29 / 211
一章 Nid=Argent・Renard
28 恭 ◇ Kyoh お兄様!
しおりを挟む
六月六日。
私は、お兄様を見付けた。
お空からルナの大木を見ていたら、棕矢お兄様が、ずぶ濡れになって走って来たの!
泣きながら、私の名前を叫びながら…走って来るお兄様。
……そっか。
「今日のルナは雨なんだわ」
だから私にも、あれが〝お兄様〟だ、って判ったのね。
お空の女の子達が教えてくれた。
街に雨が降った時が、一番近くでルナを見渡せる、って。
それは、〝お狐さま〟が街を見守っているから、って言っていたわ。
だから〝お狐さまに選ばれた私達〟も雨の日だけは特に、街に近付ける、と。
あれは間違いなく、私を探している。
私は…息を切らしながらも必死に走り回って、自分の名前を叫び続けるお兄様を、こうやって、ただ見詰める事しか出来ない。
「お兄様…」
私が〝ここ〟に来てから、もうひと月くらい経つのに。それなのに。
それなのに、今でもあんなに必死に…
「お兄様!」
私は〝あの日の玄関〟で叫んだ様に、力いっぱい〝彼〟を呼んでいた。
「恭ちゃん…大丈夫?」
ふと横から女の子のひとりが、私の顔を覗き込んでいた。
ああ…私は、ぽろぽろと涙を零していたみたいです。
その娘に「うん。知っている人を見掛けただけよ」と、ぎこちなく笑って見せる。
……お兄様。私の〝この涙〟は、雨と共に貴方のもとに届いていますか?
私は、お兄様を見付けた。
お空からルナの大木を見ていたら、棕矢お兄様が、ずぶ濡れになって走って来たの!
泣きながら、私の名前を叫びながら…走って来るお兄様。
……そっか。
「今日のルナは雨なんだわ」
だから私にも、あれが〝お兄様〟だ、って判ったのね。
お空の女の子達が教えてくれた。
街に雨が降った時が、一番近くでルナを見渡せる、って。
それは、〝お狐さま〟が街を見守っているから、って言っていたわ。
だから〝お狐さまに選ばれた私達〟も雨の日だけは特に、街に近付ける、と。
あれは間違いなく、私を探している。
私は…息を切らしながらも必死に走り回って、自分の名前を叫び続けるお兄様を、こうやって、ただ見詰める事しか出来ない。
「お兄様…」
私が〝ここ〟に来てから、もうひと月くらい経つのに。それなのに。
それなのに、今でもあんなに必死に…
「お兄様!」
私は〝あの日の玄関〟で叫んだ様に、力いっぱい〝彼〟を呼んでいた。
「恭ちゃん…大丈夫?」
ふと横から女の子のひとりが、私の顔を覗き込んでいた。
ああ…私は、ぽろぽろと涙を零していたみたいです。
その娘に「うん。知っている人を見掛けただけよ」と、ぎこちなく笑って見せる。
……お兄様。私の〝この涙〟は、雨と共に貴方のもとに届いていますか?
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
花は咲く
柊 仁
ライト文芸
友達ができずなかなか自分を上手く出せない少年、小鳥遊璃都は父の仕事の都合で転校が多かった。
あちらこちらと転校を繰り返していくなかで璃都は人間関係、独特の"空気''にわだかまりを覚え始める。
そんな悩みに耐え切れないまま小学校を卒業し、ついには自分自身を見失っていた。
そんな時、父からまたもや引っ越しが告げられ、岩手県九戸村の祖母の家に住むことに。
そこで出会ったのは九戸の壮大な自然と、ある一人の少女だったーー。
本物の友達とは何か。生きるとは何か。
これは自分を捨てた主人公小鳥遊璃都の成長を紡ぐ、エッセイヒューマンドラマである。
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎
って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!
何故こうなった…
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
そして死亡する原因には不可解な点が…
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる