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第21章 再会 友……よ?
第174話
しおりを挟む俺は自分達が、この"剣と魔法の世界"、イオニディアとは異なる世界である"地球"という世界から来たことを、爺さんを始めとした部屋の中の者達にまず明かし、この世界に跳ばされる事になった【次元振動炉】の事件から、ここに居る皆んなと出逢うに至った経緯を簡潔に説明していった。
「くくく…っ、なるほど"地球"とな?…それはまた…、随分と面妖な地より参ったものじゃのう……?」
「惚けんなよ爺さん。どうせ大方の予想はついてたんだろう?」
「くかかかっ!まあ…の?何せお主はその"黒髪黒目"の風体といい強さといい、何より普通の者では考えも付かぬような、他に類を見ぬ独特過ぎる発想と、何から何まで異質尽くめじゃったからな?伝え聞いた話に照らせば予想は出来たわ 」
やはり爺さん達は俺の正体について、ある程度の予想をしていたようだ。
爺さんは、いつもの悪戯が成功した時の子供のような表情をして、クックッと喉を鳴らし如何にも面白そうに笑う。
「なるほどな……、ってことは、前例があるんだな?」
「うむ。と言っても間違いなく【来訪者】じゃ、と分かるのは歴史上二人のみ、お主で三人目じゃな 」
へえ…、異世界から来た者のことをそう言うのか。聞けば、他にも〈境界を越えし者〉とか、〈女神の客人〉なんて呼び方もするらしい。
ただ、未確認の者はもっと居たのかもしれんがの?と爺さんは言う。
ちなみに、かつて現在の「秀真の國」近辺のダークエルフ達の氏族に、刀や剣術、米作や味噌、醤油などの日本文化を伝えたのはやはり【来訪者】であったらしい。だよなぁ…、そんな気はしてましたよ。
「ち、地球?別の世界⁉︎ヒ、ヒロト様が……っ⁉︎ 」
「違う世界から来た⁉︎ そ、そんな事が本当にあるのかい⁉︎ 」
「ジイちゃん、その話は本当なのか?俺にはとても信じられねぇよ……⁉︎ 」
俺の正体について、ある程度当たりをつけていた爺さん達は「やっぱりな」ぐらいの感じだが、セイリアやソニア、ゼルド達は突然のこと過ぎて、まだ信じ切れないようだ。
「まあ、お前達が信じられぬのも無理はない。じゃが、これまでの歴史の中で、異世界から来たと名乗る黒髪黒目の者が、"膨大な魔力"による圧倒的な力と"独特な発想力"で数々の難題を解決し、多くの人々を救ったというのは紛れも無い事実なのじゃ 」
ゼルドの疑問に対して、そう話して聞かせる爺さんだったが、そんな爺さんの言葉に否を唱えた者がひとりだけ居た。誰かといえば、ティーリちゃんである。
「で、ですが武神様!ダイと私は小さな頃からずっと一緒に育って来たんですよ⁉︎ おじさんやおばさんのことだって知ってます!髪の毛だって黒くありませんし!」
この場で最も激しく動揺しているのはティーリちゃんだろう。他の者が酷く吃驚しているだけなのに対して、彼女の顔だけは真っ青になってしまっている。
無理もない、いつも隣にいたはずの幼馴染みが、突然得体の知れない別モノに変わってしまったかのような説明を受けたのだから。もしそれを認めてしまったら、"本当にそうなってしまう…"そんな不安に駆られているのかもしれない。
「ふむ?言われてみればそうじゃのう?どういうことじゃヒロト?」
「ああ、それはな、こちらに来た時の経緯というか、"状態"の違いだな 」
そう言ってみたものの、皆んなは総じてキョトンとした顔をしていて、イマイチ意味が伝わっていないようだ。
「ん~?つまりな、俺は地球生まれで地球育ちの『玖珂 大翔』が、そのままこの世界に来た【転移】で、対してダイは俺の同僚だった『白間 大輔』が、魂だけの状態でこの世界に来て、こちらの人間として"生まれ変わった"【転生】という状態なんだ。だから、こっちにちゃんとした家族も存在するし、黒髪黒目ではない、ということなんだよ 」
「"生まれ変わり"……、ますます面妖な話じゃのう…。しかし、それは確かなのか?」
【転移】というだけでも、前例が無ければなかなか信じられるものではないだろうに、やはり"生まれ変わり"だなどといきなり言われても、そうそう理解出来るものではないか。
「ああ、間違いない。大輔は、………確かに俺の目の前で殺されて息絶えた。それは俺自身が確認している。だからこそ"二度と会えない"と思っていたんだが、姿形は変わっても、俺と大輔にしか分からない相棒としての"呼吸"をダイは憶えていたからな 」
『『『『『……‼︎⁉︎ 』』』』』
「し、死んだ? 殺されたっ⁉︎ ダイは一度死んだってのか兄貴っ⁉︎ 」
