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第11章 イオニディア・ゼロ
第68話
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「「「お帰りなさいませ、ヒロト様、皆様 」」」
秀真の王都屋敷に帰り着いた俺達を出迎えてくれたのは、俺付きのキムチェとナームル、ソニア達四人付きの”カルピ”だった。
カルピはキムチェ達と違って、普通のヒト族の少女なのだが、上背が高く中性的なキリッとした魅力を持った少女だった。何と言うか、高校の女子バレー部のエースっぽい雰囲気がある。
それはともかく……? しかし…、”カルピ”かぁ……? 揃っちゃったよなぁ……!? 何と言うか、コリアン感がハンパ無い………。
「今夜は焼肉にするかな……? 」
「何か仰いましたか、ヒロト様?」
「あぁ!いやいや、ナンデモナイデスヨ? 」
可愛らしく小首を傾げるキムチェに慌てて言葉を返す。いかんいかん、うっかり口をついて出ちゃったよ!?
『マスター!今夜は焼肉なんですか!? 』
あらら、俺の中の”食いしん坊さん”が、うっかり喰い付いちゃいましたよ!
『違う違う、ごめんなアイ。焼肉はまた今度な? 』
『そうなんですか………、残念です……… 』
ヤバい!?めちゃくちゃ残念そうだ!”生命体”と成っても、未だ実体の無いアイにとって、味覚というのは大きな楽しみなんだろう。視覚モニター端のアイがもの凄く”ショボ~~ン”としてしまっている!?
『す、すまん、アイ!今度な?近い内に絶対食べような!なっ?』
『はい!…約束ですよ?マスター!』
ふぃ~~~~っ!ヤバかった!? 誰も知らない、俺の内側だけでの攻防戦の勝利(敗北?)に安堵の溜め息を吐いていると、キムチェが問いかけて来た。
「徒歩で王城から帰られたとお聞きしましたが、大丈夫でしたか?迷ったりしませんでしたか?」
「ああ、大丈夫。皆んなで少し王都見物をしながら帰って来てたんで、少し遊び過ぎたみたいだ。心配かけたようで申し訳ないな 」
「そうだったんですか、いえ、随分と時間が掛かってらっしゃったようなので、新市街ほどではありませんが旧市街も路が入り組んでいますから、迷ってしまわれたか?と思って心配しておりました 」
「ありがとう、色々な店を覗きながらだったから、つい盛り上がっちゃってな。悪かった 」
「いいえ! 悪いだなんて、そんな事は!? ……あっ!? それよりも、レイナルド様は既に御帰宅されておりまして、後、大奥様が先程からヒロト様をお待ちでございますよ? 」
「大奥様」? 誰だそれ?
「………ああっ!? 婆さんの事か!」
「……!? ヒ、ヒロト様!? 大奥様の事をその様に呼ばれては…っ!? 」
俺の”婆さん”発言を、真っ青になって、慌てて窘めようとするキムチェ。
「いや、だってセイリアのお祖母ちゃんだし? 本人もそう呼んで構わないって言ってたよ?」
「………っ!? ヒロト様ぐらいでございますよ?王都最強にして冒険者ギルドの最高ギルド長の大奥様をその様に呼ばわって平気なのは…… 」
ねぇ…?と、苦笑をしながら、同意の視線をソニア達四人に向けるキムチェだったが、ーー フィッ ーーっと気まず気な顔で同時にキムチェから目を逸らす蒼豹族四人。
「え…っ!? ………ど、どうしたんですか………?」
「…勝っちゃった……… 」
「えっ?えっ!? 」
「だからぁ、勝っちゃったの!ヒロト兄ィが!最強の!セイレン様に!! 」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!?」」」
半分ヤケクソ気味で答えたマーニャの言葉に、驚愕の余り思わず悲鳴を上げるメイド三人娘。しかし納得がいかなかったらしく、今度はナームルが半分悲鳴の様な声で聞いてくる。
