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第25章 対決‼︎ 元祖ゴーレム研究会

第213話

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 --ー フオォォォォーーーーン ーーー

 ーーー フオォォォォーーーーン ーーー

 --ー フオォォォォォーーーン ーーー

 

 薄っすらと朝靄が漂い、まだ往き交う人も疎らな早朝に、《風魔法》で増幅された角笛の音が王都グランベルクに鳴り響く。

 すると、新市街、旧市街を問わず殆んど全ての家から人々が通りへと飛び出して、ザワザワと辺りを伺い、不安げな表情で隣近所と話しをしたりしている人々。

 "響き渡る角笛の音"  ーーーー。

 この意味を知らない王都の住人は居ない。

 これは"緊急警報"だ。河川の氾濫や津波など、いくつかの種類はあるのだが、その中でもこの高く突き抜けるような"角笛の音"。これはで、王都に危機が迫っているということ。

 その意味するところはひとつ。それは  --ーー、


 --ーー "巨獣の襲来"である。


 やがて王国政府より正式な"避難勧告"の指示がなされ、人々はすぐに避難できるようにしてある荷物をまとめて、いつでも逃げ出せるよう用意に入るのだった。

 
 王都の街中でも騒ぎが広がっているが、それにも増して、まるで蜂の巣をつついたような騒ぎになっている場所がある。
 
「皆はもう集まってるか?」
「は!まだ集まり切ってはおらぬでしょうが、王都に詰めている重鎮達はほぼ集まっているかと 」

 そう宰相と話しながら王城の廊下を足早に歩いていくのは、現国王のジオン・リグロス・ロードベルクだ。

「急げ急げ急げっ!もたもたするなっ‼︎ 」ーーーー。

「魔法師団第三分隊の騎乗すると飛竜はどれだっ?」ーーーー。

「整備班!飛竜の装備点検はどうなっているかっ?」ーーーー。
 

 途中、ジオンが歩きながら城の中庭を臨める場所を通りがかれば、中庭には既に大小様々な十数頭の飛竜ワイバーンが待機状態で伏せており、その間を【宮殿近衛騎士団テンプルナイツ】や【宮廷魔法師団】の者達が大声を張り上げ、出撃準備の為に忙しそうに走り回っていた。
 
「クーガ様の教導で、飛竜による緊急出動、空中輸送の手際が格段に向上致しましたな 」
「うむ。良い動きになったな。よし、急ぐぞ 」
「はっ 」

 暫し足を止めてその様子を見ていたジオンは、ほんの一瞬だけ満足そうに頬を緩めたが、すぐに表情を引き締めて踵を返し、また歩き始めた。

 向かった先は当然会議室。"巨獣討伐"の軍議の為である。
 
「御静粛に!ジオン・リグロス・ロードベルク国王陛下が御到着されました!皆様、ご起立願います。最敬礼にて御迎え下さい!」

 ジオンが入室すると、会議室に集まっていた者達はザッ‼︎ と音を立てて席を立ち、皆一様にジオンに向けて胸に手を当てた臣下の礼を取る。

「よい。皆の者早朝よりご苦労である。このような緊急時だ、構わないから席に着け。時間が惜しい、早速軍議に入るぞ 」

 その後、宮殿近衛騎士団長「ビギン・ウチナー」より巨獣出現から現在までの事態の推移、防衛及び討伐の為の国軍、周辺領軍の展開状況の報告がなされた。

「……以上が現在までの状況となります。陛下の御指示で試験的に導入していた"早期警戒システム"が功を奏し、速やかに防衛部隊の展開、布陣を敷くことが出来ましたので、今のところ巨獣の進路誘導、また、はぐれた〈随獣’〉が近隣の街や村に対して被害を及ぼす前での討伐に成功しています 」
「ふむ、〈大隊級〉二、〈中隊級〉が三。それに併せて〈随獣〉が百匹前後か…?なかなかの規模だな。で、今回の出現場所はホージョ領領都オーダウラ近郊という事だが、ホージョ子爵、領地の被害の状況はどうなっている?領民に被害は出てないか?」

 近衛騎士団長からの報告を聞いた後で、ジオンは会議に参加しているホージョ子爵に声をかけた。
 そのジオンからの問い掛けに、ひとりの壮年貴族が立ちあがる。

「はっ。御心配頂きありがとうございます。巨獣出現の兆候を、早い段階で掴むことが出来ました為、すぐ様領民には避難指示を出す事が出来ました。領都オーダウラは巨獣の進行方向とは逆であった為被害無し。進行方向に存在した三つの村は残念ながら壊滅となりましたが、幸いにも人的被害は一切ありません 」
「そうか、不幸中の幸いだな。壊滅した村の家屋や家畜の復興支援については王国政府からも支援しよう。被災者達には手厚い保護を頼むぞ 」
「御意。必ずや。陛下の御厚情に心より感謝致します 」

