9 / 12
汚くて臭いからと言われ領主の息子に大切な孤児院が潰されそうになったので婚約破棄を決意する令嬢
第二話 教会へ向かう馬車にて
しおりを挟む
理不尽な立ち退き要求から10日が経った。領主の息子であるオリバーは父親のペイント伯爵と共に教会へ向けて馬車を走らせていた。
風が冷たく吹き付ける中、馬蹄の音が街の石畳を響かせる。ペイント伯爵は窓から外を見つめながら、不満を抱いていた。
「まったく、なぜ教会なんぞで待ち合わせせねばならぬのだ」
ペイント伯爵は不機嫌そうな顔で息子のオリバーに問いかけた。
「父上、何度も言っているではありませんか。それはソフィアの希望なのです。婚約して初めて会うのできちんと屋敷で迎えたかったのですが……。そもそも私も過去に1度会って軽く挨拶しただけなので彼女が何を考えているかまったくわからないのです」
ペイント伯爵の不機嫌そうな表情にオリバーは苦笑いしながら答えた。ペイント伯爵は眉をひそめながら考え込んだ。
「まったくお前の婚約者は変わった娘だ。そういえば以前王都で噂を聞いたことがある。確か出自が定かじゃない平民出身の侍女を何人も側に置いているらしい。やつらは犬以下の存在だ、大方いじめ抜いて快楽を得るためだろうが……ふんっ、若い女にしてはなんとも趣味が悪い。公爵令嬢としては少々問題があるみたいだな」
ペイント伯爵はあざけりの笑みを浮かべながら、その言葉を放った。口元からは高慢な気配が漂い、相手を見下すような態度がにじみ出ていた。
「まぁしかし、その変わり者がなぜかお前と婚約したいと言い出したおかげで我が家は安泰だがな。三女とはいえ公爵令嬢だ。爵位だけは立派だからな」
そう横柄な口調で語り、優越感に満ちた態度を見せた。オリバーは顔をしかめながら、父の言葉に少し複雑な思いを抱いた。彼にもソフィアとの婚約が何を意味しているのか理解出来ていなかったからだ。
「その通りですね。しかし、なぜ私との婚約話を向こうから持ち出して来たのか……本当に謎です。色々と探りを入れてみたのですがまったくわかりませんでした」
オリバーは少し戸惑いながらそう言った。
「我が領の領地経営が優秀だからかもしれんな。言い訳ばかりで文句しか言えない愚図な領民を甘やかさせずに、きちんと税を納めさせているのだからな。やつらはすぐに不作だなんだと嘘をつく。お前も我が領地を継いだ際は気をつけるんだぞ」
「ええ、平民の浅ましさ……肝に銘じておきます。父上」
オリバーは笑いながらわざとらしく深く頷きながら、父の言葉を心に留める姿勢を見せた。
「それにしても他国の有力貴族へ嫁ぐ話もあったのに国内の伯爵家に嫁ぐと決まったことで反対もあったらしい。まったく馬鹿にしおって。変わり者をもらってやろうというのに」
「変わり者と言えば。あんな古臭いカビの生えた教会を見たいなんてどうかしてますよ。急いで家畜小屋と汚い孤児たちを片付けさせました。もちろん昨日使いをやって、ちゃんとゴミがいなくなって綺麗になっていることを確認しました」
オリバーの報告に、ペイント伯爵は満足そうに頷いた。
「うむ。よくやった。変わり者だろうが婚約中の公爵令嬢、機嫌を損ねてはいかんからな。それにしても教会も教会だ。国の決まりだから領主として教会に寄付をしてやっているのに調子に乗りおって。あまつさえ汚い孤児なんぞをうろうろさせおって」
ペイント伯爵は終始不機嫌なままだった。馬車が街の中心部に差し掛かると、教会の塔が見えてきた。石造りの壁は古びているが、その姿は重厚で歴史と威厳を感じさせるものだった。
「相変わらず古臭くてカビの生えた教会だ」
ペイント伯爵は不機嫌そうに呟き、馬車が教会の前に停まると降り立った。オリバーもその後を追い、教会の入り口に立つ。重い木の扉を押し開けると、内部には静寂が広がっていた。暗がりの中に漂う蝋燭の明かりが、壁の彫刻やステンドグラスに神秘的な輝きを与えている。
風が冷たく吹き付ける中、馬蹄の音が街の石畳を響かせる。ペイント伯爵は窓から外を見つめながら、不満を抱いていた。
「まったく、なぜ教会なんぞで待ち合わせせねばならぬのだ」
ペイント伯爵は不機嫌そうな顔で息子のオリバーに問いかけた。
「父上、何度も言っているではありませんか。それはソフィアの希望なのです。婚約して初めて会うのできちんと屋敷で迎えたかったのですが……。そもそも私も過去に1度会って軽く挨拶しただけなので彼女が何を考えているかまったくわからないのです」
ペイント伯爵の不機嫌そうな表情にオリバーは苦笑いしながら答えた。ペイント伯爵は眉をひそめながら考え込んだ。
「まったくお前の婚約者は変わった娘だ。そういえば以前王都で噂を聞いたことがある。確か出自が定かじゃない平民出身の侍女を何人も側に置いているらしい。やつらは犬以下の存在だ、大方いじめ抜いて快楽を得るためだろうが……ふんっ、若い女にしてはなんとも趣味が悪い。公爵令嬢としては少々問題があるみたいだな」
ペイント伯爵はあざけりの笑みを浮かべながら、その言葉を放った。口元からは高慢な気配が漂い、相手を見下すような態度がにじみ出ていた。
