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第1章 異世界転移

第5話

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 あまりに壮大な話に絶句している俺に、少しだけ苦笑を浮かべ、女神様が尋ねてくる。

「大丈夫ですか?続けますか? 」
「あ…、ああ、大丈夫だ。それで? 」
「あの時、事故によって「地球」のある世界から外へと弾き出された”あなた方”は、ほぼ”真下”に存在する、この「イオニディア」へと”落ちて”きました 」
「”落ちて”? 」
「そうです。詳しくはいえませんが、「世界」そのものも進化していきます。無数にある世界は互いに絡み合い、連なり、螺旋を描きながら上昇し、遥か高みを目指していくのです。……ですが、あの事故によって元の世界から弾き出された”あなた方”は、本来ならいくら真下にある下位世界とはいっても、この「イオニディア」に到達する事はなく、世界の外に広がる虚無に呑み込まれ、存在自体が消滅してしまうはずでした 」
「マジでか……っ!? 」

 驚きの事実を告げられ、背中を冷たい汗が流れる思いを感じる。だが、この時の俺はいっぱいいっぱいで、女神様の言った”あなた方”の事が、「俺とアイ」だけを指す言葉じゃない事には、まだ気付いていなかった。

「マジです 」

いや、女神様が真剣な表情でマジですって……。

「じゃあ、その危ないところを、女神様、アフィラマゼンダ……様、が助けてくれたのか? 」
「そういうことになります…が、ごめんなさい、本当は助けるつもりはありませんでした 」

 女神様の意外な謝罪に驚くが、頭を小さく振るだけで応えて続きを促した。

「神というモノは、本来なら担当する世界全体を管理、運営するモノであって、人間などの一個体に対してあまり干渉はしません。ヒロトさんのことは、不憫には思いましたが、数多ある世界ではそこまで珍しい事ではありませんし、私自身の管理する世界のことではなかった為に、最初はそのまま見過ごすつもりでした 」
「だったら、何故…? 」
「《アイ》さんの存在を感じたからです。貴方の意識はありませんでしたが、貴方の中に居る《アイ》さんの生命体への進化、新たな可能性を感じて、非常に興味を持ちました 」
「アイの…… 」
「はい。ご存知でしたか?この世界にも、魔法生物や擬似生命体は存在していますが、人の手によって生み出された実体の無い「情報の集積体」が生命へと進化した実例は、星の数ほどある世界でも、まだ存在していなかったのですよ 」
「………………………… 」
「擬似的に、貴方の体を【肉体】として、貴方が知らず「闘気術」によって創り上げた精神体を【アストラル体】として、核である《アイ》さんの【魂】は、もう《生命体》として目覚めるばかりの状態だったのです 。……ですから、私は《アイ》さんに語りかけました。『あなたが叶えたい願いとは何か? 』と 」

 《アイ》の叶えたい願い……?それはいったい何なんだ?

「《アイ》の願い事はなんだったんだ? 」

 真剣な表情だった女神様が、そこで フワリ、と、見惚れる様な笑みを浮かべて俺に答えを告げた。

「貴方と共にある事、貴方の役に立ち、いつかは……、いつかは本当の「身体」を得て、貴方を抱きしめてみたい……と 」

 背後で一緒に話を聞いていたアイを振り返る。アイは、自分の想いをバラされて真っ赤な顔をしていたが、目を逸らすことなく真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。

「『強き想いを心に持つ』こと、生への渇望、存在への執着、願い……。憎しみや哀しみ、そして愛……、どんな想いでも構いません、ただ、その強き想いこそが【魂】を生命の核たらしめるのです。アイさんは、貴方と共にありたい……と、強く願った。それが貴女の【心】だと、【生命】だと気付かせてあげただけですよ 」

「その想い、【心】を持っている事を自覚したから自我に目覚め、生命体に至ったと? 」

「その…通りです。アイさん…は、その…想いに目覚め、全世界初…の「情報生命体」へ…と進化を遂げました…… 」

 女神様の話を聞いた俺の胸の中を、温かいモノがいっぱいに満たしていく……。気付けば、俺はもう一度アイを抱きしめていた。

「ありがとう、アイ……、そしておめでとう、いつか必ず、アイの本当の身体を手に入れよう!その方法はまだ見当もつかないけど、絶対に見つけてみせる。だから……これからもよろしくな、アイ…… 」

