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第26章 邂逅、帝国の聖女
第238話
しおりを挟むーーー【ASD】ーーー
それは、それぞれ機能、形態は異なれど、様々な場面で人類を補助するべく生み出された人工知能を搭載したロボット、【SD】に装甲を装着し、治安維持または軍事目的の為に火力及び戦闘力に主眼を置き開発された、戦闘特化型SDの総称である。
『……で、そのASDが何でここに居るんだ?』
アリーシャと呼ばれた女性の叫びと共に、建物の上から飛び降りて来たモノ。それは何と地球で開発されたはずのASDだった。
着地の衝撃を吸収するためのエアサスペンションのプシュプシュという音も俺の耳は拾っている。
一瞬、ルクスヴィータのような小型ゴーレムかとも思ったんだが、アイに言われてよく見れば、それは確かに俺にとっても非常に見覚えのあるASDだった。
"車"と一緒でSDにはその用途、目的に応じて様々なタイプが存在する。各メーカーごとに高級機~一般的な汎用機という違いの他、同じタイプであっても使用者の好みで色や外観の違いは当然出てくる。
これはASDであっても同じで、同タイプであってもその所有する部隊の任務に沿って装備や装甲形状に違いが出てくる。例えば治安維持の方向であれば簡易な"防壁"となるよう大昔の「機動隊」のような大型の盾を装備し、武装も鎮圧用の催涙弾や〈電撃警棒〉のような"非殺傷型の装備。俺の所属していた公安特殊部隊のような部署であれば、一応スタンロッドのような鎮圧用の装備はあってもチェーンガンやグレネードなど、鎮圧よりも制圧目的の実弾装備された兵器が主になるという違いが出てくる。
そういう目で見てみれば、うん、見覚えあるはずだ。この"コタツの上に正座で座っている"かのような四脚に人型の上半身を持つこのASDは、大和の公安部隊や国防軍で正式採用されている〈アルケニー〉というタイプ、それもそのタイプの最新型のようだ。しかもこの形状は……。
『国防軍の治安維持型じゃないな…? 』
『はい、色や装甲形状には若干の差異が認められますが、マスターの所属していた公安庁特殊部隊仕様ですね… 』
『いったいどういう事だ?こいつもあの暴走に巻き込まれてこっちに来たってのか⁉︎ 』
『データ不足の為、不明です。…⁉︎ マスター‼︎ 』
正体不明のASDらしきモノの登場に、アイと考察を交わしていたところで、いよいよ謎のASDが動き出す。
ーーー バシュンッ、バチッ!ヂヂヂヂッ!ーー
ASDの左腕部の手首に当たる部分から棒状の物が飛び出し、小さくスパークの音を響かせた。さっき言っていた〈電撃警棒〉だ。
『まずは宣言通り"拘束"、確保する選択をしたようですね 』
『だな。まあ、いきなりブッ放すとかじゃなくて良かったよ 』
『ですねぇ…。この子のタイプは7.62mm口径のチェーンガンを搭載してますからね。大騒ぎじゃ済みません 』
『まったくだ。よ…っとぉ!』
と、頭の中でアイと呑気に会話をしているようだが、体の方は謎のASDの攻撃を躱したりいなし続けていたりする。この辺りは日々の訓練と義体化手術の際の"脳の増量手術"によって〈多重思考〉のような事が出来るようになったお陰だ。
これがなかなか大した代物で、試した事はないが理論上はアイの補助があれば、俺ひとりでも小型の艦船を制御する事さえ出来るスペックがある。
と、言っても普段はひとつの事を行いながらも全然別の事も考えたりすることができる、ってぐらいにしか使ってないんだが。
そうしてる間にも、謎のASDはスタンロッドを振り回して次々に俺へと攻撃を加えて来る。
〈電撃警棒〉とは、読んでそのまま高電圧の電気ショックによって、対象の神経網を激しく刺激して相手を強制的に行動不能に陥らせる非殺傷武器だが、生身の人間だけでなく、精密機器を内臓したサイボーグであっても殺傷することなく捕らえる事の出来る有効な方法として広く用いられている手段のひとつだ。
まあ、俺達特殊部隊に所属していた奴なんかは、電気ショックを食らって動けなくなっちゃいました~。じゃ笑い話にもならないので、絶縁などその辺の対策はバッチリだったりするので、例えスタンロッドの攻撃をくらったとしても実はどうってことはない。アフィーから貰った〈状態異常無効〉もあるしな。
おまけにその攻撃自体もレベルアップの恩恵もあって、全然余裕で回避は出来るんだが……。やりにくい!
人相手と違って筋肉の動きや反動などが無かったり違ったりして挙動が読み辛いし、四つ脚なので重心も分かり辛い。人型でなくても魔獣相手なら魔力波動や殺気など"氣"の動きもあるんだが、ASDのような機械相手では"見て躱す"しかない。
う~~ん…。あっちにいた頃は普通にやってたはずなんだが、こっちの戦い方に慣れ過ぎたのか、すっげえやり辛い。
『しかし、ゴーレムならまだ分かるが、こんなASDを使役してるって、あの「アリーシャ」って女、ホントに何者だ?』
『そうですね?《鑑定》はしないんですか、マスター?』
『あっ!そっか、忘れてたわ⁉︎ よっしゃ、んじゃアイはこっちのASDをハッキングしてみてくれ。ゴーレムじゃないASDなら、"強制停止コード"のプログラムもあるだろうからな 』
『そういえばそうですね。では ーー スキャン開始ーー[形式番号ODN-08]対象ASDを"八洲精機"社製軍用ドロイド、タイプ【アルケニー】と確認。 ……でも、あれ? 』
ASDをスキャンしていたアイが、何か引っかかるモノでもあったのか訝しげな声になる。
『どうしたんだアイ?何か気になることでもあったのか? 』
『あ、はい。おかしいですね?あの子から"魔力波動"の数値が検出されたんです 』
『"魔力波動"?ASDから?う~~ん、まあ此処に居ること自体そもそもおかしいんだし、コイツにもアフィーとかみたいな存在が関わってるのかもしれないな?そのまま続行してみてくれ 』
『イエス、マイマスター 』
本来なら"此処"に居るはずのないASDだ。もしかしたら本当にアフィーや他の"七柱の最高管理神"とやらが興味本位で関わったのかもしれないしな?
おっと、いかんいかん。アイにASDの方を任せたんだから、俺はあっちのアイーシャの《鑑定》をしないとな。
って訳で、《鑑定》さん、お仕事オナシャス!えぇと ………………………………………は?
『ーーASDのタイプを確定ーー、プログラム侵入コードーーOKーー。制御AIへのハッキングプログラム ーー 実行。………って、え? 』
俺はアリーシャへと《鑑定》を。アイはASDへとハッキングを。と、それぞれ実行した俺達だったが、その結果判明した事実に思わず目が点になり絶句してしまった俺とアイ。
その結果とは………………‼︎
ーー アリシア・斎藤 ーー
地球人 女 18歳 Lv48
元 反大和武装組織【自由の灯火】リーダー
エイングラウド帝国【鋼の聖女】
ーー タイプ【アルケニー】 ーー
[形式番号ODN-08]製造番号 004110
所属 : 公安庁特殊犯罪対策室 第零課
特殊部隊仕様機 ※(零カスタム)
マスターコード登録者 / 玖珂 大翔
現マスター設定 / アリシア・斎藤
『はぁああああああああああああああああっ⁉︎ 』
『えぇええええええええええええええええっ⁉︎ 』
そのあまりにも予想外過ぎる結果的に、アイと二人で思わず盛大に驚きの声を上げてしまう。いやいや、まさか…、まさかこの結果が出るとは思わなかった。
あの日、このイオニディアへと来ることになった運命のあの事件。
俺達が所属する公安庁特殊部隊【 零 】は、彼女がリーダーを務める反大和武装組織【自由の灯火】が襲撃、占拠した秘密実験施設、【次元振動炉】の奪還作戦の任務に当たった。だが、そこで判明したのは彼女にとって非常に残酷な事実だった。
彼女の目的は両親を"殺した"大和政府への復讐だった。なぜなら、【次元振動炉】を完成させる為の基礎理論〈超次元振動理論〉の生みの親こそ、彼女の父親「斎藤宗矩」博士であるのだが、斎藤博士は"利益絶対主義"である企業連合国家「大和」に研究を利用される事を嫌い、妻と娘を伴い他国へ家族共々亡命することを計画した。しかし、その計画は果たされることは無かった。博士達を乗せた車は空港で突然爆発を起こし、アリシアひとりを残して死亡してしまったのだ。
病院で目を覚ましたアリシアは、彼女の両親を殺したのは大和政府だと教えられた。悲しみに暮れるアリシアにそう教えた男の名は「マクガイン・ネルソン」。彼女はその言葉を信じ、退院後怒りに燃えたアリシアはマクガインが組織した【自由の灯火】に合流。まるでジャンヌダルクのように反大和政府の象徴としてそのリーダーとなり、反政府運動にその身を投じたのだが、それ等は全てマクガインの企みであった。
マクガインの正体は東アメリカ連合の工作員で、奴の狙いは〈超次元振動理論〉と、【次元振動炉】の実験データを奪う事だったのだ。つまり、大和政府の仕業に見せかけて斎藤博士夫妻を殺したのもマクガインであり、アリシアは本当の仇がマクガインであるとも知らず、当局に対しての目眩し役としてその手先となって踊らされていたのだ。
実験施設を占拠し、目的を遂げる寸前まで行っていた事でマクガインは笑いながらアリシアに真相を告げ、絶望するアリシアに銃口を向けたところで俺と大輔が間一髪その命を救ったのだが、そこに大和企業の秘匿技術のはずの〈光学迷彩〉で擬装した謎の黒いASDが突如として現れて、大輔が撃たれ倒れてしまう。何と、アリシアどころかマクガインすらも捨て駒でしかなかったのだ。
何とかその黒いASDを倒したものの、その隙を突いたマクガインが息絶える前の最後の足掻きで【次元振動炉】を暴走させてしまった。
その後はご存知の通り、暴走の影響で穴の開いた次元の壁を飛び越えて、こうしてイオニディアへと辿り着いた訳だが……。まさか大輔ばかりではなく、こうしてアリシアにまで再会することになるとはさすがに思いも寄らなかった。
『マ、マスター⁉︎ あの子、あの子は私が【 零 】で作戦行動用のボディとして使っていた子ですっ!』
『そうだな、一応あの事故に巻き込まれた時に側に居たから気掛かりではあったが…、まさかこんな所で出会うとはな…… 』
「アリシア・斎藤………!」
「………っ⁉︎ な、なぜあなたがその名をっ? くっ!ココア、"非殺傷制限"の〈限定解除〉、無力化しなさいっ‼︎ 」
ーー「了解シマシタ、マスター。非殺傷制限ノりみったーヲ解除シテ無力化ヲ実行シマス 」ーー
ーー ガキンッ!ーー
「…は?ちょっと待て…っ⁉︎ 」
"非殺傷制限解除"だとっ⁉︎ ヤバい、何で偽名を使っていたのかは知らないが、アリシアの奴、文字通り見知らぬ土地で、誰も知るはずもない本名をいきなり言われた事でテンパりやがった!
『いけませんマスター⁉︎ 今のは安全装置のロック解除の音、あの子撃ってくる気ですっ‼︎ 』
『ヤッベっ!アイ、緊急停止コードだっ‼︎ こんな所で7.56mmのチェーンガンなんぞ撃ったら大惨事になる!』
『イエス、マイマスター!ーー 緊急時強制停止コード入力 ーー Sd66sptp00411……… ‼︎ 』
アレがアイの使っていた作戦行動用のボディだというなら、例えアリシアがAIの設定を初期化してマスター設定していたとしても、より上位の命令コードとしてアイの緊急停止コードが効くはずだ。って言うか、効いてくれなきゃ困るぞっ⁉︎
ーー 「上位命令こーどヲ受信シマシタ。機体ヲすりーぷもーどヘト移行シマス 」ーー
ーーピピッ!ピ…ッ!…シュウゥゥゥゥゥン……… ーーーー
良し!アイの緊急停止コードは有効だった!………ふう、焦ったぜ…… 。
「え…?なに?何で⁉︎ ココア、何で止まっちゃうのっ?動いて!動きなさい‼︎ もう!こうなったら魔法で…っ‼︎ 」
アリシアの魔力波動が急激に高まっていく。突然ASDが動きを止めてしまった事で、更に焦り度合いを増してしまったようだ。
攻撃体勢に入ったアリシアを止めるべく、俺はアイテムボックスからある物を取り出して慌てて顔に装着する。
「わ~~っ!待て待て待てっ⁉︎ これ!これに見覚えはないかっ? 俺はお前らが【次元振動炉】の実験施設を占拠した時に会った、公安の特殊部隊の人間だよ!」
「え?…あっ!そのゴーグル、あなたあの時の…っ⁉︎ 」
ふ~~~~っ、やれやれ。 何とかアリシアの暴走も止めることはできたみたいだな……。
さて、それじゃあ改めて、お互いに自己紹介でもしますかね?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いつもお読み下さりありがとうございます!
大変申し訳ありません、自分で設定しておいて、すっかり忘れてました⁉︎(汗)
白いASDの名前は、『ヴァイス』→改め『ココア』です。よろしくお願いします
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