ、よがったあぁ~~~~~~っ!」
俺の無事な姿を見て安心したのか、刀を放り出して泣きながら抱きついて来るセイリア。
セイリアの行動に驚いてはいたものの、メイガネーノはまだしっかりとカメラを俺の方に向け続けているため、モニターには俺とセイリアの姿が映っていて、ゼルドやクローレシアは目をパチパチさせながら、何度もモニターと俺達の方を見比べている。
「え?えっ!なんじゃこりゃぁぁっ!? 」
「ヒロトと、セイリアが二人!? 」
う~~ん?俺としてはまだテレビが液晶パネルではなくブラウン管で出来ていて"箱型"だった頃の『昭和』の時代、初めてテレビを見た人の「箱の中に小さな人がっ!? 」ってネタがやりたかったんだが……。
基本、セイリアも脳筋気味だということを忘れていた。
まさか昭和生まれの典型的な思い込み、"調子の悪いテレビは叩けば治る!"的な行動を取るとは…っ!?
ちなみに"パソコン"が普及し始めた当初、オフィスなんかでもフリーズしたりで調子が悪くなったパソコンを、例の理屈でバンバン叩いているお父さんの姿も多かったり………。
よく考えれば、精密機器なんだから叩いて治るなんてことはあり得ないんだが、思い込みって怖いね!
閑話休題 ーーーー 。
「あ~、取り敢えず、落ち着けお前等。コレはメイガネーノが作った"物の姿形を写し取る魔道具と、その写し取った姿を映し出す魔道具だ。そうだな、メイガネーノ?」
「あ、はい!その通りです。…でもさすがですねクーガ先生、他の人は最初はまったく分かりませんでしたよ?」
まあ、その辺はさらに高度にしたものが、俺の義体にはいくつも搭載してあるからなぁ…。
「いやいや、しかしスゴイじゃないかメイガネーノ、いったいどういう仕組みになってるんだ?」
「ありがとうございます!でも、実はこれも失敗からたまたま偶然出来たモノなんですよね…。本当は、ピカーッ!って強い光を出す魔道具を作りたかったんですけど、間違って〈魔術回路〉を逆に組んでしまって、光を出すんじゃなくて、吸い込むようになったらしくて 」
…"光を吸い込む"とは何ぞや?う~む、魔法パゥワの関係した不思議物理はよく分からん?が、多分"吸い込む"ではなく取り込むの方が正しいんだろう。
実際、カメラは人間の目と同じように、光の情報を電気信号に変換することで撮影している。
"見える"ということは、光の反射を視神経が捉えている訳だ。色の違いは反射の際の光の波長の違いで認識されている。だから夜になり、暗くなると光量が足りなくなる為に"見えなく"なる訳だな。
「面白い!ね、ね、メイガネーノ、私もやりたい!できる?」
「あ、大丈夫ですよ!こっちの魔道具の正面を映したいものに向けるだけですから。どうぞ 」
初めて見る魔道具に興味を惹かれ、我慢出来なくなったクローレシアが、自分もやりたいとメイガネーノにおねだりを始めた。それをメイガネーノは嫌がりもせず笑顔でクローレシアに魔道具を渡すと、受け取ったカメラの魔道具をあちらこちらに向けてはクローレシアは歓声を上げる。
それから今は泣き止んで、既に落ち着いたセイリアと二人でお互いの姿を写しあってキャイキャイとはしゃいでいた。
察するに、メイガネーノの魔道具は正面に着いている水晶?のようなモノが光を集め、〈魔術回路〉を逆転させてしまったこと、取り付けてあったのが〈光属性〉の魔晶石であったことで、偶然カメラのような機能を持った魔道具が出来上がったのだろう。
「そうか、じゃあそっちの姿を映し出す鏡みたいな魔道具はどうしたんだ?」
「こっちはですね~、元々はこんな事に使うんじゃなくて、ほら、ガラスってすぐ割れちゃうじゃないですか、だから、魔晶石を砕いた粉を板ガラスに塗して錬成してみたんですけど…、強度はすごく上がったんですけど曇りガラスみたいになっちゃって、これじゃ使えないな~って机の上に置きっ放しにしていたんです。それで、こっちの魔道具を弄っている時に「光が出ない~!?」ってあれこれ振り回してたら、魔力の充填用に繋げていたコードがたまたまガラスに触れて、「あれ?何かが映ってる!?」って。どうですか?面白いでしょう、これ!」
なるほど、ってか"たまたま"多いなっ!?