「えっ? でも、だって!「英雄」ですよ!「生ける伝説」ですよ!?【炎禍の魔女】なんですよ!?!? 」
「………気持ちは分かる。直接目の前で観てた俺らも吃驚だったんだ 」
「最初のうちは互角か、セイレン様が押してたんだけどねぇ?」
「途中からはヒロト兄さんが一方的に投げ飛ばし出して……… 」
「最後は目を回したセイレン様がヒロト兄ィに”降参”しちゃったんだよ…!」
「「「…!?!?!? 」」」
ギギッ…ギギギ……っと、油が切れたロボットの様な動きで、こちらを振り向くキムチェ達。その目は”信じられないモノを見た!? ”って感じで真ん丸になっている。
「ヒロト様、アナタハ、イッタイ、ナニモノナンデスカ…?」
「いやいや、なんでカタコト!? ほら、だいたい”模擬戦”だし?「死合う」ほどお互い本気じゃ無かったし! ……って言うか、ほらほら、婆さんが待ってるんじゃ無かったのか!? 」
「あっ!申し訳ありません、そうでございました!? 」
話が変な方向に流れて収拾がつかなくなりそうだったので、本題の方へと話を誘導する。ナームルとカルピの二人はまだショック?から立ち直り切れていないようだが、さすがにキムチェはベテランらしく直ぐに頭を切り換えたようだ。
と言うか、四人には後から釘を刺しておかなきゃいけないな?”〈ランクS〉の婆さんに勝った”なんて、ペラペラと話してもらっちゃ困る。
婆さんとレイナルドは、リビングの方でお茶を飲んでいるとの事なので、そちらの方へ案内してもらった。
「なんだい、随分と遅かったじゃないか? 迷子にでもなったのかい?アタシぁ待ち草臥れちまったよ?」
部屋へと入った途端、そう言って婆さんがからかってきた。だいぶ待たせたようなのに、余り気を悪くした様子は無さそうなので、少しホッとする。
「待たせたようで悪かったな、初めての王都なんでな、見物がてらあっちこっち見て回ってたんだ 」
「おやおや、お上りさん丸出しで何やってんのさ、初めての街なんかでフラフラしてたら危な…くはないね、アンタの場合……。でもまあ、気を付けなよ?悪い女にでも騙されたって知らないよ?」
うわあ……何でかイラッとするな、このニンマリとした顔。どっかの爺さんを思い出すわー。
「肝に銘じとくよ。それより、待ってたって事は、何か用事なんだろ?」
「ああ、そうだったね、時間も無いし、お巫山戯はこのくらいにして、本題に入ろうかねぇ?」
ソファーに膝を崩して背もたれに肘を掛けてニマニマとしていた婆さんは、背筋を伸ばし、脚を組み替えると、今までの緩い雰囲気が一変する。一瞬でこうした凛とした佇まいと言うか、威厳が醸し出される感じは流石だと感心する。
「……その前に…、これからの話は”重要案件”だ。用があれば呼ぶから、アンタ達は少しばかり席を外しな 」
「畏まりました。外で控えて居りますので、御用がありましたら声をお掛け下さい。では、失礼致します 」
入り口の扉横に控えていたキムチェ達に、婆さんが”人払い”の指示を出す。キムチェも慣れているのか、特に疑問も示すこと無く丁寧な一礼をすると、ナームルとカルピを伴い部屋から出ていった。
三人娘が退出し、扉が閉まった事を目で確認した婆さんは、改めてこちらに向き直ると、さっきまでのニヤケ顔を引っ込め、真顔になって話しを切り出した。
「王城で”今夜の件”については聞いたね?アタシの用件ってのは、それにアンタ達【蒼い疾風】も任務として出てもらう。って事さ。王都までの長旅で疲れているところ申し訳ないが、さっそく働いてもらうよ? 」
「……何となくそんな気はしてたよ。まあ、こちらとしては願っても無いってところかな。で、詳細は?」
二つ返事で了承する。婆さんの用件とは、やっぱり”依頼”だった。
「躊躇無しかい……!? ま、話が早くて助かるよ。アンタ等には今夜、ヒギンズ男爵領で行われるヒギンズ親子の捕縛作戦に合わせて、王都に巣食う屑共の大掃除を手伝ってもらう」
「手伝う…って事は、俺達だけじゃ無いって事か?」