「……なるほどのぅ…。"生まれ変わった"という事は一度"死んだ"という事。しかし……、己が死に様を憶えている、というのは…、キツイのぉ……… 」
話しを聞いた皆んなが、一様に表情を強張らせている。大輔が一度死を体験しているという事実は、生まれ変わりよりも更に一層の衝撃を皆んなに与えたようだ。
「あ~いや、皆んなー、そんな深刻な顔しないでいいよー?俺自身、『ヤバいっ⁉︎』と思った次の瞬間からの記憶は無くてー、たぶんその時に死んだんだろうけどー?だからー、"痛い"とか、"苦しい"とかは全然無いんだー 」
あの時、大輔は光学迷彩で潜んでいた正体不明の"黒いASD"に頭を撃ち抜かれた。たぶん…いや、間違いなく即死だっただろう。その点に関してだけは、今の記憶に"死の苦しみ"が残っていないのはまさに不幸中の幸いというやつだな。
と、そこで俺達の話しを黙って聞いていたティーリちゃんが口を開いた。
「………どっちなの?生まれ変わりだとかそんなことはどうでもいいの!ねえ、答えて!今のアンタはダイなの?それとも……、そのダイスケって人になっちゃったの?ねえ、どっちなの⁉︎ 」
……ああ、なるほど…。たとえ魂は同一でも、彼女にとって"大輔"とは見知らぬ他人。彼女にとって大事なことはダイがダイのままであるのかどうか?その一点だけなんだ。
自分にとってかけがえの無い存在が、好きな男がそのままであるのか?単純かもしれない。だが、それは彼女にとってとても大切なこと。
大輔に近付き、ほんの少しだけ肘で小突いてアイコンタクトを送る。
ーー (分かってんだろうな?)ーー
ーー(分ーかってるよ、任せろー)ーー
「ティーリ。俺にはー、確かに地球の記憶、『白間 大輔』だった記憶がーある。けどなー、そいつはもう終わった人生だ。俺はー、『ダイ』だよ。あの小さな街で生まれてー、ティーリと一緒に大きくなったー…、"泣き虫"だった『ダイ』のままだよ 」
「………本当に?本当にアンタは"ダイのまま"なの?」
「本当、本当ー!小さい頃に、うちに泊まったティーリがー、寝小便して大泣きしちゃった事だってー、ちゃんと憶えてるぜー?ニッヒヒッ!」
「バっ、バカ…ッ⁉︎ ………でも、そうなのね?本当にダイのままなのね…。………良かった…… 」
大輔の軽口に、顔を真っ赤にしながらも、安心したのか目に涙を溜めてはいるがやっと笑顔が戻ったティーリちゃん。うむ、大輔グッジョブ!
………けど、対応がイケメン過ぎてなんかムカツク…⁉︎ サル面のクセに…!
「でもさー、話しを聞いてて思ったんだが、ってことは、大翔ー?お前の身体はー………?」
まさか…?といった顔で聞いてくる大輔………いや、もう『ダイ』だな。大輔であるのは、"俺にとって"だけでいい。
「ん?ああ、お察しの通り義体のままだ 」
「………んなっ⁉︎ た、大変じゃねーか!メンテとかどーするんだよっ⁉︎ 」
突然慌てふためき始めるダイ。周りはそんなダイの姿をキョトンとして見ているが、これは俺と、かつて義体であった大輔の記憶を持つダイにしか分からないことだから仕方ない。
義体…、つまりサイボーグとは、〈Cybernetic Organism〉の略語で、臓器などの一部、もしくは全身…その割合はともかく電子制御された人工物によって身体機能を代替させた者を指す。
まあ、どちらかと言えば一般的には"全身義体"のような、全身のおよそ七割以上を機械化させた者を指す言葉として定着してしまっていたけどな。
これらは病気や怪我などで欠損してしまった身体機能を補う技術として用いられるが、過去にSF作品で度々登場したように、元々は宇宙開発など、過酷な環境に適応できるように、人間以上の存在を創出することが本来の目的であったようだ。
そうした着想から幾百年、人類が夢見た機械と人間生命の融合は飛躍的な進歩を見せて結実した。ただし、"開発"ではなく"戦争利用"で、だが。
科学の進歩は戦争技術の進歩、という側面もある以上、これは仕方のないことだったのかもしれないが、ともかくサイボーグ…義体技術は軍部だけでなく一般社会にまで浸透し、元は全身義体といえば戦闘用サイボーグの代名詞であったが、今や機能を制限して、一般社会でも当たり前の存在となった。
だが、義体技術にも弱点、というか落とし穴はある。それは生体と違い、自己修復出来ないということだ。また義体とは超精密機器の集合体であるということ。
俺達の義体には最新生体科学を使用した最先端の生体部品が多く活用されているが、それでも機能不全を防ぐため、部品の交換やバランスの調整など、ラボでの定期的なメンテナンスは絶対に欠かせなかった。
ダイが心配しているのはこの点で、電気すら無い科学技術の無いこの世界では、部品交換など定期的なメンテナンスなど望むべくもない。
なにしろ一度故障してしまえばもう終わりなのだ、それは全身義体である者にとっては緩やかではあるが、"確実な死"を宣告されている。ということに他ならない。
ーーーー 本来であれば、だが。
「ああ、そこは問題無えよ。"メンテナンスフリー"になるように、【義体自動修復】のスキルをもらったから 」
「………………………は?何だよそれ!どういうことだっ?貰った、っていったい誰にっ⁉︎ 」
驚きに眼を見張るダイ。周りの皆んなは相変わらずキョトンとしたままだが、そんな有り得ないことを聞かされたダイは面白いくらいにアワアワしていた。
「誰って、そりゃあアフィーちゃんからだよ」
「だから誰だよ!その"アフィーちゃん"ってのはーっ⁉︎ 」
「ああ!愛称じゃ分からないよな。アフィーってのは、『アフィラマゼンダ』の事だよ」
『『『『『………………………っ‼︎ はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎⁉︎⁇ 』』』』』
その名を聞いてもすぐには思い至らなかったのか、若干の間が空いたようだが、アフィラマゼンダの名前が全員の脳に染み込んでいくにつれて皆んなの表情がだんだんと驚愕の色へと染まっていき………、最後は叫声の大合唱となった。
「ちょっ!まっ⁉︎ お、おいヒロト!そりゃあ七柱の最高神"全ての光と慈愛を司る女神"であらせられる『アフィラマゼンダ』様のことか⁉︎ 」
「ああ、そうだな。本人が自分でそう言ってたし。初対面の時は神々しさとかサッパリだったけどな?」
「なっ⁉︎ お前、アフィラマゼンダ様に対してなんちゅう不敬なことを言ってやがるっ!」
俺の言葉にガー!っと熱り立つ陛下。
だってさー、仕方ないよな?いきなり悪ノリかましてアダルトサイトの定番、"冒頭インタビューごっこ"を観せられてみ?俺はアイがうっかり秘蔵メモリーか何かを誤作動させたかと思ったよ。おまけにさぁ、登場の仕方が神々しさとは真逆の和製ホラー、"貞○"みたいにモニターから這い出して来るんだもんなぁ………。そんなん、まさか最高神のひとりだなんて思わないよな?普通。うん、俺、悪くない。
「いーんだよ、おっさん。アフィーからも"そう呼べ"って言われてるんだからよ 」
『『『『『~~~~~~っ‼︎ 』』』』』
再度驚き、今度こそ絶句する一同。
「な、なるほどのぅ…、ちと驚き過ぎて言葉も無いが、それなら〈上級闇精霊〉であるクーガ様の方から契約を望まれたのも頷ける話しじゃな… 」
声を搾り出すようにそれだけ呟いた爺さんに続いてセイリアも口を開く。
「ア、アフィラマゼンダ様から愛称で呼ぶことを許されるなんて…!はっ⁉︎ ということは、ヒロト様はアフィラマゼンダ様の使徒様なのですか⁉︎ 」
驚いていると同時に、何かキラキラとした憧憬の瞳でこちらを見上げてくるセイリア。
「いやいや、違う違う!アフィーに加護は貰ったけど、俺は『好きに生きていい』って言われてるんだ。だから"使徒"なんて大層な者じゃないって!」
慌てて否定するが、そんな俺をゼルドがジト目で見て顔を引攣らせる。
「いや…、加護貰ってるだけでも普通は有り得ねぇからな?」
周りの皆んなもウンウンと頷いてる。と、そんな中で、今まで一言も発していなかったイラヤ学院長が、初めてその口を開いて会話に入ってきた。
「あの…ヒロトさん?色々聞きたいことは山積みなんですが、さっきからあなたやそちらのダイ君が口にしていた"ギタイ"とは何なんですか?」
ああ、そうか。そう言えばアフィーの件で話しが逸れてしまったが、説明の途中だったよな。
俺は口に出さず指令を出して手をかざし、自分の座る場所のテーブルの上に、三十センチほどの魔法陣を描き出す。やがてその魔法陣の中心にあるモノが作り出されていく。
「あれ?ヒロト様、その術式はメイガネーノの工房で見た………?」
「そうだよ、セイリア。色々と説明する前に、俺がこの世界に来ることができたキッカケでもある………、大輔とは違う、もうひとりの大切な相棒を皆んなに紹介したいんだ。………ほら、自己紹介しな 」
魔法陣の光が消えた場所で三十センチほどの大きさの"人影"が立ち上がり、今までこの部屋の中に居た誰とも違う声が室内に静かに響いた。
ーーー「大輔さん、お久し振りです。セイリアさん、ソニアさん、そして皆さん、初めまして。私はマスターの補助AIであり、〈情報生命体〉の『アイ』と言います。よろしくお願いしますね 」ーーーー
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