"偶然"に愛されているというか、はたまたアフィーのような"発明を司る神"の加護のようなモノを授かっているのか?とにかくメイガネーノの発明は、発想から外れたところでの偶然が重なって成果に繋がることが多いようだ。
しかし、コレは本当にいい。【魔導強化外殻】の外部視認用のモニターカメラにピッタリだ。
やはりコクピット部の装甲は防御力を上げる為にも厚く、なるべく隙間が無いように閉じてあった方がいい。実は「秀真の國」で【魔導強化外殻】を使用した時には、視覚的には戦車のように細い隙間を外部視認用に開けて、僅かに正面の確認が出来ていただけで、後はセンサー代わりに〈気配察知〉や〈索敵〉、〈壱乃牙 覚〉をフルに使用して戦っていたのだ。
俺の目はズーム機能も付いた高性能の義眼である。その為僅かな隙間からでも充分に外部の確認は出来たし、本物の【強化外殻】のセンサーのように"気"やスキルで外部情報を読むことだって出来たが、そんなことは他の人間には絶対に無理だ。そういった意味でも【魔導強化外殻】の魔法術式は俺にしか十全に扱えないだろう。
そうなると、【"魔道具式"強化外殻】を造れたとしても周りを確認する為にはコクピットはある程度「開放式」にしなければならないか?と思っていたのだが、このカメラとモニターの魔道具があれば全て解決出来る。
これは色んな意味で大進歩だ。
「ああ、確かに面白い。俺の目的とするゴーレムにもバッチリだ。ゼルド、お前はどうだ?」
「いや…、どうだ?って言われても、こんな魔道具は初めて見るしなぁ…、けど、面白いとは思うぜ?すぐには思いつかないが、考えれば使い道なんざいくらでもありそうだよな 」
「そうだな、この魔道具の可能性は凄いぞ?メイガネーノ、この魔道具はもう担任には見せたのか?さすがにコレなら評価は貰えただろう?」
俺の問いに真面目に答えて返すゼルド。初見のモノであるためにはっきりとは言えないようだが、それでもゼルドなりにこの魔道具の有用性や発展性は見出してはいるようだ。
対して俺の言葉を聞いたメイガネーノは、それまでの嬉々とした表情を一転させて途端に"どよ~~ん"とした空気を纏う。………まさか?
「『面白い、のは認めるが、ただ"写す"だけでは評価出来ない』って言われました……… 」
"どよ~~ん"とした雰囲気を更に重いものにして肩を落とすメイガネーノ。
「なあゼルド。大丈夫なのか、この学院の教師は?マジで無能な気がしてきたんだが……?」
「………さすがに俺も心配になって来た。これ程の魔道具を正当に評価出来ないとは……。イラ叔母さんにも教員の質や採用について相談しなきゃならねーな…… 」
むむ…っ!っと眉根を寄せて表情を曇らせるゼルド。
だよなぁ…、さっき言った【魔道具式強化外殻】のモニターカメラの他に、街の門などの監視カメラや重要施設の警備用カメラなど、これ程便利で画期的な魔道具ならば、使い道などいくらでも考え付くはずなのだ。
人材を育てる為の教育機関なのに、育てる側の教師が無能では意味がない。この国の王子でもあるゼルドとしては頭の痛い話だろう。
「ねぇねぇ、メイガネーノ!コレ本当に面白い!…んだけど、音は出ないの?」
セイリアやラーナちゃんと、お互いにカメラ魔道具を向け合って盛り上がっていたクローレシアだったが、この魔道具の今のところの唯一の欠点である"音声が出ない"ことを指摘してきた。
こればかりは仕方がないよな?と、思っていたのだが、メイガネーノは「ちょっと待って下さい!」とクローレシアの疑問に即座に反応する。出るのか、音?
「ごめんなさいクローレシア様、それは姿形を映し出すだけで、音は出ないんです。でも、その代わりにこんなのもありますよ?」
そう言ってメイガネーノが近くの棚から持って来たのは別の魔道具。その魔道具は、大きさが直径二十センチほどの、金魚掬いのポイを大きくしたような形をしたものが台座に嵌っているという造りで、その数は二つ。
二つでワンセットなのか、そのうちのひとつをクローレシアに、もうひとつをセイリアへと渡すメイガネーノ。
「じゃあですね、クローレシア様もセイリア副会長も、今渡したそれに魔力波動を流して下さい 」
「分かった。……こう?」
「 これでいいのか?」
メイガネーノから渡された魔道具を手に持って、意味が分からないながらも言われた通りに魔力波動を流すセイリアとクローレシア。
ーーー ブッ、ブブッ!ビイィィィィィィィン……… ーーー
"ポイ"の輪っかの部分には、金魚掬いの時の紙のように、何かビニールのような、薄くて透けるものが貼り付けてあって、セイリア達が流した魔力波動に合わせて振動し始めた。
「はい、大丈夫です。じゃあですね、セイリア副会長、その魔道具に顔を近付けて、何かを喋ってみて下さい 」
「は?えっ…と、急にそう言われてもな………。え~、『こんにちは』?」
急に何かを言え、と言われてもそりゃ困るよな。暫し悩んだ挙句、セイリアが口にしたのは無難な挨拶の言葉だったが、セイリアが口を近付けて『こんにちは』と言ったのと同時に、クローレシアの持つ魔道具も振動を始め、驚くべきことが起こったのだった。
ーーー ブッ ブブッ『ゴン…ビッ…ヂワ…ビビィ…』ーーー
………っ!!!?
「わっ!何か聞こえたっ!? 今のはセイリアの声!? コレも面白いっ!」
クローレシアが言う通り、ノイズだらけだったしくぐもっていて、非常に聞き取り辛かったが、今のは確かにセイリアの声だった。
ちょっと待てよ!これって…!?
「へ~、コレは"音の出る"魔道具か?」
「今のはセイリアお嬢様の声ですよね?」
「ビリビリ言って聞こえ辛いですけど、こっちの魔道具とセットで使うとちょっといいかな?って思います。どうですか?」
「うん、面白い!」
俺の内心の驚きを余所に、作ったメイガネーノを始め"面白さ"だけで盛り上がる一同。
いやいやいや、おいおいおい…、お前等気付いていないのか?
コレは"面白い"で済む代物じゃないぞ………っ!?
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