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第17章 強制レベルアップ祭り in 魔の森

第134話 ゼルド回想録 1

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 俺はゼルド・ラグ・ロードベルク。自分で言うのは烏滸おこがましいが、この国、ロードベルク王国の第二王子だ。国営の人材育成機関である【王立高等魔術学院】の四回生で、生徒達の代表として『統制会会長』も務めさせてもらっている。
 ついでに言うと、現学院内ランキング上位の【学院十傑衆】では筆頭、詰まり学院最強

 ……そう、だ。世の中は広く、俺などまだまだ未熟者……。 俺は今、それをまざまざと痛感している。今日は、その辺りのことを話させてもらおうと思う。


 俺達の国ロードベルクは、この大陸でも有数の大国で、広大で肥沃な大地に恵まれ各種産業だけでなく海にも面している為に海運業も盛ん、という豊かな国だ。
 だが、この国が他国に比べて最も優れ、抜きん出ている点は、何より"人材の豊富さ"だろうと思う。
 周辺国は未だガチガチの身分制度に凝り固まった封建体制の国家ばかり。がどうのこうのと、身分の差や種族差別ばっかりで、宝の山一般の人材をみすみす見逃してやがる。まったく勿体ねえ話だ。

 その点、ウチの国は違う。六百年前、〈大戦乱〉で侵略されかけた我が国を救い、【英雄王】と呼ばれた中興の祖、【ジークランス・リグロス・ロードベルク】様は、『民衆こそ国の宝』と、貴族階級だけでなく、身分、種族関係なく広く人材を登用する制度を作ったんだ。おまけに未来の人材を育てるべく教育制度も充実させたお陰で、今現在も我が国は官民ともに優秀な人材に恵まれ、小さな小競り合いはあるものの、この六百年間戦争も無く発展をし続けている。

 だが、平和が続いて豊かであれば、や、陰で悪さする奴ってのは必ず出て来る。長期政権の弊害ってやつだな、ある意味こればっかりは仕方ねぇ。

 まあ、当時国内でも特権意識の塊みたいな連中の抵抗はあったらしいし、今でも身分や権力を嵩に着た横暴な貴族は居なくなった訳じゃない。ここ最近では《土属性》の魔力を持つ貴族達が中心になって『正統復古主義派』とかを掲げて、"貴い血筋による古き良き統治の姿を取り戻す"だが何だか、訳の分からねぇ自分勝手な御託を並べる連中が喧しいみたいだが……。

 厄介な事に、その派閥のトップは王族に次ぐくらいの高位貴族だし、奴等《土属性》持ちの《土人形創造ゴーレムクリエイト》で造り出す巨大なゴーレムは、"巨獣"が王都に現れた時の防衛の要であるのは事実の為、どうしても発言力が強くなるのは仕方がないが、ここ最近はどんどん横暴さが増して、本来連携を取るべき【王国騎士団】や他の属性の【宮廷魔術師団】の魔法使い達を、まるで"格下"のように扱ってやがる!

 だが、今の防衛体制では巨獣の侵攻の足止めには奴等のゴーレムが必要なのもまた事実……。
 まったく忌々しいぜ!何かゴーレムに代わる他の防衛案が見つかりゃいいんだがなぁ……?
 
 まあ、この前のヒギンズのクソ親父じゃねぇが、調子くれてる連中のことは、親父国王が裏で秘密裏に『国内正常(清浄)化計画』を進めてるみたいだから、奴等の運命もそんなにとは思うがな…クックックックッ!

 
 ま、そんなことはともかく、言いたかったことはそんな事じゃねえんだ、実は、ここ数ヶ月の間に、俺の持ってた"常識"ってヤツは、次々と塗り替えられた。いや……、違うな、何でも分かったつもりになってた思い上がりのクソガキが、その狭い了見と一緒に小っせえプライドも何もかも木っ端微塵に打ち壊された……ってトコロか。



 始まりは、武神の爺ちゃんの体調が悪いとの報せが届き、急遽学院を休学して里帰りしていたセイリアが、ほぼ一ヶ月振りに復学した日のことだった。

 セイリア帰還の報をいち早く掴み、馬車の発着場である学院の正門前のロータリーには、早朝から大勢の生徒達が詰め掛けていた。
 当然、小さくないが予想された為、セイリアを陰から護る為に結成された、俺達【セイリア親衛騎士団】も有事に備え集結していた。

 暫くするとキサラギ家の紋章を付けた馬車が到着し、カークスさんとスケールの兄貴が恭しく馬車の扉を開く。専属(護衛)侍女のラーナ、執事姿のレイ叔父さんの後に馬車の中から現れたのは、何故か皆が待ち望んだセイリアではなく、パッとしない黒髪の冒険者風の男だった。
 
 皆が訝しむ中、その男は馬車の中へと手を差し伸べ、何とセイリアをエスコートしだしたのだ!?

 しかも!しかもだ!? 冷たくも素っ気なくもないが、『剣の修業に色恋は無用』と、"恋愛には全く興味が無い"と言っていたセイリアが、この俺でさえ見たこともない輝くほどの笑顔で、嬉しそうにその男の腕を抱きしめているっ!?

 喜びに包まれていた正門前は、一瞬で嫉妬の怨嗟と悲鳴、嗚咽の声が響く"嘆きの地"と化した。

 俺はすぐ様、事情を知ってるだろうクソ親父国王を問い詰めるべく城へと戻ったが、城門前で偶然会った第一王子で王太子のザイン兄貴とともに、執務室へと向かった。
 だが、兄貴と一緒に親父やお袋と話していたところへ、何故かレイ叔父さんがその黒髪の男を連れて来やがったのだ。

 そいつの名は『ヒロト・クーガ』、お袋からキツいを喰らい、気絶していた所為で親父達とそいつの話しの始めの方は分からないが、ならず者の傭兵崩れにセイリアが拉致誘拐(!?)されかけ、たまたま居合わせたコイツが助けたのだという。その縁でコイツを気にいった武神の爺ちゃんがセイリアの婚約者にしたらしい。

 おまけにセイリア誘拐に加担したらしい郷の裏切り者が、逃げる為に使ったの禁制アイテム【邪釣餌イビルベイト】によって、二万を超える上位魔獣達が『秀真の國』に押し寄せて来たという。
 その際、南側を秀真武士団が、北側をコイツとセイリアのたった二人で担当したらしいのだが、親父が言うには、その万を超える魔獣の群れの殆どをコイツが殲滅し、更にはその後に現れた伝説の巨獣【黒殻龍蟲ブラック ドラゴビートル】まで、ほぼひとりで討伐してしまったという。

 まさか、と、あり得るはずがない、と、爺ちゃんのフカシ悪ふざけだと決めつけた俺とザイン兄貴は、愚かにもセイリアの婚約破棄を賭けて勝負を挑んだ。

 結局、レイ叔父さんからの条件で、直接対決じゃなく、俺達二人対、一緒に来てた【蒼い疾風ブルーソニック】の四人との変則マッチとなった。ただ、それでもその四人が先日〈ランクC〉に昇格したばかりと聞いて俺も兄貴も不満だったんだが、結果は惨敗……。後から聞けばソニア達は、俺達を三十秒で倒せとレイ叔父さんから言われていたらしい。それを聞いて、さらにヘコんだのは言うまでもないよな……?

 その後にレイ叔父さんから聞いた黒髪の男『ヒロト・クーガ』の真の実力は、なんと冒険者ギルド三千年の歴史上三人目の〈ランクSSダブルエス〉、レベルは推定でもLv200以上の「神話級」との驚愕の事実。

  本っ当ぉ~~~~~~っに馬鹿だよな……、当時の自分を思いっ切りボコってやりたいぜ……。
 その実力を肌で知り、今でこそこっちから頭を下げて教えてを請うて『教官』になってもらっちゃいるが、その時の俺は本当に物を知らない馬鹿だった。

 でもな、言い訳を言わせてもらえば、俺も兄貴も真剣にセイリアを想ってたんだよ!王族の決まりで『長命種との婚姻禁止』なんて仕来りがなきゃあ、俺だって! ……すまん、と、まあ、そんな訳で、その時はんだよ!だから任せられねぇってさぁ……っ!?

 自分が如何に身の程知らずだったかを思い知った後、レイ叔父さんからの真剣な「英雄王の末裔として精進して強くなれ」との薫陶は、情け無さに塗れた俺の胸に深く響いた。

 その後、俺と兄貴は親父から"名誉挽回"にヒギンズ男爵領強襲作戦参加の許可をもらい、【宮殿近衛騎士団テンプルナイツ】に合流したが、作戦の成功率を上げる為に急遽作戦内容を変更が告げられ、その作戦指導教官として再度現れたのが、クーガ教官だった。
 その時にはクーガ教官を侮る気持ちは綺麗さっぱり無くなっていたが、既存の〈飛竜ワイバーン〉を使用する作戦ではなく、目標地点到着後、《身体強化》を使用して飛び降りる事の出来るギリギリの高度で、直接〈飛竜〉の背から降下するという"飛竜空挺作戦"は、その場に居た全員の常識を覆した。更にはひと塊りで雪崩れ込むのではなく、チーム単位で担当区域を順次制圧していく手順や、制空権を確保し、作戦行動を阻害する脅威対象を排除、援護をする"航空支援"など、今まで見たことも聞いたこともないものばかりだったのだ。

 しかも、《魔弾》という魔法を撃ち込まれるという鬼のシゴキを受けながら覚え込まさせられた作戦は、作戦実行~制圧、目標確保までかつてない速度で進行し、人的被害もほぼゼロという信じられない程の作戦成功率、達成率を叩きだしたのだ。

 〈ランクSS〉、Lv200以上という規格外な実力に加え、元々鍛えられた騎士団とはいえ、独特の発想の元に立案した作戦と、その発案に沿って、たった数時間の教導で部隊単位の作戦成功率を劇的に向上させてしまったその手腕と指導力に、俺達を含め作戦に参加した全ての者が改めて驚嘆した。

 未練はあるが、俺も兄貴も完全に負けを認めて、返ってセイリアを任せるにはこれ以上ない相手だと、この時初めて諦めがついたと思う。

 その後も、今度は学院でひと騒動が持ち上がった。現実を認めたくがない為に、生徒達は皆あの日の事をとして振舞っていたが、ある日セイリアが、エルフ族では確たるパートナーがいる証、"耳飾り"を着けて登校して来たのだ。
 
 当然ながら校内は騒然、ただのファンから、貴族の婚姻事情を鑑みて、真剣に将来に一縷の望みをかけていた者まで、完全に望みを絶たれた形になったからだ。
 魔術学院は混乱の坩堝と化し、もはやマトモに授業が出来ない状態に追い込まれたが、その打開策として学院長であるイラ叔母さんが提示したのは、"セイリア対希望する全学院生徒"との決闘だった。しかも、セイリアが勝てば他の生徒達は今後セイリアの婚約についてとやかく言わない。だが、全校生徒のうちでも勝てば、交際等、恋愛的な申し込み以外はセイリアがなんでも言うことを聞くという、破格の条件だ。

 個人、パーティ、集団戦、何人でも、どんな方法でもセイリアひとりに勝てばいい ーーーー 。学院生徒達は当然色めき立った。これでセイリアの婚約を無かったものとし、自分達の手に取り戻せると……!

 結果、決闘を希望したのは錬金術科など、戦闘系の苦手な者や、それ以外の理由で辞退した者を除く、全学院生徒のおよそ六割、ひとり対六百人の決闘となったが、結果はセイリアの圧勝。たったひとりを除き、セイリアに擦り傷ひとつ負わせられないまま決闘の幕は降りた。

 多くの生徒達が驚愕と落胆に沈む中、俺の心中はでいっぱいだった。それは、数ヶ月前とは比べ物にならないセイリアの強さ。そして、そんなセイリアを鍛えたであろう"男"のこと。そして……如何に自分が傲慢で思い上がっていたかを。

 悩む俺の背中を押してくれたのは、イラ叔母さんだった。叔母さんは、ニッコリと笑いながら、俺にこう言った。

 ーー『一番敵わないと思う相手に、教えを請うてみよ……』 ーー と。


 一度は見た目だけで自分より弱いと侮り、恥を晒した相手。今更取り繕う体裁など何もない。だったら……っ!
 
 そう考えた俺は居ても立っても居られなくなっていた。お袋怒りの折檻にもめげず、その日のうちに王都のキサラギ屋敷の門を叩き、恥も外聞もなく頭を下げて頼み込んだ。


 ーー「ヒロト殿、いや、ヒロト様! どうか…、どうか俺にも稽古をつけてくれっ!! 」 ーー


 そう、一番敵わないと思う相手、クーガ教官に弟子入り志願したのだった……。








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