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第16章 冒険者な日々〈ヒロトのいない日〉
第113話 side セイリア
しおりを挟む修練場は、未だ静寂に包まれていた。今回の決闘には、何も本当に全学院生徒が参加していた訳では無い。主に参加していたのは騎士科、魔法科の生徒達であり、観客席には多数の錬金術科など生産・技術系学科の生徒達も多数観戦していたのだが……。
いつもの”学院内ランキング戦”であれば、勝者、敗者の別無く力の限り闘った者達に、惜しみ無い拍手が贈られ、歓声が響き渡っていただろう。
セイリアは【学院八傑衆】”第五席”、魔術学院においては間違い無くひと握りに入る強者である。当然生徒達はセイリアを含む【学院八傑衆】の圧倒的な強さは知っている。だが、たったひとりで一部隊、いや、それこそ一軍に匹敵する人数を薙ぎ倒すような隔絶的な強さなど、誰が想像しただろうか?
そんな話は、生徒達が幼い頃にお伽話の様に聞かされた、それこそ彼女の祖父達の”英雄譚”でしか聞いたことが無い。
そう、正に”お伽話”、本当にそんな事が目の前で起きるなど、誰も思っていなかったのだ。
一方、そんな”超ドン引き”状態を作り出してしまった張本人は、今だ戦場に居るかの如く、キリリと表情を引き締め、周りの動揺などまるで”取るに足らない”事であるかの様に悠然と佇んでいた。
ーーー表面上は……、
『ノ、ノノノ、ノア様っ!? こここ、これは、ちょーーっとや、やり過ぎだったのでは…っ!? 』
親しい者がよく見れば、その表情は引き締まっているのでは無く、”引き攣っている”と分かっただろう。その横顔には ツゥっと冷や汗まで伝っている。実はセイリア自身、引き起こした惨状に内心盛大に焦っていたりするのだった。
『うむ…、案ずるな!…と言いたいところだが、コレは…? ”学院生徒”というのは存外脆いの……、ち、ちとやり過ぎであったやもしれん………っ!? 』
セイリアの足元で、使い魔のフリをする【上級闇精霊】も、少々学院生徒達の実力を読み違えていたらしく、やや張り切り過ぎた結果累々として横たわる生徒達の姿に動揺が隠せない。
『どどどど、どうしましょう…っ!? 』
『あ、慌てるなセイリア!どのみち負ける訳にはいかなかったのだ、今後の事を考えれば、ま、間違いでは無いであろう?』
『で、ですが、あまりやり過ぎるとヒロト様にお叱りを受けませんか!? 』
『……そ、そそそ、それは……っ!? 』
内心の動揺を隠し、平静を装ったまま念話で会話を続ける二人だったが、ヒロトの名前が出た途端に挙動不審に陥入る黒猫。
実は、学院生徒達に対して”一騎当千”の戦いを演じたセイリアであったが、いくらセイリアがLv75に達したと言っても本来ならこれ程隔絶的な差は生じない。タネを明かしてしまえば、《影荊捕縛》を見ても分かるように、この黒猫のフリをした【上級闇精霊】がかなり手を貸していたのだ。
《千裂龍咆》にしてみても、現在のセイリアの実力ではここまでの威力は出ないのだが、ノアに頼まれた《風属性精霊》達がはしゃぎ過ぎた結果、通常の何倍もの威力になってしまったのだ。
『だ、大丈夫ですっ! お、お叱りを受ける時は二人一緒ですっ!』
『そ、そうか!た、頼むぞセイリア……っ!? 』
数々の経験を経て友情を育んで来た二人だが、またひとつ絆が深まった瞬間であった。
だが、そんな二人を、ただ一人事情を知るイラヤがジットリとした視線で見ている事を二人は知らない。間違い無くこの後に待っているのはお説教であろう。
修練場の中央で佇む(会話する)セイリアをよそに、壁に激突して気を失っている生徒達が救護係の生徒達によって運び出されて行く。
予定通りならば、この後は個人やパーティでセイリアに挑むことを希望した生徒達との対戦になるのだが、運営席に居るゼルドの元には、何人もの統制会役員メンバーの生徒達が集まっていた。
「………うむ、そうか、成る程な。まあ、無理も無いだろう。では、事の次第を説明して宣言をしなければなるまい 」
統制会役員達からの報告に、頷きを返すゼルド。おもむろに立ち上がると、修練場全体にゼルドの声が《風魔法》による《拡声》で響き渡った。
「学院生徒諸君、統制会会長のゼルドだ。予定では、ここまでセイリア三回生が勝ち抜いた場合、一旦休憩を挟んだ後に、パーティや個人でセイリア三回生に挑戦する者達との対戦予定であったのだが……、挑戦を望んだ者達は皆、セイリア三回生の戦いぶりに自身の未熟を感じ、全員から決闘に対し”辞退”の申し出があった!」
若く、ただでさえ血気盛んな生徒達だ。普通こういった場合はブーイングのひとつも上がるのが当たり前なのだが、ざわっと会場が騒めきはしたものの、目の前であれ程の戦いを見せ付けられては、それを不満に思う声はひとつも上がらない。
一旦言葉を切り、修練場全体を見回して不満の声が上がらない事を確認したゼルドは、この”決闘”を締め括るべく口を開いた。
「よって、この”決闘”は統制会副会長、セイリア・キサラギ三回生の勝利と…… 」
ーー「お待ち下さい、ゼルド会長!私は辞退しておりませんわっ!! 」ーーー
ゼルドがセイリアの勝利を告げようとしたその時だった。ひとりの女子生徒がフィールドへと姿を現し、挑戦の意思を叫ぶ。
豪奢な金髪を靡かせ、赤地に黒の太い縦ストライプの戦闘装束。銀色に所々金の装飾の入ったドレスアーマーを纏った女子生徒は、悠然とた足取りでセイリアの前まで歩み出ると、戦いの場にはそぐわない、まるで舞踏会での淑女の挨拶の様な優雅な一礼の姿勢を取る。
「”ヘレナ”、まさか君が出て来るとは思わなかったよ 」
「お姉様、お姉様に対して剣を向ける無礼を何卒お許し下さい。ですが、私はあの男がお姉様に相応しいとはどうしても思えませんの 」
ヘレスティーナの戦意溢れる表情に、ゼルドが確認の問い掛けをする。
「ヘレスティーナ・ブロウム二回生!セイリア三回生の実力は先程見た通りだが、その意思に変わりはないか?」
「ゼルド会長、我がブロウム家はセイリア様のキサラギ家と同じく武門の誉れ高き家。その誇り高い血を受け継ぐ私が戦わずして退くことなど有り得ませんわ 」
真っ直ぐにゼルドの目を見据え、戦う意志を示すヘレスティーナ。彼女の専属侍女など知る者は少ないが、セイリアのほぼストーカーである普段の残念な彼女からは考えられないほどの覇気が、魔力波動と共に伝わって来る。
「うむ、その意気や良し! では、これよりセイリア・キサラギ三回生とヘレスティーナ・ブロウム二回生の対戦を行う。双方準備は良いな? では…………、始めえぇぇっ!! 」
ゼルドの開始の合図と共に自身の得物を抜き放ち、構えを取るセイリアとヘレスティーナ。
セイリアは木刀を攻守共に高い力を発揮する、基本である”正眼の構え”に。ヘレスティーナはやや長い両刃の剣を右脚を引き半身の姿勢を取って、剣先を大きく後ろに引いた攻撃型の構え、所謂”脇構え”を。二人が取った構えは、奇しくも両者のその性格を良く現した構えであると言えよう。
『ノア、ありがとうございました。この勝負は、己の力のみで相手をしたいと思います 』
『うむ、一対一の勝負に手を出すのも”不粋”と云うモノ。我は影の中に戻るとしよう。だがセイリアよ、あの娘の得物、アレは”魔剣”、しかも魔導具だ。努努油断するでないぞ?』
『はい。油断が一番恐ろしいと、秀真の森で身を以て思い知りました。誰が相手であろうと、油断など絶対にしません!』
『良い気構えだ…。ではしっかりな 』
『はいっ!』
念話で短くやり取りを交わした後、影に飛び込み姿を消すノア。その様子を見ていたヘレスティーナがやや眉を顰め、しかし構えは崩さないままセイリアへと問い掛ける。
「……お姉様、使い魔の力はお使いにならないのですか?」
「ヘレナ、気を悪くしたなら謝るよ。だが、決して君を侮っている訳ではないぞ。威力はあっても、まだ手練れとの戦いに使える程私自身が熟達していないのだ 」
「いえ……、良いのです (っしゃっ!ラッキーですわ!?勝算があがりましたわっ!)」