「連中、思っていたより手広くやっていたみたいでね?いくら捕まえても潰しても、なかなか居なくならないと思っていたら、この王都だけでも、新・旧市街合わせて数箇所に拠点を作っていやがったんだよ 」
「なるほどな、一箇所が潰されても
他の場所が生き残って仕事を継続していた訳だ 」
婆さんは嫌そうに眉をしかめながら忌々しげに息を吐く。
きっと、あの国王のことだ、今まで何度と無く摘発・検挙に乗り出したに違いない。だが、一箇所を潰している間に他の連中は逃げてしまう。延々とイタチごっこを繰り返していた訳だ。
「そういう事さ。だから、今回は元締めであるヒギンズ男爵の捕縛に合わせて、王都のみならずその周辺や、国外への密輸拠点になっている男爵領、その全てのアジトを一斉に潰す、って寸法さ 」
「各地の拠点は、王国の諜報機関と、我が秀真の【影疾】の手により全て判明しております 」
セイリアの一件もあり、怒りに燃えた秀真の暗部が相当気合いを入れて仕事をしたらしい。
だが、一点だけ俺には懸念事項がある。
「ひとつ聞きたいんだが、それだけ大掛かりな組織なら、いるよな?当然”内通者”が。そいつ等への対応は?」
「抜かりは御座いません、約一週間前に、緊急の”手入れ”がある、と偽情報を流しました。元々分かっていた者も含め、そこで慌てて動いた間抜けは【影疾】が全て枝をつけました。法と民を守る立場でありながら、私利私欲に目が眩んだ愚か者達も全て一網打尽と出来る手筈となっております 」
「流石だな、完璧だレイナルド 」
「”感謝の極み”に御座います 」
いつもの柔らかな笑顔と違い、ニヤリと凄味を滲ませた笑みを浮かべるレイナルド。
「そんな訳でね、腕は立っても信用の置ける奴じゃないと困るんだよ。お陰で正直な話、少しばかり戦力が足らなくてね?今、アンタ達が来る前に、今日の”模擬戦”の話もレイナルドから聞いたところさ。なら、そっちの嬢ちゃん等も充分な戦力になるだろうよ 」
なるほど、”念には念”って事だな。こういう場合、何処から情報が漏れるか分からないから、どうしても使える人材は限られてしまう。この場合、ある意味関係者である俺と、その配下であるソニア達なら確かに問題無い。
「分かった。で? 俺達は何処を担当すればいいんだ?」
「お嬢ちゃん達には、旧市街にあるアジトのひとつを潰してもらう。その時、もし捕まっている者が居れば保護もして欲しいね 」
「密売組織の連中はどうするんだ?」
「おや?生かしておいてやる必要なんてあるのかい?」
俺からの確認の言葉に、その艶やかな美貌に凄絶な笑顔を張り付けて、魂すら凍えそうな程、冷え冷えとした声でそう答える婆さん…。
大事な孫娘を性奴隷に堕とそうとした連中に、心底御立腹の様子である。
「幾つもの家族の、何人もの人生を狂わせ、喰い物にしてきた奴等だよ? 当然皆殺しさ。今後に対する見せしめの為にも、当然その命で償ってもらう。……本当は、アタシひとりで全員磨り潰してやりたいんだけど…ねぇ? 」
「いけませんよ、セイレン様?独り占めは?私もそれなりに腹に据えかねているのですから 」
「「「「ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!?!?」」」」
”ニタァ…!”っと笑う、見た目二十代、その実、合計千五百歳オーバーの爺婆二人の体から立ち昇る濃密な怒りの魔力波動に、思わず身を寄せて悲鳴を上げるソニア達。
情けない……、とは言うまい。なぜならば………!?
『マ、マスター!こ、怖いですぅぅぅぅっ!? 』
『心配するなアイ。俺も今すっげー怖いからっ!? 』
いや、マジでめちゃくちゃ怖い!気の弱い者なら、今この部屋に入った途端に、二人の発する魔力波動を感じただけで気を失ってしまうだろう。
ところで、さっきの婆さんの言葉で気になった点がもうひとつある。今のあの二人に話しかけるのは非常に躊躇われるのだが………!?
「な、なあ、婆さん?さっき”お嬢ちゃん達”って言ってた気がしたんだが、どういうことなんだ? 」
勇気を振り絞って、レイナルドと黒い笑みを浮かべて笑い合っている婆さんに話かける。
「ああ、そうだったね、肝心な事を言い忘れていたよ。ヒロト、アンタにはお嬢ちゃん達とは別行動を取ってもらう 」
「それは構わないが、それってもしかして?」
俺が言わんとした言葉を察したのか、さっきまでの”黒い笑み”では無く、ニヤリ、とした笑みを浮かべて婆さんは言った。
「そうさ、さっそくで悪いが、ヒロト……いや、”〈ランクSS〉冒険者『零』” に、最高ギルド長権限で命令を下す。今夜の作戦に合わせて、国境を越え、ロゼルダ商国家連合国内の国境付近に在る違法奴隷密売組織の拠点を徹底的に潰しておくれ。いいね? 」
秀真の王都屋敷に帰り着いた俺達を出迎えてくれたのは、俺付きのキムチェとナームル、ソニア達四人付きの”カルピ”だった。
カルピはキムチェ達と違って、普通のヒト族の少女なのだが、上背が高く中性的なキリッとした魅力を持った少女だった。何と言うか、高校の女子バレー部のエースっぽい雰囲気がある。
それはともかく……? しかし…、”カルピ”かぁ……? 揃っちゃったよなぁ……!? 何と言うか、コリアン感がハンパ無い………。
「今夜は焼肉にするかな……? 」
「何か仰いましたか、ヒロト様?」
「あぁ!いやいや、ナンデモナイデスヨ? 」
可愛らしく小首を傾げるキムチェに慌てて言葉を返す。いかんいかん、うっかり口をついて出ちゃったよ!?
『マスター!今夜は焼肉なんですか!? 』
あらら、俺の中の”食いしん坊さん”が、うっかり喰い付いちゃいましたよ!
『違う違う、ごめんなアイ。焼肉はまた今度な? 』
『そうなんですか………、残念です……… 』
ヤバい!?めちゃくちゃ残念そうだ!”生命体”と成っても、未だ実体の無いアイにとって、味覚というのは大きな楽しみなんだろう。視覚モニター端のアイがもの凄く”ショボ~~ン”としてしまっている!?
『す、すまん、アイ!今度な?近い内に絶対食べような!なっ?』
『はい!…約束ですよ?マスター!』
ふぃ~~~~っ!ヤバかった!? 誰も知らない、俺の内側だけでの攻防戦の勝利(敗北?)に安堵の溜め息を吐いていると、キムチェが問いかけて来た。
「徒歩で王城から帰られたとお聞きしましたが、大丈夫でしたか?迷ったりしませんでしたか?」
「ああ、大丈夫。皆んなで少し王都見物をしながら帰って来てたんで、少し遊び過ぎたみたいだ。心配かけたようで申し訳ないな 」
「そうだったんですか、いえ、随分と時間が掛かってらっしゃったようなので、新市街ほどではありませんが旧市街も路が入り組んでいますから、迷ってしまわれたか?と思って心配しておりました 」
「ありがとう、色々な店を覗きながらだったから、つい盛り上がっちゃってな。悪かった 」
「いいえ! 悪いだなんて、そんな事は!? ……あっ!? それよりも、レイナルド様は既に御帰宅されておりまして、後、大奥様が先程からヒロト様をお待ちでございますよ? 」
「大奥様」? 誰だそれ?
「………ああっ!? 婆さんの事か!」
「……!? ヒ、ヒロト様!? 大奥様の事をその様に呼ばれては…っ!? 」
俺の”婆さん”発言を、真っ青になって、慌てて窘めようとするキムチェ。
「いや、だってセイリアのお祖母ちゃんだし? 本人もそう呼んで構わないって言ってたよ?」
「………っ!? ヒロト様ぐらいでございますよ?王都最強にして冒険者ギルドの最高ギルド長の大奥様をその様に呼ばわって平気なのは…… 」
ねぇ…?と、苦笑をしながら、同意の視線をソニア達四人に向けるキムチェだったが、ーー フィッ ーーっと気まず気な顔で同時にキムチェから目を逸らす蒼豹族四人。
「え…っ!? ………ど、どうしたんですか………?」
「…勝っちゃった……… 」
「えっ?えっ!? 」
「だからぁ、勝っちゃったの!ヒロト兄ィが!最強の!セイレン様に!! 」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!?」」」
半分ヤケクソ気味で答えたマーニャの言葉に、驚愕の余り思わず悲鳴を上げるメイド三人娘。しかし納得がいかなかったらしく、今度はナームルが半分悲鳴の様な声で聞いてくる。
「えっ? でも、だって!「英雄」ですよ!「生ける伝説」ですよ!?【炎禍の魔女】なんですよ!?!? 」
