銀狐と宝石の街 〜禁忌のプロジェクトと神と術師の契約〜

二章 ハンタイガワ

131 惺 ◇ AKIRA ステンドグラス

「屋根裏には、ここの階段を上がれば行ける」
棕矢そうやに案内されたのは、階段…ではなく、立派な宝飾の施された〝ステンドグラス〟だった。場所は二階の廊下を西に向かって進んだ突き当たり。彼の祖父母が使っていた寝室の真正面だった。
「おいおい、このステンドグラスの、どこが階段なんだ」
僕が苦笑すると、彼は、にやりとしてガラスの手前に在った〝傘付き洋灯ランプ〟を意味あり気に指差した。そして…その洋灯に下がっていた鎖のような紐を、三回引っ張る。
灯りが点いて、消えて…点いた瞬間、どこからかガチャリと、一際大きな音が響いた。
「ほら、手で押してみろ」
彼は、ステンドグラスを軽く顎で指す。何がどうなったのか解らない僕は、促されるまま鮮やかな〝輝く絵画〟に手を乗せた。すると、いとも容易たやすく流れるようにして動き出し…万華鏡みたいに、乱反射した色取り取りの光がちらちらと瞬またたいた。

そして、瞬きが消え去った……
その先に現れたのは、更に上へと続く〝隠し階段〟だった。

……想定外というか、想定内というか。
「まあ、この館みせの存在からすれば、こんな事も有り得る…のか」
ここに来てから〝あの不思議な孤児院〟とは比べ物にならないくらいの不可思議な事、おかしな事に遇あい過ぎている。でも…もう、この環境下に居る限りは〝これ〟が〝当り前〟なのだ…きっと。

棕矢は、突如現れた薄暗い階段を上っていく。だから、僕もそれに続く。
階段は古惚けた印象だったが外見より頑丈らしく、上へと伸びるいくつもの段差は無言のまま、堂々としていた。
……不可思議な怪しい空気を漂わせながら。