最もらしく答えてはいるが、ヘレスティーナは内心嬉々としていた。
(「なっ!なんですのあの影の荊はっ!? おまけにあの竜巻なんて、【黒き武神】の英雄譚のようではありませんかっ!?」)
と、先程までの戦いも戦力分析の為に観戦しながら戦々恐々としていたのだが、元々セイリアが得意な《風属性魔法》に加え、今迄見た事も無かった《闇属性魔法》など、ノアの力が上乗せされていることにヘレスティーナは薄っすらとだが気付いていたのだ。
「お姉様、この赤と黒の出立ちは、〈大戦乱〉の昔より、ブロウム家の正式な戦装束ですの。ブロウム家の名に賭けて、必ずお姉様を倒してご覧に入れますわっ!! 」
「ふふっ!良いぞヘレナ、私もこのピアスに賭けて負けはしないっ!」
ほぼ同時に駆け出す二人だったが、やはり倍近いレベル差とあってはセイリアの踏み込みの方が圧倒的に速い。だが、ここでヘレスティーナが予想外の行動に出る。まだ到底届く筈の無い遠間で足を止め、横薙ぎに剣を振るったのだ。
(「私の方が速いことを予想していた?……いや、”斬撃を飛ばす”魔剣なのか?」)
前方にいるヘレスティーナは既に剣を振り切った姿勢になっている。だが、予想した斬撃が飛んで来ることは無い。その事にセイリアが疑問符を浮かべたその時だったーーーー。
ーージャラララララララッッ!ッパァンッッ!! ーーー
一拍遅れて鎖が伸びる様な音のした次の瞬間、空気の破裂する鋭い音が響く。
ーー ギャリイィッ!!ーー
斬撃を見舞うべく突進していた体勢を強制的に止めて跳び退り、”ぞわり”とした感覚を信じて掲げた木刀に衝撃が走る。
「…っ! これは…っ!? 」
「さすがはお姉様、”初見殺し”は成りませんでしたか 」
ーージャラララララララッッ!ーー
間合いはヘレスティーナの遥か外、だがセイリアまで届いている魔剣の鋒。その鋒が音を立てて巻き戻されていく。間合いの遥か外から攻撃してきた”魔剣”の正体。それは ーー 。
「蛇腹剣……っ!? 」
「はい。我がブロウム家の所有する魔剣のひとつ【魔蝎の剣尾】と申します 」
「なるほど……、そういえばヘレナ、君の得意とする得物は元々”鞭”だったな 」
「そういうことです。ですが…、さすがはお姉様、まさか完璧に防がれるとは思いませんでしたわ?」
「ふふっ、何、あの”空気の破裂する音”は前に聞いた事があったのでな 」
そう答えるセイリアの脳裏に浮かぶのは、蒼い霊刀を鞭の様に伸ばして幾多の魔獣を屠る黒髪の男の背中。
(「とはいえ、あの音を聞いていなかったら不意の一撃をもらっていたかもしれぬ。ありがとうございます、ヒロト様……!」)
何だかヒロトに守ってもらった様で、ひとり御満悦なセイリアをよそにヘレスティーナは言葉を続ける。
「そうでしたの…、ですが数ある武器の中でも鞭は最速、しかもこの剣ならば攻撃力も申し分ありません。これならばお姉様の速度にも充分対処出来ますわ 」
鍔の辺りに紫色の魔晶石の付いた黒い刀身の【魔蝎の剣尾】を構え直し、不敵に微笑むヘレスティーナ。だが、セイリアも同じくニヤリとした笑みを返す。
「大した自信だな、ならば改めて、行くぞっ!」
ドンッっと足下の土を抉り、先程の倍以上の速度で肉薄するセイリアだったが、さすがは”魔導具”である魔剣、更には元々の得意武器とあって、まるで何本にも増えたかの様にあらゆる角度からセイリアへと迫る。
ーーパンッ!パンッ!パァンッ!! ーー
「く…っ!? 」
完璧に見切ったはずの鋒が突然身体のすぐ横で爆ぜ、その鈍い痛みと衝撃がセイリアの身体を揺らす。
達人が使う鞭の先端速度は音速を突破する。その為、魔剣の鋒が”空気の壁”を突破した際に発生するソニックブームが破裂音を響かせるのだが、驚いた事にヘレスティーナはセイリアに見切られ避けられる事までも計算して、その衝撃波までも攻撃に織り込んできたのだ。
「…なかなかやる。ならば…っ!」
変幻自在に軌道が変化し、例え避けても衝撃波の追加攻撃。広い間合いは不利だと判断したセイリアは一瞬の間隙を突いてヘレスティーナに迫り一撃を浴びせるが……?
ーーガギイィィィィィンッ!ーー
「……なっ!? 」
「【魔蝎の鋏盾】蠍には”鋏”が付き物でしょう?」
ヘレスティーナの腕に装着されていた小盾の付いたガントレットが変形し、肘から先を覆うほどの大きなカギ鋏となって、セイリアの木刀をガッチリと掴んでいた。
ーージャラララララララッ!ーー
「クッ…!? 」
得物を掴まれ、身動きの取れないセイリアの背後から鋭い音が迫る。何とかカギ鋏の拘束を脱して身を捻り致命の一撃を躱したものの、肩口を浅く切り裂かれてしまったセイリア。
それでも仕切り直すべく、一瞬のうちに大きく距離を取ったセイリアだったが、突如として感じた目眩と息苦しさに片膝を着いてしまう。
「……むぅっ!? まさかっ!」
「はい。【魔蝎の毒刺突】蠍の最も最大の武器といえば当然……”毒”ですわ 」
必勝の策が次々と決まった事で勝利を確信したのか、顔中にびっしりと脂汗を浮かべ、苦しそうに片膝を着いたセイリアに向かい、優雅に笑みさえ浮かべてゆっくりと歩を進めるヘレスティーナ。
「ですが御安心下さい、今のこの毒は唯の”麻痺毒”、命に別状はありません。おまけに修練場の特殊フィールドでお姉様の玉のお肌には傷も残りませんわ 」
優雅な笑みを 貴族令嬢らしからぬニンマリとした物に変えてはいるが、その一方で冷静に、油断などは一切していないヘレスティーナは、万が一にも反撃を受けない距離で立ち止まる。
「お姉様、お姉様は悪い男に騙されていただけですわ。今……、この私が解放して差し上げます。……ほんの少し痛いかもしれませんが、一瞬で済みますので我慢して下さいませね?」
何故か頬を上気させて、息を荒くし始めるヘレスティーナ。変態性癖やストーカー気質に加え、どうやらSの気まであったらしい。さすが得意武器は鞭なだけはあるというか、そう言ってしまうとやたらアクティブな某考古学者の教授辺りに失礼な気もするが。
「お覚悟!《魔蝎七裂剣尾連撃!! 》」
勝利を確実な物とする為に、勝負をかけるヘレスティーナ。高めた魔力波動に紫の魔晶石が反応し、輝きを強めると、七条の光が伸びてその全てが実体化した剣の鞭となる。その全てが角度、タイミングがバラバラの所謂オールレンジ攻撃だ。麻痺毒による状態異常に陥っているセイリアでは避け様子もない……はずだった。
「えぇ…っ!?」
勝利を確信したヘレスティーナが最高の笑みを浮かべたその目の前で、彼女の攻撃は全て防ぎ止められていたのだ。セイリアの影から飛び出した”影の荊”に。
『油断だな、セイリア?不粋には違いないが、むざむざ負けさせては主に面目が立たんのでな、少々御節介を焼かせてもらうぞ?』
『いえ、助かりました。自身の未熟を恥じ入るばかりです…… 』
『良い、我はセイリアの護衛なのだからな。防御は我に任せよ、それよりさっさと解毒して終わらせるぞ?』
『はい、お願いします。「《解毒》!」』
「そ、そそそそんなっ!あの状態で魔法を発動させるなんて!? 」
「すまなかったな、ヘレナ。やはり私は少し君を見縊っていたらしい。だが…、ここからは君を真の強者として私の持てる力の全てで挑む 」
ゆらりと立ち上がったセイリアから、尋常では無い魔力波動が立ち昇る。ヘレスティーナは躍起になって七本に別れた【魔蝎の剣尾】を振るうが、全てノアの影の荊に弾かれ、絡め取られ、ひとつとしてセイリアに攻撃が届くことは無かった。
「ひ…っ! う、うぅ……、もうちょっと…、あと少しでしたのにっ!認めません、認めませんわっ!お姉様は私のモノですのっ! ぅああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」
ヘレスティーナの絶叫と共に、魔剣の魔晶石から禍々しい紫の輝きが迸り、七本の剣鞭がどんどん巨大化していく。
『いかんっ!?セイリア、魔剣があの娘の制御下を離れるぞっ!』
『まさかっ!暴走ですかっ!? 』
「あ”あ”ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 」
絶叫するヘレスティーナに呼応するかの様に、今や七股の大蛇の如く巨大になった魔剣は最早攻撃とは名ばかりに、セイリアなど関係無く修練場フィールドを滅茶苦茶に暴れ回り始めた。
修練場には生徒達の訓練の為に、痛覚やダメージは受けても直接怪我を負わない様な《特殊防護術式》が施されている他、フィールド内から観客席へと”流れ弾”による被害が及ばない様《防御結界》の術式も組んであるのだが、暴れ回る魔剣がその結界へと打ち当たり、術式と反発して火花のような閃光を散らしている。
『マズイぞセイリア!?この修練場はあくまで生徒達の攻撃を防ぐ程度の術式強度しかない。そう何度もアレを喰らっては結界が保たん。何よりあの娘の生命が魔剣に吸い尽くされてしまうぞっ!! 』
『……っ!? 分かりました。ノア、防御はお願いします。私は全力でヘレナを止めますっ!』
『承知した。全力で行けセイリア!』
『はい!! 』
”魔導具”である魔剣は、絶大な威力がある反面、その制御が非常に難しい。[魔力=生命力]である為、通常であれば魔力を消費し過ぎたとしても”魔力枯渇”状態となり、意識を失う事はあっても本当に魔力がゼロになって死に直結する事はそうそう無い。
だが、魔剣は生命の危機等関係無く、使用者の魔力を際限無く吸い取ってしまう。それだけで済むならまだマシな方で、過去魔剣の暴走による事件では、敵味方、人間魔獣を問わず、周囲に居た者全てが犠牲になった事も一度や二度では無いのだ。
実はヘレスティーナ自身も”魔剣の暴走”を危惧して、魔力を溜めておける別の魔導具を魔剣を発動させる用に装備して使用し、自身の魔力は魔剣を制御する事に費やしていたのだが、ノアの影の荊に最大の技を防がれてしまった事で動揺し、決着を焦った為に制御が乱れてしまったのだ。
既にヘレスティーナに意識は無く、その顔色は土気色に変わりつつある。明らかに魔力枯渇状態に陥っていて、事態は一刻を争う状況だ。
「ヘレナぁっ!」
滅茶苦茶に暴れていた【魔蝎の剣尾】が魔力波動を高めて駆け寄るセイリアに反応し、その攻撃の鉾先を一斉にセイリアへと向ける。
『たかが魔導具如きが舐めるでないわっ!』
だが、ノアの影の荊は巨大化した剣鞭などまるで意にも介せずその全てを防ぎ、セイリアの進行の邪魔など一切させはしない。
ーーキィィイイイイィィィンッ!ーー
風の様に駆けるセイリアの魔力が木刀へと集中、揺らぎ、目に見える程に圧縮された魔力が刀身を覆い、甲高い音を立てて超高速で震動を始める。
その魔力波動、セイリアの覇気に恐れを抱いたか、意識の無いヘレスティーナの前方に、防御の為に全ての剣鞭が密集するが ーーー、
ーー「魔震斬っ!! 」
ーーギャギィィイイイイイイイィィィンッ!! ーー
巨大化し、ただでさえ強固な防御力を誇るはずの魔剣が、セイリアが木刀に纏わせた《超震動》の前に粉々になっていく。やがてその刃はヘレスティーナへと到達し、魔剣の核である紫の魔晶石を粉々に粉砕した。
「……………っ!?」
一瞬ビクリと身体を震わせた後、膝から崩れ落ちるヘレスティーナ。その身体をセイリアが抱き留めた時、修練場にゼルドの声が響き渡った。
ーー「それまでっ!勝者セイリアっ!! 」ーーーー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
遅くなって申し訳ありません。
”棚卸し”のバカやろおォォォォォォォォォォォォッ!(泣)
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