 アイは吃驚して、身を固くした後、顔をくしゃくしゃにしながらぎゅーっと抱きしめ返してきた。

「……っ!? ハイ!ハイ、マスター!! アイは、アイはずっとマスターと一緒です!大好きです、マスター!! 」

 今は電脳空間限定の「リアル脳内彼女」と揶揄されようが構わない。いつも願ってきた事が、本当に叶ったんだ。
 さっきアフィラマゼンダは、魔法生物や擬似生命体と言っていた。そんなモノが存在する、この「イオニディア」という世界なら、必ずアイの身体を手に入れる方法はあるはずだ。必ず、そう必ず見つけてアイの願いを叶えてやる!! 俺はアイを抱きしめながらそう決意した……。

  ……………………………………………………………………が、

「女神様?……何だか様子がおかしくなってないか?何か調子が悪そうなんだが……? 」

 さっきから、アフィラマゼンダ、「女神様」の顔色が悪い。話してる最中も苦しそうだったし、あれほど魅力的だった微笑みも、何だか張り付いた愛想笑いの様だ……。

「だっ!大丈夫!……ですよ? 」
「いやいや、汗も酷いし、なんかプルプルしてないか? 」

 ますますプルプルしだす女神様……。何か無理してる感じだな?そんなことを考えていると……。

「もうっ!ダメ~~~~~っ!? 」

 ーーボフン!ーー

 女神様の悲痛な?叫びと共に、突然白煙の爆発が起こり、そこには女神様アフィラマゼンダではなく、ペタリと女の子座りでへたり込み、グルグルと目を回す駄女神アフィーちゃんの姿が……。

「きゅ~~~~~~っ 」 

 いや、きゅ~~って、自分で言うヤツを初めて見たわ。……やれやれと溜息をつく。

「なるほど、つまりはこっちがデフォルトで、あっちの姿は営業用か…… 」
「違うもん!どっちも本当の姿なの!ただ……、ちょっと久しぶりだったから力加減を間違えちゃっただけだもん!! 」

 顔を真っ赤にしたアフィーちゃんが急いで立ち上がり、俺に猛抗議をしてくるが……。 いや、神様が、もん!って……。さっきまでとのギャップが酷すぎる……。

「まあ、経緯はともかく、助けてもらった礼がまだだったよな、ありがとうな、女神様 」
「私もです。ありがとうございました、女神様 」

 俺とアイはそろってアフィーに礼を言って頭を下げた。アフィーは最初何を言われたか分からない様子だったが、バタバタとキョドった後、更に真っ赤になった顔のまま、慌てて答えた。

「オ、おほほほほ!いいのよ!私、慈愛の女神様だし!これぐらい、オチャノコサイサイでございますわよ~!! 」

 オチャノコサイサイ……って、やっぱりこっちが地なんだな、まあ、話しやすそうではあるかな?あるよな?まあいいか。

「で、アフィーちゃん、「イオニディア」ここはどんな世界なんだ? 」
「ヒロトくん、せっかちね~、まあいいわ、教えてあ・げ・る! 」

 忘れてた……こっちのは駄女神だったよ……。イヤな予感が込み上げるが、何より今は情報が欲しい。少々の事はガマンするか、はぁ……。

この世界イオニディアは、あなた達の居た「地球」より、やや下位世界に位置しているわ。世界の方向性としては、科学文明ではなく、魔術工学なんかの魔法文明方向に進んでいるわね! 魔素も大気に充満していて、人々は生活の中で当たり前のように魔法を使用しているわ。まあ、才能やレベルの差によって左右はされているけれどね~。 あっ!?でも、便利なばかりじゃないわ!魔素によって魔物化した「魔獣」や「巨獣」が闊歩する危険な世界でもあるわね! 」

 魔獣や巨獣……ね、さっきのプテラゴンみたいなヤツが、まだゴロゴロいる…って事か?まあファンタジーの定番ではあるか。

「ところで、さっきから気になっていたんだが、「魔素」ってのはいったい何なんだ? 聞けば、「魔力の源」で、知らないうちに俺も取り込んでいたみたいだけど…… 」

 俺の質問に、腕組みをして指を形のいい顎にあてた姿勢で、ん~っと小さく悩んでから答えを口にするアフィー。

「そうね~……、ザックリ言ってしまえば「万能物質」って感じかしらね~?」
「また本当にザックリだな……「万能物質」ってのは、どういう事だ?魔力の源なんじゃなかったのか? 」
「そうよ?だけど、魔法には多様な種類があるのは知ってるわよね? 」
「ああ、火や水、風、時空や精霊…「闘気術」で使うような、身体強化なんてのもあったな 」

