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二章 ハンタイガワ
132 惺 ◇ AKIRA 屋根裏
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薄暗い階段を上り切ると辿り着いたのは、ひとつの扉だった。
普段から見ている洗練された、ホテルのような扉とは少し違っている。
焦茶の木製扉…全体に彫刻がされていて、所々に、ひし形に細工された〝黒や翠の鉱物〟が填め込まれている様だ。
少し古惚けた金色の縁には、絵画の額縁さながらの浮彫が施されている。そして、丸いノブが付いた四角い金色の金属板。その四方には、扉の面にあるのと同じ黒や翠の小さな鉱物が填め込んであった。
まじまじと扉を見詰めていると、隣に立って居た棕矢は僕の内心を見透かしたかのように口を開く。
「その鉱物は石英、要に水晶の類。〝黒翡翠〟と〝瑪瑙〟だ」
……おっと。これはまた、延々と続く解説を聞く事になるのか?
と思ったが、彼は「〝厄払い〟とか〝守護〟の力、後は〝仕事を円滑にする〟効力なんかがあるから、こうなったらしい」と言っただけだった。
さて…興味が湧き上がり、ぜひとも中に入りたいのだが…今の棕矢の話と言い、見事な宝飾と言い…実に入りにくい雰囲気を漂わせてくれているこの扉。
ノブに手を伸ばそうか、どうしようかと悩んでいると…
「さあ、どうぞ」
〝案内人〟は、先に扉を開け、丁寧に促した。
そこには、想像したよりも陰気な部屋が待ち構えていた。
暗い場所に、更に暗い穴がぽっかりと開いているみたいだ。辛うじて見える床板は深い焦茶色で、表面が少し、でこぼことしている。
暗闇の中、向かって正面に薄らと輪郭線を保っている、唯一の小窓と厚いカーテンは閉め切られ、昼間なのに殆ど陽は差して来ない。
雰囲気もあるのだろうか。全体的に狭く、空間が圧縮されたかの様である。
窓とカーテンの僅かな隙間から仄かに滲む光が、とても頼り無くて、息が苦しくなりそうだった。
しかし、好奇心に駆られ一歩足を踏み入れると、その印象は打ち消された。
何とも言い難い独特な空気が身を包む。満たされる…〝何か〟に。
……ああ、あの夢と同じ。
これは〝碧い夢〟の中と似ている。
懐かしいような。優しいような。柔らかいような…哀しいような…
そして、ふと思い出す。
……これは〝出遭った夜〟と、幼き頃にも経験した感覚、だと。
ぼんやりと立ち尽くしていた僕は、棕矢の声とまぶしさで現実に引き戻された。
暗かった部屋に陽が差している。棕矢がカーテンと窓を開けたのだ。
やはり、最初の印象通り、室内はとても狭い。
「さて。惺君は何を思って、ここに来たのかな?」
昔みたいに、からかう口調で言う彼。実に愉快そうですね。
「未だに子供扱いかよ」と苦笑しながら、僕は目的の物を指差した。
部屋の左手に置かれた本棚を。
空は快晴。そよそよと窓から入ってきた風が頬を撫でてゆく。
その陽に照らされた室内に舞う細かい塵が、きらきらとして幻想的だった。
普段から見ている洗練された、ホテルのような扉とは少し違っている。
焦茶の木製扉…全体に彫刻がされていて、所々に、ひし形に細工された〝黒や翠の鉱物〟が填め込まれている様だ。
少し古惚けた金色の縁には、絵画の額縁さながらの浮彫が施されている。そして、丸いノブが付いた四角い金色の金属板。その四方には、扉の面にあるのと同じ黒や翠の小さな鉱物が填め込んであった。
まじまじと扉を見詰めていると、隣に立って居た棕矢は僕の内心を見透かしたかのように口を開く。
「その鉱物は石英、要に水晶の類。〝黒翡翠〟と〝瑪瑙〟だ」
……おっと。これはまた、延々と続く解説を聞く事になるのか?
と思ったが、彼は「〝厄払い〟とか〝守護〟の力、後は〝仕事を円滑にする〟効力なんかがあるから、こうなったらしい」と言っただけだった。
さて…興味が湧き上がり、ぜひとも中に入りたいのだが…今の棕矢の話と言い、見事な宝飾と言い…実に入りにくい雰囲気を漂わせてくれているこの扉。
ノブに手を伸ばそうか、どうしようかと悩んでいると…
「さあ、どうぞ」
〝案内人〟は、先に扉を開け、丁寧に促した。
そこには、想像したよりも陰気な部屋が待ち構えていた。
暗い場所に、更に暗い穴がぽっかりと開いているみたいだ。辛うじて見える床板は深い焦茶色で、表面が少し、でこぼことしている。
暗闇の中、向かって正面に薄らと輪郭線を保っている、唯一の小窓と厚いカーテンは閉め切られ、昼間なのに殆ど陽は差して来ない。
雰囲気もあるのだろうか。全体的に狭く、空間が圧縮されたかの様である。
窓とカーテンの僅かな隙間から仄かに滲む光が、とても頼り無くて、息が苦しくなりそうだった。
しかし、好奇心に駆られ一歩足を踏み入れると、その印象は打ち消された。
何とも言い難い独特な空気が身を包む。満たされる…〝何か〟に。
……ああ、あの夢と同じ。
これは〝碧い夢〟の中と似ている。
懐かしいような。優しいような。柔らかいような…哀しいような…
そして、ふと思い出す。
……これは〝出遭った夜〟と、幼き頃にも経験した感覚、だと。
ぼんやりと立ち尽くしていた僕は、棕矢の声とまぶしさで現実に引き戻された。
暗かった部屋に陽が差している。棕矢がカーテンと窓を開けたのだ。
やはり、最初の印象通り、室内はとても狭い。
「さて。惺君は何を思って、ここに来たのかな?」
昔みたいに、からかう口調で言う彼。実に愉快そうですね。
「未だに子供扱いかよ」と苦笑しながら、僕は目的の物を指差した。
部屋の左手に置かれた本棚を。
空は快晴。そよそよと窓から入ってきた風が頬を撫でてゆく。
その陽に照らされた室内に舞う細かい塵が、きらきらとして幻想的だった。
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