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1-fool

3.なとばぁ〜〜っ!って呼んで。

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ーーー…



「よし。じゃあ、今日はここまでーー…。
ーー千羽、お前家でちゃんと復習しとけよ?
今日やったとこ丸々、期末で出すからなー。」


「え~~~っ……はい………。
了解しましたぁーー…。」

補習授業を終え教師が教壇の上のものを片付けながら軽く睨むと、千羽はものすごく了解出来てない様子で返事をした。


「名取場もご苦労さん。お前は大丈夫だと思うがーー…ま、次回は頑張れよ」

「はい。ありがとうございました」



ーーガララ…バタン。


教師が出て行き,二人残された自習室。




「…………あのさ、えっとぉ…。
な、なとば…くん?」

「!」

席を立った千羽が後ろを振り返り、恐る恐る、名取場に話しかける。  

まさか千羽の方から話しかけられるとは思っていなかった名取場は、一瞬で体の動きを止めて静かに千羽を見た。


「あぁーー…呼び捨てでいいよ。“名取場”で。
………なに?」


(千羽くんーーそんなよそよそしいのじゃなくて、”なとばぁ~!”って呼んでくれないか?
いや、”千里ぃ~~!”でもいい……語尾の母音はaよりiの方の響きが好みだ……。
いやいやいや待て待て、まずは焦らず……せっかくの千羽くんからの歩み寄り……。
ここはとりあえず平静を装わなければ……。)


脳内で草原を走り回る千羽を想像しそうになったが、急いで意識を目の前に戻す名取場。



「うん、じゃあ、えっと、名取場……。
あのさぁ……その……」

もじもじとしながら、千羽は上目遣いで名取場を見つめる。
大きな瞳をうるうるさせて。


(千羽くん。や、やばいーー…破壊力が…
なんだ、そのキュートな顔…。
そんな顔で物乞いされたら、俺、全財産でも差し出してしまうよ、ちょっと待ってくれ…)



「ーーごめん!お願い!さっきの補習授業、もう一回説明して!」

千羽は手をパン!と合わせて、お願いのポーズを取る。


「えっ……も、もう一回?
どこか…分からなかったとこ、あったの?」


途中教師に聞きづらいとこでもあったのか?と思い聞き返す。



「どこかっていうか……実は,ぜんぶ。
その、初めから、最後まで……全部。」

恥ずかしそうにしながら、申し訳なさそうにうつむく千羽。


「……………」


(oh...千羽くん。そうか。すべて…何から何まで理解不能だったのか。
それでずっと、終始漂う雰囲気が“???”だったんだね。
正直そんな気はしていたよーーー…。)


名取場の沈黙に、引かれていると思ったのか千羽は情けなさのあまり少し涙ぐんでうつむく。

「おれ、多分数学とか向いてない。
だってさぁ、ぜんっぜん意味わかんないんだよ……。
もう、わけわかんなくて全然面白くないし…。
なんであんなの、わかるの?わかる人の方が、おかしいよ……。もうおれ、意味わかんない…。
頭おかしくなる……」


(ち、千羽くん!泣かないで!そそそそんな姿見せられたら俺の方が頭おかしくなるから!
ーーーっじゃなくて、しっかりしろ俺!早くどうにかしてあげないと……)


「……えっいや、そ、その、だ、大丈夫だよ?
べつに、数学ができなくたって千羽くんは全然それをカバーし得るありあまる素敵さが………っ
ーーーんンンっ、ごほん!
いや、なんでもない。
ーーあのさ、千羽くん。いまから、少しだけ時間大丈夫?」


「ぐしゅっ……、え?う、うん。大丈夫、だけど」


鼻を啜った千羽は不思議そうに顔を上げる。








「ちょっと、ここ。座って?」

「う、うん…?」


ーーガタタッ

導かれるまま、千羽は名取場の座る机の前、椅子を引いて向かい合って着席する。

「えっとーー…あのさ。
千羽くん…一次関数、わかる?中学の時にやったと思うんだけど。
あの、一次方程式とか。」

「な、なんとなく……?きいたことは。」

「うん。
じゃあ、ーーこれ解ける?」

名取場はそう言うと、自分のノートを開くと空白の部分に

『2x-6 = -3x+9』


と、さらさら…と書き込み千羽の方へ向けた。



「…………????」


その反応を見た名取場は、やっぱり…。と頭の中で呟く。


「基礎から、だね。
これはさ、両辺の式のxは同じ値になるから…それを求める式なんだ。
xを左辺に、数字を右辺に集めてーー…」


名取場は千羽にノートを向けたまま,反対側からサラサラ…と問題を解いてみせる。



ゆっくりと、解説付きで。







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