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一章 Nid=Argent・Renard

68 祖父 □ grandfather アキラ

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十一月 十八日。
私達は、裏の棕矢かれがくれた〝裏のルナの鉱物いし〟と、〝こちらのルナの鉱物〟を、それぞれに使い〝中和の存在〟を創った。

…二つの存在は、二歳くらいの幼児のカタチをしていた。

こちら側の鉱物を用いた方は、どことなく息子に似た男の子。
髪色は息子より薄いものの、ふわふわとした猫っ毛で、瞳の形も垂れ目気味で似ている気がする。それから、この子の瞳の色は、色素の薄い茶色ブラウン…まるで、息子の連れにそっくりだった。
それから、もう一方。裏側の鉱物を用いた方は、全体的な雰囲気が息子の連れに似た男の子だった。
切れ長の目と、女性的な穏やかで整った顔立ち。…しかし、艶やかな黒髪に、澄んだ紅色の瞳は誰に似ている訳でも無く、とても印象的だった。

「貴方…」

「……」

「これで、きっと…大丈夫よね」

「…きっと」

「ええ、きっと」


肩を震わせる妻の横。私はもう堪え切れなかった。

「…ごめんな」

「え?」

「ごめんな…お前まで巻き込んで…悪かった。本当に…」


この時…今更、仕方がないのに〝代償〟の事が脳裏で重く渦巻いていたのだ。
代償。現段階では、それらしき出来事は何も起こっていない。恭の時は、すぐに代償が判ったのに、今回は違うのか…?
一体どんなものが代償になるのか、全く見当が付かない…。
妻の手が、私の手に添えられる。温かい。

「いいえ。私だって関係しているでしょう? だから、貴方だけが背負う事じゃないわ」

彼女の言葉それは、子供をあやす様な声だった。
私は、童心に返った心持ちで「有り難う」と彼女の手を握る。

妻の頬からも一筋、涙が流れ落ちた。

それから、私と妻は〝中和の存在〟である二人の名を考えていた。今、二人には術を掛けてあり、眠っている。まじまじと存在カタチの顔を覗き込んでいた妻が、ふと「何だか、息子達に似てるわねえ」と、しみじみ呟いた。私も「そうだな」と微笑んだ。
数日間、妻と考えあぐねた結果、二人とも同じ響きの名前にしようという事で落ち着き『アキラ』に決まった。


◆劍…真っ直ぐなつるぎの様に意志強く、過酷な運命をも跳ね返す力に満ちた子になって、皆を守って欲しい。

◇惺…悟った様に心が落ち着いていて、遠くまで澄み渡る星空の様に、皆を正しく
導いて欲しい。


そんな意味を込め『劍』と『惺』になった。
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