「………気持ちは分かる。直接目の前で観てた俺らも吃驚だったんだ 」
「最初のうちは互角か、セイレン様が押してたんだけどねぇ?」
「途中からはヒロト兄さんが一方的に投げ飛ばし出して……… 」
「最後は目を回したセイレン様がヒロト兄ィに”降参”しちゃったんだよ…!」
「「「…!?!?!? 」」」
ギギッ…ギギギ……っと、油が切れたロボットの様な動きで、こちらを振り向くキムチェ達。その目は”信じられないモノを見た!? ”って感じで真ん丸になっている。
「ヒロト様、アナタハ、イッタイ、ナニモノナンデスカ…?」
「いやいや、なんでカタコト!? ほら、だいたい”模擬戦”だし?「死合う」ほどお互い本気じゃ無かったし! ……って言うか、ほらほら、婆さんが待ってるんじゃ無かったのか!? 」
「あっ!申し訳ありません、そうでございました!? 」
話が変な方向に流れて収拾がつかなくなりそうだったので、本題の方へと話を誘導する。ナームルとカルピの二人はまだショック?から立ち直り切れていないようだが、さすがにキムチェはベテランらしく直ぐに頭を切り換えたようだ。
と言うか、四人には後から釘を刺しておかなきゃいけないな?”〈ランクS〉の婆さんに勝った”なんて、ペラペラと話してもらっちゃ困る。
婆さんとレイナルドは、リビングの方でお茶を飲んでいるとの事なので、そちらの方へ案内してもらった。
「なんだい、随分と遅かったじゃないか? 迷子にでもなったのかい?アタシぁ待ち草臥れちまったよ?」
部屋へと入った途端、そう言って婆さんがからかってきた。だいぶ待たせたようなのに、余り気を悪くした様子は無さそうなので、少しホッとする。
「待たせたようで悪かったな、初めての王都なんでな、見物がてらあっちこっち見て回ってたんだ 」
「おやおや、お上りさん丸出しで何やってんのさ、初めての街なんかでフラフラしてたら危な…くはないね、アンタの場合……。でもまあ、気を付けなよ?悪い女にでも騙されたって知らないよ?」
うわあ……何でかイラッとするな、このニンマリとした顔。どっかの爺さんを思い出すわー。
「肝に銘じとくよ。それより、待ってたって事は、何か用事なんだろ?」
「ああ、そうだったね、時間も無いし、お巫山戯はこのくらいにして、本題に入ろうかねぇ?」
ソファーに膝を崩して背もたれに肘を掛けてニマニマとしていた婆さんは、背筋を伸ばし、脚を組み替えると、今までの緩い雰囲気が一変する。一瞬でこうした凛とした佇まいと言うか、威厳が醸し出される感じは流石だと感心する。
「……その前に…、これからの話は”重要案件”だ。用があれば呼ぶから、アンタ達は少しばかり席を外しな 」
「畏まりました。外で控えて居りますので、御用がありましたら声をお掛け下さい。では、失礼致します 」
入り口の扉横に控えていたキムチェ達に、婆さんが”人払い”の指示を出す。キムチェも慣れているのか、特に疑問も示すこと無く丁寧な一礼をすると、ナームルとカルピを伴い部屋から出ていった。
三人娘が退出し、扉が閉まった事を目で確認した婆さんは、改めてこちらに向き直ると、さっきまでのニヤケ顔を引っ込め、真顔になって話しを切り出した。
「王城で”今夜の件”については聞いたね?アタシの用件ってのは、それにアンタ達【蒼い疾風】も任務として出てもらう。って事さ。王都までの長旅で疲れているところ申し訳ないが、さっそく働いてもらうよ? 」
「……何となくそんな気はしてたよ。まあ、こちらとしては願っても無いってところかな。で、詳細は?」
二つ返事で了承する。婆さんの用件とは、やっぱり”依頼”だった。
「躊躇無しかい……!? ま、話が早くて助かるよ。アンタ等には今夜、ヒギンズ男爵領で行われるヒギンズ親子の捕縛作戦に合わせて、王都に巣食う屑共の大掃除を手伝ってもらう」
「手伝う…って事は、俺達だけじゃ無いって事か?」
「連中、思っていたより手広くやっていたみたいでね?いくら捕まえても潰しても、なかなか居なくならないと思っていたら、この王都だけでも、新・旧市街合わせて数箇所に拠点を作っていやがったんだよ 」
「なるほどな、一箇所が潰されても
他の場所が生き残って仕事を継続していた訳だ 」
婆さんは嫌そうに眉をしかめながら忌々しげに息を吐く。
きっと、あの国王のことだ、今まで何度と無く摘発・検挙に乗り出したに違いない。だが、一箇所を潰している間に他の連中は逃げてしまう。延々とイタチごっこを繰り返していた訳だ。
「そういう事さ。だから、今回は元締めであるヒギンズ男爵の捕縛に合わせて、王都のみならずその周辺や、国外への密輸拠点になっている男爵領、その全てのアジトを一斉に潰す、って寸法さ 」
「各地の拠点は、王国の諜報機関と、我が秀真の【影疾】の手により全て判明しております 」
セイリアの一件もあり、怒りに燃えた秀真の暗部が相当気合いを入れて仕事をしたらしい。
だが、一点だけ俺には懸念事項がある。
「ひとつ聞きたいんだが、それだけ大掛かりな組織なら、いるよな?当然”内通者”が。そいつ等への対応は?」
「抜かりは御座いません、約一週間前に、緊急の”手入れ”がある、と偽情報を流しました。元々分かっていた者も含め、そこで慌てて動いた間抜けは【影疾】が全て枝をつけました。法と民を守る立場でありながら、私利私欲に目が眩んだ愚か者達も全て一網打尽と出来る手筈となっております 」
「流石だな、完璧だレイナルド 」
「”感謝の極み”に御座います 」
いつもの柔らかな笑顔と違い、ニヤリと凄味を滲ませた笑みを浮かべるレイナルド。
「そんな訳でね、腕は立っても信用の置ける奴じゃないと困るんだよ。お陰で正直な話、少しばかり戦力が足らなくてね?今、アンタ達が来る前に、今日の”模擬戦”の話もレイナルドから聞いたところさ。なら、そっちの嬢ちゃん等も充分な戦力になるだろうよ 」
なるほど、”念には念”って事だな。こういう場合、何処から情報が漏れるか分からないから、どうしても使える人材は限られてしまう。この場合、ある意味関係者である俺と、その配下であるソニア達なら確かに問題無い。
「分かった。で? 俺達は何処を担当すればいいんだ?」
「お嬢ちゃん達には、旧市街にあるアジトのひとつを潰してもらう。その時、もし捕まっている者が居れば保護もして欲しいね 」
「密売組織の連中はどうするんだ?」
「おや?生かしておいてやる必要なんてあるのかい?」
俺からの確認の言葉に、その艶やかな美貌に凄絶な笑顔を張り付けて、魂すら凍えそうな程、冷え冷えとした声でそう答える婆さん…。
大事な孫娘を性奴隷に堕とそうとした連中に、心底御立腹の様子である。
「幾つもの家族の、何人もの人生を狂わせ、喰い物にしてきた奴等だよ? 当然皆殺しさ。今後に対する見せしめの為にも、当然その命で償ってもらう。……本当は、アタシひとりで全員磨り潰してやりたいんだけど…ねぇ? 」
「いけませんよ、セイレン様?独り占めは?私もそれなりに腹に据えかねているのですから 」
「「「「ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!?!?」」」」
”ニタァ…!”っと笑う、見た目二十代、その実、合計千五百歳オーバーの爺婆二人の体から立ち昇る濃密な怒りの魔力波動に、思わず身を寄せて悲鳴を上げるソニア達。
情けない……、とは言うまい。なぜならば………!?
『マ、マスター!こ、怖いですぅぅぅぅっ!? 』
『心配するなアイ。俺も今すっげー怖いからっ!? 』
いや、マジでめちゃくちゃ怖い!気の弱い者なら、今この部屋に入った途端に、二人の発する魔力波動を感じただけで気を失ってしまうだろう。
ところで、さっきの婆さんの言葉で気になった点がもうひとつある。今のあの二人に話しかけるのは非常に躊躇われるのだが………!?
「な、なあ、婆さん?さっき”お嬢ちゃん達”って言ってた気がしたんだが、どういうことなんだ? 」
勇気を振り絞って、レイナルドと黒い笑みを浮かべて笑い合っている婆さんに話かける。
「ああ、そうだったね、肝心な事を言い忘れていたよ。ヒロト、アンタにはお嬢ちゃん達とは別行動を取ってもらう 」
「それは構わないが、それってもしかして?」
俺が言わんとした言葉を察したのか、さっきまでの”黒い笑み”では無く、ニヤリ、とした笑みを浮かべて婆さんは言った。
「そうさ、さっそくで悪いが、ヒロト……いや、”〈ランクSS〉冒険者『零』” に、最高ギルド長権限で命令を下す。今夜の作戦に合わせて、国境を越え、ロゼルダ商国家連合国内の国境付近に在る違法奴隷密売組織の拠点を徹底的に潰しておくれ。いいね? 」
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ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
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