 俺はかって読んだ”愛読書”達を思い出しながらアフィーの問いに答える。

「そうそう♪ けれど、それらに使用する「魔力」は一種類なのよ? 」
「…!? そうか!呪文や詠唱で様々な効果に変化する……、だから「万能物質」か 」
「そう、まだまだ未成熟な世界だから、色々な補助的に便利な物質なのよ。この「魔素システム」を採用している世界は、結構多いのよ? ん~、ちょっと違うかもしれないけど、あなた達の世界に例えるなら「石油」が近いかしらね?そのままだとあまり役には立たないけど、精製の仕方によって、燃料になるだけじゃなく、プラスチックなどの化学製品、ポリエステルなんかの繊維にもなったでしょう?あんな感じね♪ 」

 なるほどな~、何だかスゴく納得してしまった。ん?待てよ?って事は……。

「おい、アフィーちゃん! って事は、「イオニディア」この世界なら、俺にも魔法が使えるって事か!? 」

 やべぇっ!? 魔法ですよ、魔法!!
”愛読書”の中のヒーローにヒロイン、勇者や魔王達の姿に、自分の姿がオーバーラップする。 うはぁっ!オラ、ワクワクすっぞぉ!!

 捕らぬ狸の何とやら、俺はもう脳内お花畑状態で、まだ得てもいない魔法について、炎属性が良い!とか、時空魔法も良いよな~とか、一人で盛り上がっていた。

「ごめん、無理。ヒロト君は魔法使えないの 」

 一人大はしゃぎしていた俺に、気まずそうに目を逸らしながらアフィーがポツリと呟いた。

「…っ!? なんで!? 」
「えーとね、言い直すわ、身体強化系の魔法なら使えるわ。【玖珂流闘気術】そのものだし、「地球」よりもふんだんに魔素のあるこの世界なら、何段階もレベルアップした効果を得られると思うの。でも、放出系の物は攻撃、補助のどちらも使えないの…… 」
「だからなんでっ!? 俺は魔素のほとんど無い「地球」でも、無理矢理魔素を掻き集めて【玖珂流闘気術】、魔法を使っていたんだろ?だったら、むしろ魔力との親和性が高いんじゃないのか!? 」

 思わず涙目になるのは勘弁して欲しい。何しろ夢の魔法が使えるかどうかなのだ。そんな俺に若干引きながら、アフィーが続ける。

「実は、その事が問題なのよ……。ヒロト君達はこの「イオニディア」より上位世界から来たんだから、それだけで魔力や身体能力の基本スペックは段違いに高いの。それこそ、なんの才能も、訓練もしていない一般人でさえ、この世界の人々に比べたら凄いのよ? そうね~、同じLv1でも、すでにLv20に相当するところからスタートで、更にレベルアップ時の能力補正は1.5~2倍くらいになるかしらね 」
「やっぱりあるのか、ステータスやレベルアップ」
「まあね、それでね、何も知らない人なら、魔法に関してもゼロスタート、白い画用紙に書き込むように新たに魔法回路とも言うべきモノが、「アストラル体」に書き込まれていくんだけど……、ヒロト君は、本来使えないはずの所謂身体強化魔法を、無理矢理使い続けてきたから…… 」
「まさか、俺の「アストラル体」には…… !?」
「書き込むどころか、ガッツリ刻み込まれちゃってるわね!身体強化系のみが!!……だから、新たに放出系魔法の回路を書き込む隙間がもう無いの…… 」

「……っ!? 」
 
 …………orz   がっくりと膝をつく俺。正に天国から地獄、浮かれまくっていたテンションは、今やドン底に叩き落とされてしまった……グスン… 。

 あまりに落ち込む俺を見て、アフィーが必死に慰めてくる。

「あっ、あっ!でもね、「闘気術」の威力は格段にアップしてるし、スキルなら使えるのよ!それに、新しく生命体になったアイちゃんなら、魔法回路を形成できるから、魔法が使えるようになるわ!私からのお祝いに、「全属性魔法適性」と、「アイテムボックス」もあげちゃうし、今ならこの私!「アフィラマゼンダアフィーちゃんの加護」もついて超お得よ~!! ……だから、そんなに落ち込まないでぇ…… 」

 何だか深夜の通販サイトみたいな慰め方だが、何とか元気付けようしてくれている、アフィーの一生懸命さが伝わってくる。

「そうですよ、マスター!私、頑張って魔法を覚えますから!私とマスターは一心同体です。私が構築した魔法のトリガーを、マスターに渡せば同じことじゃないですか?だから元気出して下さい!」

 アイも両手を握り締めて、ムンッと力を込めて俺を励ましてくる。……残念だけど、非っ常~~にっ残念だけど!女の子達にここまで励ましてもらってるのに、いつまでも落ち込んでるのはカッコ悪いよな……。
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