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「誰だ?」
エデンさんは私の後ろに視線を送る。同じ方向を見ると、彼は駆け出した。奥で、その手が何かを掴む。それは、黒いマントを被った少年だった。彼は容赦なく少年を引っ張り出し、フードをめくる。少年とは思えない鋭く睨んだ冷たい目に慄いた。
「ぼく、名前は?」
恐る恐る声をかけると少年はそっぽを向いてしまう。エデンさんが背中をぱんと押すと、不貞腐れながらも口を開いた。
「シルバー」
少年を私が座っていた切り株に座らせると、エデンさんは持っていた水を飲ませた。
「どうして城内にいた?」
シルバーを名乗る少年は中々口を開かない。さらさらと葉の揺れる音だけが響いていた。そして、新たな足音が加わる。音がする方を見ると、クッキーの入った籠を持つシアンさんだった。
「シアンさん!」
少年の姿を見るとこちらまで駆けてきてくれた。
「どうしたんだい? ……その子は?」
「さっき森で見張っていたんです。エデンさんが捕まえてくれて」
「こんなに小さな子が?」
改めて見ると九つにもなっていないだろうか。いや、もっと幼いかもしれない。グレーの大人びた目が子供の枠をぼかしていた。
「ここにいるのも可哀そうだから、とりあえず城に案内しよう」
シアンさんはそう言うと少年の手を優しく掴んだ。意外にも素直に応じ、私たちもその後に続いた。フォリンも縮めて、ポケットにしまう。外は今にも雨が降り出しそうであった。
「それで、シルバー君のお兄さんはどうしたのかな?」
シアンさんの部屋に通されると、少年を椅子に座らせた。
「ゴールド兄ちゃんは、あいつに何かされてからおかしくなった」
「あいつって?」
シアンさんは柔らかい表情を崩さない。
「ぼくたちのお父さん」
その時エデンさんが口を開いた。
「どこで育った?」
少年はぼそっとこう言う。
「古いお城の中」
「場所、覚えてる?」
私の問いかけに小さくうなずいた。そして、少年は苦しい表情をし始めた。
「お腹……痛い」
黒いマントを脱がせると、白いシャツが赤く染まっていた。恐る恐るまくると、生々しい引っ掻き傷が現れる。
「ナタリア。何か塗り薬を頼む」
「はい!」
私は急いでドアを飛び出した。自分の部屋へと走る。赤い絨毯の敷かれた長い廊下が鬱陶しいと思った。金のドアノブを思い切り回し部屋に入る。ベッド横のドレッサーの引き出しを開けると、リリアンダーの葉を絞った小瓶を手に取った。すぐに元来た道を駆ける。
「お待たせしました!」
思い切りドアを開くと、少年はベッドに寝かされていた。
「濡れタオルで血は拭いたんだが……」
そういう二人の手にはタオルが握られている。
「ありがとうございます。後は私がやりますから」
ベッドに近づくと少年はかすかに目を開けた。
エデンさんは私の後ろに視線を送る。同じ方向を見ると、彼は駆け出した。奥で、その手が何かを掴む。それは、黒いマントを被った少年だった。彼は容赦なく少年を引っ張り出し、フードをめくる。少年とは思えない鋭く睨んだ冷たい目に慄いた。
「ぼく、名前は?」
恐る恐る声をかけると少年はそっぽを向いてしまう。エデンさんが背中をぱんと押すと、不貞腐れながらも口を開いた。
「シルバー」
少年を私が座っていた切り株に座らせると、エデンさんは持っていた水を飲ませた。
「どうして城内にいた?」
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「シアンさん!」
少年の姿を見るとこちらまで駆けてきてくれた。
「どうしたんだい? ……その子は?」
「さっき森で見張っていたんです。エデンさんが捕まえてくれて」
「こんなに小さな子が?」
改めて見ると九つにもなっていないだろうか。いや、もっと幼いかもしれない。グレーの大人びた目が子供の枠をぼかしていた。
「ここにいるのも可哀そうだから、とりあえず城に案内しよう」
シアンさんはそう言うと少年の手を優しく掴んだ。意外にも素直に応じ、私たちもその後に続いた。フォリンも縮めて、ポケットにしまう。外は今にも雨が降り出しそうであった。
「それで、シルバー君のお兄さんはどうしたのかな?」
シアンさんの部屋に通されると、少年を椅子に座らせた。
「ゴールド兄ちゃんは、あいつに何かされてからおかしくなった」
「あいつって?」
シアンさんは柔らかい表情を崩さない。
「ぼくたちのお父さん」
その時エデンさんが口を開いた。
「どこで育った?」
少年はぼそっとこう言う。
「古いお城の中」
「場所、覚えてる?」
私の問いかけに小さくうなずいた。そして、少年は苦しい表情をし始めた。
「お腹……痛い」
黒いマントを脱がせると、白いシャツが赤く染まっていた。恐る恐るまくると、生々しい引っ掻き傷が現れる。
「ナタリア。何か塗り薬を頼む」
「はい!」
私は急いでドアを飛び出した。自分の部屋へと走る。赤い絨毯の敷かれた長い廊下が鬱陶しいと思った。金のドアノブを思い切り回し部屋に入る。ベッド横のドレッサーの引き出しを開けると、リリアンダーの葉を絞った小瓶を手に取った。すぐに元来た道を駆ける。
「お待たせしました!」
思い切りドアを開くと、少年はベッドに寝かされていた。
「濡れタオルで血は拭いたんだが……」
そういう二人の手にはタオルが握られている。
「ありがとうございます。後は私がやりますから」
ベッドに近づくと少年はかすかに目を開けた。
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