 胸に手を当て、深々と頭を下げるホージョ子爵。その姿に、満足そうにひとつ頷いたジオンであったが、改めて軍議に参加している者達を見回すと不愉快気に眉をしかめた。

「…で?ブラインよ。俺は"王国の一大事"って事で参集をかけたんだがよ?軍議ここに《土属性》の連中の顔がひとつも見えねぇのはどういうことだ?」

 苛つきの為か、普段のヤンキー口調に戻ったジオンが声をかけたのは【宮廷魔法師団】の師団長であり、現ロードベルク王国魔法使い筆頭の「ブライン・グキーズ」である。

「知りませんよ、俺はちゃあんと招集かけましたよ?」
「ちょ!ちょっとブライン師団長⁉︎ も、申し訳ありません陛下!奴らにはきちんと招集をかけたのですが、その……『我等の力こそが戦況を左右する。故にその時までは休養を取り有事に備える』と…… 」

 魔法師団長ブラインのぞんざいな口調を慌てて諌めてから、気まずそうに《土属性》の者達がこの場に居ない理由を口にしたのは魔法師団女性副師団長の「ジータ・リンジー」だ。

「ほぉう…?いい度胸じゃねぇか?おい、俺の【羅刹蛮陀】を持って来い。其奴らの素っ首叩き斬ってくれる 」

 その報告を聞いたジオンは、スッと目を細めて宰相の方へと振り向き、そう言い放った後、ゆらりと椅子から立ち上がり、会議室の中の者達全員に鳥肌が立つほどの殺気を漲らせた。

「ひっ⁉︎ あ、へ、陛下…?」
「はぁん?この一大事な時に、この俺が呼んでいるにも関わらず、気持ちよぉ~く寝てやがるんだろう、あいつらは?そんなに寝るのが好きなんだったら、俺がもっとゆっくりさせてやらぁっ‼︎ 」
「お、お気をお鎮め下さい陛下‼︎ 」
「止めんじゃねぇ!いい加減頭にキてんだよ俺ぁっ‼︎ 」

 真っ青になりながらも、必死になってジオンを宥めようとする宰相。
 
 元〈ランクA〉冒険者であるジオンの殺気など、もはや物理的な圧力プレッシャーとして感じる程である。
 ロードベルク王国という大国の政治の中枢で、国家の舵取りから他国の重鎮との折衝までを顔色ひとつ変えずに行う彼ではあるが、身体能力的には殆んど一般人と変わりない。
 そんな彼が今のジオン前に立つことは、怒れる獅子と同じ檻に武器も防具も持たずに素っ裸で自ら入り、その怒りを鎮めようとするのと変わらない。そう考えれば、周りで声も出せず震えている者達に比べ、彼のその勇気と使命感は充分賞賛に値する行為だろう。
 
「いいから退けっ‼︎ 」

 だが、ジオンの怒りも収まらない。高位《土属性》魔法使い達の傲慢で横暴な振る舞いは、それほどまでに酷いところにまで達していたのだ。

 だが、そんな怒れるジオンに対して、から諌める声が発せられ、会議室に集まる面々を驚かせた。

「まあ待て、そんなに怒るなよ 」
「ああ"っ? ンだよ、オメェらしくもねぇ!いつもなら真っ先にブチ切れてるクセによぉ…っ?」

 そう、ジオンを諌めた声は、第二王子のゼルドであった。

 会議室の者達が驚いた目で見たのは、たった今ジオンが言った通り、普段ならこの年若く血気盛んなゼルドの方が、真っ先に怒りを露わにして怒鳴り声を上げていたからだ。
 それだけではない、今だジオンの発する怒りの魔力波動の圧力は凄まじく、気の弱い者など自分にその怒りが向いている訳ではないのに失神寸前になっているほどだというのに、至近距離からギロリと睨まれているゼルドはまったく怯んですらいないどころか、笑みすら浮かべて余裕の表情のままだったのだ。

 (「ほう……?」)

 そんなゼルド息子の精神的成長を見た所為か、ジオンの中に冷静さが戻ってくる。

「……だがゼルド、こうした国の一大事、しかも王たる俺の言葉を軽んじる奴等など、これ以上捨て置けんぞ?」
「いいじゃねぇか、好きにやらせておけよ。どうせあの連中が大きな顔で好き勝手出来るのもよ? 」

 ジオンの言葉に、そう言ってニヤリと父親ジオンに良く似た獰猛な笑みを浮かべてゼルド。

「あん?そりゃどういう……?…っ!まさか…っ⁉︎ 」
「クク…ッ!ああ、そのだよ親父。教官達と研究していたの準備がやっと出来たのさ。なあ、エドワルド? 」
「はい、ゼルド王子。試作機による稼働試験も恙無つつがなく終え、量産に入る準備は全て整いました。後はもう、陛下の御裁可を待つばかりで御座います 」

 ゼルドが視線を転じた先で肯定の返事をしたのは、【国家錬金術師】筆頭「エドワルド・ハーガネィ」である。
 その秀麗な面立ちに柔和な笑みをニッコリと浮かべて相槌を打つ。

「クッ、クククク…ッ!あーっはっはっはっは…っ‼︎  そうか、そうかよ!そりゃあいいっ‼︎ 」

 先程までの不機嫌さ全開の表情から一転、いきなりジオンの雰囲気が変わった事に会議室に集まる面々が呆気に取られる中、可笑しくて堪らないといった感じで楽しそうに大笑いするジオン。
 そんなジオンに、こちらも悪い笑顔を浮かべたゼルドが重ねて言う。

「な、親父、面白えだろう?アイツ等は、自分達の足下がとっくの昔に崩れる寸前のになってる事に、全然気が付いてもいねぇんだぜ?自分達が如何に愚かだったのか、精々大慌てしてもらおうや 」
「だな!エドワルド、今ここで改めて命を下す!【国家錬金技術局】の総力を挙げて、の計画を実行、量産体制に入れっ‼︎ 」
「御意。御命承りました。全て陛下の御心のままに 」

 胸に手を当てる"貴人の礼"の姿勢を取り、恭しく頭を下げるエドワルド。

「ビギン、お前等近衛騎士団の方はどうだ?」
「はっ! 訓練用としてゼルド様方から試作機二機を賜わり、既に先行選抜メンバーが訓練を開始しております 」
「で、あるか。で、あるか!でぇ、あぁるぅかあぁぁぁぁぁっ‼︎ くははははははははははははははははははははははぁっ‼︎ 」

 目に掌を当ててけたたましく大笑いするジオンに、楽しそうに、嬉しそうに、または何かを企んでいるかのように事情を知っている者達が笑みを浮かべて笑い、嗤う。
 しかし、会議室に集まる殆んどの者達にはさっぱり訳が分からない。

 だが、そんな者達の感情や様子などは一顧だにしないまま、たった今が決まり、動き出した事だけは感じる一同。

 彼等は知らない。コレが後に大陸中を震撼させ、歴史を変える決定であったということを。その瞬間を自分達は目撃していたのだということを……… !

「さて、そうと決まれば話しは別だ。奴等の、精々派手に演出してやろうじゃねぇか!いいな、野朗共っ‼︎ 」

『『『『『 は………っ‼︎‼︎ 』』』』』

 この数時間後、王都の西三十ケルグキロの地点において、"対巨獣討伐戦"が開始され、巨獣達は全て討伐されたのだった ーーーー。





「うぅむ………?」
「どうしたんだ? そんな難しい顔をして 」

 巨獣との戦闘に参加したひとりの"高位《土属性》魔法使い"が、王都に帰還する馬車の中でしきりに首をひねっていた。

 そんな彼の様子を不審に思った同乗者の《土属性》魔法使いが、どうしたのか?と声をかける。

「いや……。自分でもよく分からないが、騎士団の連中の態度が何だか気になってな……? 」
「低脳な脳筋バカ、筋肉しか取り柄の無い騎士共も、漸く自分達の愚かさ、我等の偉大さに気付いただけではないか?」
「だといいんだがな……… 」

 いつもなら戦闘が終わった後には、騎士団の連中は我々に向けて、悔しそうな、または怒りに満ちた視線を向けて来る。"持たざる者"である騎士団からのその視線を受けることも、その視線を嘲笑ってやることも、"持つ者"である自分には優越感を感じられる楽しい行為であったのだが、今日はそれが無かった…?

「まさか奴等、我々を排除する気では…⁉︎ 」
「プッ!はーっはっはっ!無い無い!それは無い‼︎ そんな事をすれば、困るのは王国だぞ?出来るはずがなかろう?」
「それもそうか……… 」
「だろうっ?………それよりも、だ… 」

 男の懸念を、もうひとりの男は一笑のもとに笑い飛ばす。
 確かに自分達が居なくなっては、連中には次に巨獣が襲って来たとしても押し留める術が無い。やはり考え過ぎであったか?と自分で自分を納得させる男に顔を寄せて、もうひとりが声を潜めて話しかけた。

「いよいよ閣下が動き出されるぞ…!」
「何っ‼︎ それではがっ⁉︎ 」
「シッ!声が大きい…! もし連中に聞かれたらどうするっ⁉︎ ……まだだ、まだ早い 」
「では、いつ…?」
「分からぬ。閣下の御智謀は深遠膨大。我等如きでは計り知れぬ。だが………、そう遠くない日に実行されるだろう 」
「なるほど………。クククッ、いよいよか…!」
「そうだ。いよいよだ 」

「ククク… 」
「フフフ… 」

 高笑いではない。だが、肩を揺らし、さも楽しそうに男達は嗤う。

 巨獣の襲来よりも尚恐ろしい、巨大な人の欲望と狂気が、王都の空を覆い始めていた………。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 いつもお読み頂きありがとうございます!

 近況でも書きましたが、本当に沢山の方々に応援して頂き、頂いたptは倍に。100位以内、昨年よりも順位を上げて終えることが出来ました!
 しかも期間中にお気に入り設定して下さった方も100人以上⁉︎ 本当に楽しく、嬉しい大賞期間でした。

 これも全て応援して下さった皆様のお陰です。本当にありがとうございました。

 今回より新章となります。引き続きお楽しみくだされば幸いです。
 よろしくお願いします。
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