12 / 12
汚くて臭いからと言われ領主の息子に大切な孤児院が潰されそうになったので婚約破棄を決意する令嬢
第五話 婚約破棄とその後
しおりを挟む
「10日前、あなたが孤児院を廃止すると一方的に迫ったあの場にわたくしもいたのです! どうせこの地に来るならばと予定を前倒しにして半月の間、お忍びでシスターとしてこちらでお世話になっておりました。わたくしの侍女のジゼルからいつも聞いていた通り、環境は決して良いとは言えなくとも、とても素晴らしい人たちに囲まれて最高の時間を過ごすことが出来ました。そんな時にオリバー、あなたがやって来たのです」
ソフィアはオリバーを睨みつけた。
「あなたはわたくしにこう言いました、『無知で地味で貧乏くさい女』と。『呆れるくらいに馬鹿だ、大馬鹿者だ』と。もうお忘れですか?」
ソフィアは何も言うことが出来ずに呆然と突っ立っているオリバーの前までゆっくりと移動し、静かに話を続けた。
「わたくしは知らない土地や他国に嫁ぐくらいなら、ジゼルから聞いていた温かい人たちのいるこの地に嫁ぐのも良いなと本気で思っておりました。実際に教会で過ごしている時もそう思っておりました。あの日、醜悪なあなたに会うまでは……。この婚約は破棄させてもらいます! まだ正式な婚約ではなかったですし、文句は言わせません!」
「そ、そんな……」
婚約破棄を告げられてオリバーは膝から崩れ落ちた。
「聞いての通りソフィア様が証人です。脱税を行っただけではなく、公爵令嬢のソフィア様に暴言を吐くとは……。あなたたちをこれから王都へ連行します。そして裁判にかけられます。最低でも爵位と領地の没収は免れないと思ってください。お前たち、二人を連行しろ!!」
ウィリアムズ侯爵がそう叫ぶと、教会の外から何人もの騎士が現れてペイント伯爵とオリバーの手首に縄をかけた。
「待ってくれ! わしは無実だ! すべて誤解なんだ!」
「私も父上も無実だ! この地を狙っているハイエナ共の陰謀だ!」
二人の断末魔のような醜い叫び声は馬車が見えなくなるまで響き渡った。
「シスター、わたくしは証言のために一度王都に戻らなければなりません。宿まで子供たちを迎えに行ってあげてください。そして何か温かい物を食べさせてあげてください。材料はたくさん持ってきてあります」
ソフィアは年配のシスターにそう言うと、ウィリアムズ侯爵と共に馬車に乗り込んだ。ソフィアは窓から見える風景をしばし見つめた。風がそよそよと吹き、木々が踊るように揺れている。
「ソフィア様、この地は今後どうするおつもりで?」
ウィリアムズ侯爵が尋ねた。
「そうね……。いっそ王である叔父様に直談判してわたくしの領地にしてもらいましょうかしら。そうしたら領地に越してきて教会にもすぐに顔を出せるようになるし。はぁ、でもまた結婚から遠のいてお父様に色々と言われるわ……」
「ソフィア様なら大丈夫ですよ。ソフィア様と結婚したがっている男は五万といますから。私だって選んでいただけるなら是非とも……」
ウィリアムズ侯爵は言葉を続ける前に、ソフィアを見つめて微笑んだ。
「とにかく今回の監査とソフィア様の顔合わせの時期が被って本当に幸運でしたよ、こうやってゆっくりと話す機会に恵まれたのですから」
「ウィリアムズ様は本当に口がお上手ですね。まぁ、悪い気はしませんけど……」
二人は心地よい笑い声をあげながら、お互いを見つめ合った。
後日、正式にペイント伯爵の爵位と領地の没収が決定した。彼とその息子オリバーは国を欺いた罪人として犯罪奴隷となり、炭鉱での5年間の労働が命じられた。皮肉にも汚くて臭いと馬鹿にした孤児たちよりも劣悪な生活を送ることになるのであった。
一方、領地はソフィアに譲られ、その恩恵は領地の隅々に行き渡った。教会と孤児院も寄付が増え、生活の質は劇的に改善された。領民はソフィアに感謝し、彼女の優しさと慈愛に心から敬意を払うのだった。
領主になったソフィアの元には、定期的に長身の文官が訪れるようになった。ウィリアムズ侯爵である。彼はソフィアの良き理解者であり、彼女の希望や悩みを聞き共有する存在になっていた。そして、彼らの関係は時間をかけて次第に深まっていくのだった。
=== 完 ===
ソフィアはオリバーを睨みつけた。
「あなたはわたくしにこう言いました、『無知で地味で貧乏くさい女』と。『呆れるくらいに馬鹿だ、大馬鹿者だ』と。もうお忘れですか?」
ソフィアは何も言うことが出来ずに呆然と突っ立っているオリバーの前までゆっくりと移動し、静かに話を続けた。
「わたくしは知らない土地や他国に嫁ぐくらいなら、ジゼルから聞いていた温かい人たちのいるこの地に嫁ぐのも良いなと本気で思っておりました。実際に教会で過ごしている時もそう思っておりました。あの日、醜悪なあなたに会うまでは……。この婚約は破棄させてもらいます! まだ正式な婚約ではなかったですし、文句は言わせません!」
「そ、そんな……」
婚約破棄を告げられてオリバーは膝から崩れ落ちた。
「聞いての通りソフィア様が証人です。脱税を行っただけではなく、公爵令嬢のソフィア様に暴言を吐くとは……。あなたたちをこれから王都へ連行します。そして裁判にかけられます。最低でも爵位と領地の没収は免れないと思ってください。お前たち、二人を連行しろ!!」
ウィリアムズ侯爵がそう叫ぶと、教会の外から何人もの騎士が現れてペイント伯爵とオリバーの手首に縄をかけた。
「待ってくれ! わしは無実だ! すべて誤解なんだ!」
「私も父上も無実だ! この地を狙っているハイエナ共の陰謀だ!」