「まぁしかし、その変わり者がなぜかお前と婚約したいと言い出したおかげで我が家は安泰だがな。三女とはいえ公爵令嬢だ。爵位だけは立派だからな」
そう横柄な口調で語り、優越感に満ちた態度を見せた。オリバーは顔をしかめながら、父の言葉に少し複雑な思いを抱いた。彼にもソフィアとの婚約が何を意味しているのか理解出来ていなかったからだ。
「その通りですね。しかし、なぜ私との婚約話を向こうから持ち出して来たのか……本当に謎です。色々と探りを入れてみたのですがまったくわかりませんでした」
オリバーは少し戸惑いながらそう言った。
「我が領の領地経営が優秀だからかもしれんな。言い訳ばかりで文句しか言えない愚図な領民を甘やかさせずに、きちんと税を納めさせているのだからな。やつらはすぐに不作だなんだと嘘をつく。お前も我が領地を継いだ際は気をつけるんだぞ」
「ええ、平民の浅ましさ……肝に銘じておきます。父上」
オリバーは笑いながらわざとらしく深く頷きながら、父の言葉を心に留める姿勢を見せた。
「それにしても他国の有力貴族へ嫁ぐ話もあったのに国内の伯爵家に嫁ぐと決まったことで反対もあったらしい。まったく馬鹿にしおって。変わり者をもらってやろうというのに」
「変わり者と言えば。あんな古臭いカビの生えた教会を見たいなんてどうかしてますよ。急いで家畜小屋と汚い孤児たちを片付けさせました。もちろん昨日使いをやって、ちゃんとゴミがいなくなって綺麗になっていることを確認しました」
オリバーの報告に、ペイント伯爵は満足そうに頷いた。
「うむ。よくやった。変わり者だろうが婚約中の公爵令嬢、機嫌を損ねてはいかんからな。それにしても教会も教会だ。国の決まりだから領主として教会に寄付をしてやっているのに調子に乗りおって。あまつさえ汚い孤児なんぞをうろうろさせおって」
ペイント伯爵は終始不機嫌なままだった。馬車が街の中心部に差し掛かると、教会の塔が見えてきた。石造りの壁は古びているが、その姿は重厚で歴史と威厳を感じさせるものだった。
「相変わらず古臭くてカビの生えた教会だ」
ペイント伯爵は不機嫌そうに呟き、馬車が教会の前に停まると降り立った。オリバーもその後を追い、教会の入り口に立つ。重い木の扉を押し開けると、内部には静寂が広がっていた。暗がりの中に漂う蝋燭の明かりが、壁の彫刻やステンドグラスに神秘的な輝きを与えている。
5
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!
甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・
【完結】やり直そうですって?もちろん……お断りします!
凛 伊緒
恋愛
ラージエルス王国の第二王子、ゼルディア・フォン・ラージエルス。
彼は貴族達が多く集まる舞踏会にて、言い放った。
「エリス・ヘーレイシア。貴様との婚約を破棄する!」
「……え…?」
突然の婚約破棄宣言。
公爵令嬢エリス・ヘーレイシアは驚いたが、少し笑みを浮かべかける──
戦いから帰ってきた騎士なら、愛人を持ってもいいとでも?
新野乃花(大舟)
恋愛
健気に、一途に、戦いに向かった騎士であるトリガーの事を待ち続けていたフローラル。彼女はトリガーの婚約者として、この上ないほどの思いを抱きながらその帰りを願っていた。そしてそんなある日の事、戦いを終えたトリガーはフローラルのもとに帰還する。その時、その隣に親密そうな関係の一人の女性を伴って…。
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
拗れた恋の行方
音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの?
理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。
大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。
彼女は次第に恨むようになっていく。
隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。
しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。
私には婚約者がいた
れもんぴーる
恋愛
私には優秀な魔法使いの婚約者がいる。彼の仕事が忙しくて会えない時間が多くなり、その間私は花の世話をして過ごす。ある日、彼の恋人を名乗る女性から婚約を解消してと手紙が・・・。私は大切な花の世話を忘れるほど嘆き悲しむ。すると彼は・・・?
*かなりショートストーリーです。長編にするつもりで書き始めたのに、なぜか主人公の一人語り風になり、書き直そうにもこれでしか納まりませんでした。不思議な力が(#^^#)
*なろうにも投稿しています
【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる