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第28章 動乱 ロードベルク王国 前奏曲(プレリュード)

第257話

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 ーーーー ウォンウォン!ウォォォォォン!ーーーー

 ーーーー ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………ッ‼︎ ーーーー

 日光を遮る曇天の下、様々な爆音を轟かせながら、砂塵を巻き上げて荒野を疾走する一団があった。

 ー『先行部隊、前方に黒煙が見えるが、アレは何だ 』ー

 ー『こちら先行偵察部隊。問題無い。上空を旋回する飛竜ワイバーンの姿が見える。おそらく航空兵団の魔法攻撃によるものだと思われる 』ー

 ー『了解した。…聞いたな?『竜は獲物に喰らい付いた』 繰り返す、『竜は獲物に喰らい付いた』!…急ぐぞ、早くしないと俺達の分まで食われちまうぞ!』ー

ー『そりゃあない!ここまで急いで来たのに、せっかくの出番が無くなっちまう⁉︎』ー

 オープン回線での誰かの戯けた物言いに続いて、複数の楽しげな笑い声が起こる。すると、最初に話していたリーダーらしき声も、ほんの少しだけ楽しそうに笑ってから、その声に応えた。

 ー『くくく…っ!それが嫌ならもっとアクセルを開けて速度を上げろ!頭の足りない反逆者共に、俺達の訓練の成果を見せつけてやるぞ‼︎ 』ー

ー『『『『『 了解…っ‼︎‼︎ 』』』』』ー

 荒野を走る一団は、更に速度を上げて走り出す。目指すは一路…、戦場だ。




 「おおおおおっ!食らえええええっ‼︎ 」

 ーーー「グギャアァァアッ⁉︎」ーーー

 あちらこちらで戦場に響き渡る剣戟の音、雄叫び、怒号、そして悲鳴。

 オーダウラ守備隊と、ザッコー率いる反乱軍の尖兵である【黒い魔獣】との戦闘は、より一層の激しさを増していた。

「押せえっ!押し返せええええっ‼︎」
「クソっ!クソクソクソぉっ!負けないぞ!僕達の街を、お前らなんかにやらせるもんかぁっ‼︎」

 決死の決意と、溢れんばかりの闘志で打って出たオーダウラ守備隊であったが、やはり〈〉によって凶暴化した魔獣は強力。倒しても倒しても尚、無限に湧いてくるのではないかと思える程の【黒い魔獣】の群れ。互いの力は"良くて"拮抗。とても優勢とは言えない状況であった。
 中には、若い冒険者などは気迫ばかりが空回りし、非常に危なっかしい所を、ベテラン冒険者や騎士団に助けられるという場面も度々見受けられた。

 戦況は混戦状態、正に敵味方入り乱れての大乱戦であった。

 そんな中、守護騎士団団長であるジョージの一喝が、戦場に大音声で響き渡った。

「腕に覚えがあっても、独りで相手をするでない!常に複数で当たるのだ!いいかっ、誰ひとり死ぬな!全員で、勝利の勝鬨を揚げるのだっ‼︎ 」

『『『『『おおおおおおおおおおおおおっっ‼︎ 』』』』』

 戦闘の熱気に煽られ、冷静さを失い始めていた防衛隊の面々は、ジョージのその言葉で徐々に平静を取り戻し始める。

「隊列を組み直せ!」

 勢いあまって突出した者が集中攻撃を受けないように、お互いをフォローし合いながら戦列を組み直して行くオーダウラ守備隊。その頭上へと、不意に大きな影が落ちる。

『勇敢なるオーダウラの勇士達よ!その闘志、気迫、まことに見事!微力ながら我々【飛竜航空兵団】も助太刀させて頂こうっ‼︎ 』

 それは五騎の飛竜。飛竜達は、バサリバサリと羽ばたいて、守備隊の頭上に留まるようにホバリングの状態で一斉に並ぶ。

ー『火器使用制限解除、魔獣共の後続部隊を薙ぎ払え!』ー

ー『了解、火器使用制限解除、火器使用制限解除!各騎《爆連火竜咆ドラゴニックバルカンフレイム》スタンバイ。……発射ファイアっ‼︎ 』ー

 ーーーー ヴァウウウウウウウウウウウウウウウウヴうヴ……ッ‼︎‼︎ ーーーー

 飛竜の首に取り付けられた魔法発動体の、先端にあるが回転を始めると、その周囲を取り囲むように"炎の矢"が回りながら生成され、次々と目にも留まらぬ速さで撃ち出されて行く。