二人の断末魔のような醜い叫び声は馬車が見えなくなるまで響き渡った。
「シスター、わたくしは証言のために一度王都に戻らなければなりません。宿まで子供たちを迎えに行ってあげてください。そして何か温かい物を食べさせてあげてください。材料はたくさん持ってきてあります」
ソフィアは年配のシスターにそう言うと、ウィリアムズ侯爵と共に馬車に乗り込んだ。ソフィアは窓から見える風景をしばし見つめた。風がそよそよと吹き、木々が踊るように揺れている。
「ソフィア様、この地は今後どうするおつもりで?」
ウィリアムズ侯爵が尋ねた。
「そうね……。いっそ王である叔父様に直談判してわたくしの領地にしてもらいましょうかしら。そうしたら領地に越してきて教会にもすぐに顔を出せるようになるし。はぁ、でもまた結婚から遠のいてお父様に色々と言われるわ……」
「ソフィア様なら大丈夫ですよ。ソフィア様と結婚したがっている男は五万といますから。私だって選んでいただけるなら是非とも……」
ウィリアムズ侯爵は言葉を続ける前に、ソフィアを見つめて微笑んだ。
「とにかく今回の監査とソフィア様の顔合わせの時期が被って本当に幸運でしたよ、こうやってゆっくりと話す機会に恵まれたのですから」
「ウィリアムズ様は本当に口がお上手ですね。まぁ、悪い気はしませんけど……」
二人は心地よい笑い声をあげながら、お互いを見つめ合った。
後日、正式にペイント伯爵の爵位と領地の没収が決定した。彼とその息子オリバーは国を欺いた罪人として犯罪奴隷となり、炭鉱での5年間の労働が命じられた。皮肉にも汚くて臭いと馬鹿にした孤児たちよりも劣悪な生活を送ることになるのであった。
一方、領地はソフィアに譲られ、その恩恵は領地の隅々に行き渡った。教会と孤児院も寄付が増え、生活の質は劇的に改善された。領民はソフィアに感謝し、彼女の優しさと慈愛に心から敬意を払うのだった。
領主になったソフィアの元には、定期的に長身の文官が訪れるようになった。ウィリアムズ侯爵である。彼はソフィアの良き理解者であり、彼女の希望や悩みを聞き共有する存在になっていた。そして、彼らの関係は時間をかけて次第に深まっていくのだった。
=== 完 ===
5
お気に入りに追加
237
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄での再会
むしゅ
恋愛
男爵令嬢アリシアは、3歳の頃の記憶がない。彼女の過去は断片的に蘇り、知らないあの子の姿が何度も思い浮かぶ。パーティー会場で公爵令息オルグに伴われ、公爵令嬢ビアンカに突如として婚約破棄を告げる。その瞬間、ビアンカの顔が、かつて自分を助けようとした女の子の顔と重なった。果たしてあの子は……。彼女の苦悩の中で、男爵令嬢を中心とした婚約破棄の劇が幕を開ける。
【完結】私を醜い豚と罵り婚約破棄したあなたへ。痩せて綺麗になった私を見て今更慌てて復縁を申し出てきても、こちらからお断りです。
不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
恋愛
「醜い豚め!俺の前から消え失せろ!」
私ことエレオノーラは太っていて豚のようだからと、
婚約破棄されてしまった。
見た目以外は優秀であっても、
人として扱ってもらえなければ意味は無い。
そんな理不尽な現実を前に、
ついにエレオノーラはダイエットすることを決意するのであった。
一年後、鏡の前に立つ。
そこにもう豚はいなかった。
これは人となったエレオノーラが、
幸せになっていく物語。
わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」
婚約者である私の事を処刑しておいて、今になってやっぱり私の事が好きだと?
新野乃花(大舟)
恋愛
魔女の生まれ変わりだと決めつけられ、迫害を受け続けてきた令嬢ミレーナ。けれど弱音も吐かず、周囲の憎しみを一心に引き受けるミレーナの姿に心を奪われたジーク伯爵は、そんな彼女に優しい言葉をかけて近づき、二人は婚約関係を結ぶに至った。
…しかしそれは、ミレーナの処刑を楽しむためにジークの仕組んだ演出にすぎなかった。彼女はつかみかけた幸せの日々から一転、地獄へと突き落とされ命を落としてしまう…。
しかし処刑されたはずのミレーナは、目を覚ますことが叶った。自分のよく知るその世界は、異世界でもなんでもなく、彼女にとっての現実世界だった。
…彼女は、現世に違う人間として転生してしまったのだった。新しい彼女の名前はクレアと言い、それはジーク伯爵がこの世で最も愛する女性だった…。
※カクヨムにも投稿しています!
悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?
輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー?
「今さら口説かれても困るんですけど…。」
後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о)
優しい感想待ってます♪
私の主張は少しも聞いてくださらないのですね
四季
恋愛
王女マリエラは、婚約者のブラウン王子から、突然婚約破棄を告げられてしまう。
隣国の王族である二人の戦いはやがて大きな渦となり、両国の関係性をも変えてしまうことになって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる