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汚くて臭いからと言われ領主の息子に大切な孤児院が潰されそうになったので婚約破棄を決意する令嬢

第二話 教会へ向かう馬車にて

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 理不尽な立ち退き要求から10日が経った。領主の息子であるオリバーは父親のペイント伯爵と共に教会へ向けて馬車を走らせていた。
 風が冷たく吹き付ける中、馬蹄の音が街の石畳を響かせる。ペイント伯爵は窓から外を見つめながら、不満を抱いていた。

「まったく、なぜ教会なんぞで待ち合わせせねばならぬのだ」

 ペイント伯爵は不機嫌そうな顔で息子のオリバーに問いかけた。

「父上、何度も言っているではありませんか。それはソフィアの希望なのです。婚約して初めて会うのできちんと屋敷で迎えたかったのですが……。そもそも私も過去に1度会って軽く挨拶しただけなので彼女が何を考えているかまったくわからないのです」

 ペイント伯爵の不機嫌そうな表情にオリバーは苦笑いしながら答えた。ペイント伯爵は眉をひそめながら考え込んだ。

「まったくお前の婚約者は変わった娘だ。そういえば以前王都で噂を聞いたことがある。確か出自が定かじゃない平民出身の侍女を何人も側に置いているらしい。やつらは犬以下の存在だ、大方いじめ抜いて快楽を得るためだろうが……ふんっ、若い女にしてはなんとも趣味が悪い。公爵令嬢としては少々問題があるみたいだな」

 ペイント伯爵はあざけりの笑みを浮かべながら、その言葉を放った。口元からは高慢な気配が漂い、相手を見下すような態度がにじみ出ていた。

「まぁしかし、その変わり者がなぜかお前と婚約したいと言い出したおかげで我が家は安泰だがな。三女とはいえ公爵令嬢だ。爵位だけは立派だからな」

 そう横柄な口調で語り、優越感に満ちた態度を見せた。オリバーは顔をしかめながら、父の言葉に少し複雑な思いを抱いた。彼にもソフィアとの婚約が何を意味しているのか理解出来ていなかったからだ。

「その通りですね。しかし、なぜ私との婚約話を向こうから持ち出して来たのか……本当に謎です。色々と探りを入れてみたのですがまったくわかりませんでした」

 オリバーは少し戸惑いながらそう言った。

「我が領の領地経営が優秀だからかもしれんな。言い訳ばかりで文句しか言えない愚図な領民を甘やかさせずに、きちんと税を納めさせているのだからな。やつらはすぐに不作だなんだと嘘をつく。お前も我が領地を継いだ際は気をつけるんだぞ」

「ええ、平民の浅ましさ……肝に銘じておきます。父上」

 オリバーは笑いながらわざとらしく深く頷きながら、父の言葉を心に留める姿勢を見せた。

「それにしても他国の有力貴族へ嫁ぐ話もあったのに国内の伯爵家に嫁ぐと決まったことで反対もあったらしい。まったく馬鹿にしおって。変わり者をもらってやろうというのに」

「変わり者と言えば。あんな古臭いカビの生えた教会を見たいなんてどうかしてますよ。急いで家畜小屋と汚い孤児たちを片付けさせました。もちろん昨日使いをやって、ちゃんとゴミがいなくなって綺麗になっていることを確認しました」

 オリバーの報告に、ペイント伯爵は満足そうに頷いた。

「うむ。よくやった。変わり者だろうが婚約中の公爵令嬢、機嫌を損ねてはいかんからな。それにしても教会も教会だ。国の決まりだから領主として教会に寄付をしてやっているのに調子に乗りおって。あまつさえ汚い孤児なんぞをうろうろさせおって」

 ペイント伯爵は終始不機嫌なままだった。馬車が街の中心部に差し掛かると、教会の塔が見えてきた。石造りの壁は古びているが、その姿は重厚で歴史と威厳を感じさせるものだった。

「相変わらず古臭くてカビの生えた教会だ」

 ペイント伯爵は不機嫌そうに呟き、馬車が教会の前に停まると降り立った。オリバーもその後を追い、教会の入り口に立つ。重い木の扉を押し開けると、内部には静寂が広がっていた。暗がりの中に漂う蝋燭の明かりが、壁の彫刻やステンドグラスに神秘的な輝きを与えている。
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