 これは、あの「魔の森」での強化訓練中、キムチェがスパイクウルフ達に対して披露して見せた《爆連火砲ガトリングフレイム》を、アシモフが魔道具として再現せしめたものだ。

 仕組みとしては、軸部分が一回転する毎に、台座に刻まれた術式をことで、矢の(生成・増幅・圧縮・回転・発射)を次々と繰り返すというものだ。しかし、個人の魔力でそれを行うキムチェの《爆連火砲》が500/分という弾速に対し、〈魔導ジェネレーター〉を搭載した《爆連火竜咆》は3000/分と、その性能、威力は凶悪なまでに格段にアップされていた。

 実際に同程度の性能を持つ兵器に「M134 ミニガン」というものが存在するが、最大100/秒で撃ち出される攻撃の前には、"痛みすら感じない(させない)ままに殺傷する銃器"という意味で「無痛ガン(Painless Gan)」との別名があるほどだ。そんな威力の攻撃が×五門で一斉射されたのだ。

 ーーー「…⁉︎」「~~ッ‼︎ 」「………ッ‼︎⁉︎

 結果など推して知るべし、苦悶の声どころか断末魔の悲鳴すら上げられないまま、魔獣の群れはと化して行った。

「………ぃい、い、今だ!押し返せええっ‼︎ 」

 目の前で起きた信じられない光景の衝撃を気合いで捩じ伏せたジョージが、己の怖じる心を吹き飛ばすかのように大声で檄を飛ばす。

『『『『『ぉぉ…ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…っ‼︎‼︎ 』』』』』

 その声にハッと我に返った守備隊は、このチャンスを逃してはならじと生き残った魔獣の群れへと吶喊していくのだった。


 ーーーー 一方………。

「ワ、飛竜ワイバーンがブレスを吐いた…⁉︎ 」
「何だ!何なのだアレは…っ⁉︎ 」
「あ、あ、あのような攻撃を食らっては、いかな我等のゴーレムでもただでは…っ!」

 ザッコー率いる本隊は、飛竜から発せられた恐るべき攻撃の威力に、完全に動揺し浮き足立っていた。

「ぐ、ぐぐぐ…っ、構わん!中型のゴーレムを前に出して進め!我々のゴーレムは、巨獣の攻撃にも耐える事が出来るのだ!強度を上げて、あの飛びトカゲ共を叩き落とせぇ‼︎ 」

 ザッコー言葉で、ハッとした表情で少しだけ余裕を取り戻す貴族達。

「そ、そうだ!我等がゴーレムの一撃は巨獣の甲殻すら穿つのだ‼︎」
「我等が《土属性》の魔法こそ神の力だ‼︎」

 動揺していた自分を隠す為に、敢えて大声で自分達の属性を称え始める〈回帰主義派〉の貴族達。
 だが、彼等は忘れている。ゴーレムと言っても、それを成し得たのは十五メートルを超える大型ゴーレム、しかも、その中でも特に"天才"と呼ばれる、一握りの者達のみであったことを。
 そして彼等は知らない。巨獣といえども、これまで王国が討伐した巨獣は精々が四十メートル程度の、小型の〈連隊級〉までであり、少し前に「秀真の國」でヒロトが武士団と共に討ち取った、七十メートルを超すような伝説と呼ばれる〈師団級〉の巨獣は、一体たりとも居なかったのだ。

 ザッコーの下した命令に応じて、十二体の中型ゴーレムが前に出る。

「うはははははははははっ!どうだ、我等がゴーレムの威容は!行けい!トカゲ共を叩き落とし、愚か者共を踏み潰して、オーダウラの街を粉砕するのだ‼︎ 」

 中型、といえどその体高は十メートルをやや超える。しかもそれが十二体ともなれば、巨大な壁が地響きを立てて迫ってくるようなものだ。これにはさしもの勇敢なオーダウラ守備隊と雖も怯まざるを得なかった。

「ぐはっ!ぐははははははははははっ!見たかあっ!トカゲ共も我等がゴーレムを恐れて手も足も出せぬ!貴様等愚民の力など、我等の前には塵芥に等しいのだ!後悔しながら死に果てるがよいわ!ぐははははははははははっ!」

 怯み、後退るオーダウラ守備隊の姿に、更に機嫌を良くして高笑いを響すザッコー。

 だが、彼は考えるべきだった。なぜ、救援に来た【飛竜航空兵団】が、自分達の本隊に向けてのか?を。彼等はゴーレムを恐れていた訳ではない。だ。

 ーーー キュンッッ! ドゴムッ‼︎ ーーー

「……あぇ?」

 ーーーーそして、待ち人は来た。

 空気の壁を突き抜ける鋭い音がしたかと思った瞬間、いちばん端に居たゴーレムの左腕が吹き飛ばされ、粉々に砕け散る。

 ーー 何が起きたのか分からないーー。それは高笑いから一転間抜けな声で惚けるザッコーだけでなく、敵味方を問わず、その場に居合わせた全員の共通した思いであったが、ただ【飛竜航空兵団】だけは、ニヤリと口元に笑みを浮かべていたのだった。


 
 ーーーー ザッコーが中型ゴーレムを前面に押し出す数分前 ーー。


「間に合ったようだな。敵戦力はどうなっている? 」
「【飛竜航空兵団】からの報告によれば、中型ゴーレム十ルグメートル級が十二、八ルグ級が十五。残り三十二が四ルグ前後の小型ゴーレムです 」

 ロードベルク王国軍正式採用"戦車型ゴーレム" 、先行量産型"指揮車輌"【ランドロアー改二式】の車中で、部隊の隊長である使「ブッキー・カーロックス」が訊ねると、すぐ様同乗する部下が報告の声を返した。

「よし、ー『【機動装甲魔法師団】"第三大隊"、各車停車せよ。モードを高速移動形態の車輪から、戦闘形態の履帯キャタピラへと移行、射撃体勢を取れ! 』ー 」

 その報告を聞いたブッキーは、即座に部隊に戦闘体勢を取らせる指示を出した。

【機動装甲魔法師団】ーーそれは、ヒロト達が開発した"魔道具式新型ゴーレム"の内、車輌型のゴーレムを中心として構成された、機甲兵団である。

 部隊を構成する六割は【宮廷魔法師団】所属の魔法使い達であり、彼等もこの作戦に於いて、意気軒昂であった。その理由は至極単純にして明快。

『ナメてんじゃねーぞ、やってやんよオラああああああ‼︎』…である。

 本来、《四属性魔法》と呼ばれる火・水・風・土の魔法に於いて、魔法効果の強弱や属性同士の相剋による優勢劣勢はあれど、としての優劣などは存在しない。

 しかし、このロードベルク王国では、「巨獣からの王都防衛」という一点において、巨大なゴーレムを用いた防衛は非常に有効な手段であった。だが、その為に《土属性》魔法使い達の増長を許す結果になってしまったのだ。

 ーーーー曰く、「《土属性魔法》こそが最も最強」「真に優秀足り得るのは《土属性》魔法使いのみだ」と。

 勿論、皆が皆そんな横暴な《土属性》の魔法使いだった訳では無い。ちゃんとを持った真面目な《土属性》魔法使いも居るには居たのだが、間の悪い事に〈回帰主義派〉の台頭が、横暴な者達の振る舞いに拍車をかけた。
 
 当然、他の属性魔法使い達は反発したが、現実に巨獣に対抗する防衛手段がゴーレムに頼るしか無い以上、不満を飲み込み、押し黙るしか無かったのだ。

 そんな時に行われた「元祖ゴーレム研究会vs第二ゴーレム研究会」の対決、あの始まりの轟砲一発。
 その衝撃は、忸怩たる思いを燻らせていた者達の心に溜まった不満をキレイに吹き飛ばし、歓喜に包まれた新しい時代の到来を彼等に確信させたのだ。

 その喜びがいかほどであったか?を示すように、この【機動装甲魔法師団】立ち上げが決まった時、魔法師団に所属する魔法使い達の内、およそその八割が志願した程であったという。

 つまり今、彼等はやる気殺る気満々な状態なのである。

「よぉーーし。さあ、諸君!我々のを告げる祝砲ファンファーレを、高らかに上げようではないか!…だが諸君、済まないが、その栄えある役目は、旗機であるこの【ランドロアー改二式】に譲ってもらうぞ?」

 ー『やれやれ…、了解でありますよブッキー隊長。くれぐれも外さないで下さいよ?』ー

 ー『仕方ありませんね~、隊長、一発派手にお願いしますよ?』ー

 ブッキーからの、"一番槍の手柄は貰う"との勝手な宣言に対して、通信機インカム越しに次々と返事が返って来る。皆、口では不満気な言葉を並べていたが、その声には明らかにウキウキとした感情が溢れていた。

「クックックッ…、ありがとう、諸君!それでは、派手に行こうか!〈爆裂徹甲弾)、撃てえええええっ‼︎ 」

 ーーー ズドム…ッ‼︎ ーーー

 周囲の空気全てが震えるような衝撃が響き渡り、彼等の攻撃は開始されたのだった。


 呆然として、左腕…いや、を破壊されたゴーレムを見上げていたザッコーの腕を、グイグイと必死になって引く者が居た。コモーノだ。

「ち、ちちちちち、父上!あ、ああ、あれ!あれ、あれれ、あれ、あれェ…っ‼︎ 」
「ど、どうしたのだ、コモー………? あ、アレは、競技会の時の!」

 動揺しまくりのコモーノが指差す先を見れば、遠く二ケルグキロほど先にある丘陵地帯の向こうから、次々と見覚えのある物体が現れるのが見えた。

「まさか、これだけの距離があるというのに、あんな場所から攻撃を届かせたというのか…っ⁉︎ 」
「あ、アレがまた…⁉︎ ひぃうぅ….」
 
 競技会での出来事がトラウマになってしまったのか、真っ青になってコモーノは震えている。そんな二人が見詰める先で、チカチカと光が瞬いた。

「何だ?あの光は…………………、ああああ…っ‼︎⁉︎」

 ーーーー キュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュンキュン………、ドゴムッ!ゴウンッ!ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン…‼︎‼︎‼︎ 」

「ひいいいいいいいいいっ‼︎ 」

 直後、空気を切り裂いて飛来した無数の赤い光が、破壊の嵐となって中型ゴーレムへと降り注ぎ、耳を塞ぐ程の轟音が響く度にゴーレムが崩れ去って行く。

「うわああああああああああああっ‼︎」
「ぎゃああああああああああああっ‼︎ 」
「た、助け!ひいいいいいいいっ!」

 恐慌状態に陥り、逃げ惑うしか出来ないザッコー配下の貴族や騎士達。やがて轟音が収まった時、巨大な中型ゴーレムの姿はもう、どこにも無かった。

「こ、こんな…、こんなバカな事が……っ⁉︎」

 一瞬で残骸と化した自慢のゴーレム軍団の無残な姿に、ザッコーは呻くしか出来ない。コモーノなど、とうの昔に口から泡を吹いて気絶していた。

 中型ゴーレムを全て潰され、ザッコー率いる反乱軍のゴーレムも、残るは四メートル前後の小型ゴーレムばかり。しかし、それでもまだ生身の人間にとっては脅威は脅威。
 しかし、そんな中途半端に戦力が残っていたことが、ザッコーの判断を更に誤らせた。

「…い、いや、まだだ!門を破り、オーダウラの街の中に入ってしまいすらすれば、あんな攻撃は出来ないはずだ!」
 
 崩折れそうになる膝を堪えてザッコーはそう自分に言い聞かすように呟くが、はザッコーのもうすぐ背後まで迫っていた。

 ーーーー ヴォンヴォン、オンオン、ウオオオオォォォォォォォォォォンッ!ーーーー

 ーーー 「参上ぉぉぉぉぉっ‼︎ 」ーーー 

 突然、後方から響き渡った激しいエキゾーストノートに、慌てて振り返るザッコーが見たものは、爆音を蹴立てて迫り来る、二十台を超すバイクの一団であった ーーーー 。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 いつもお読み下さりありがとうございます!

 あれ…?バイク軍団、顔しか出せませんでした…⁉︎
 
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