35 / 42
ORDER-2 ホワイトソーダ
会いたくない客 -2-
しおりを挟む「Fマネ、僕フロア出ましょうか?」
すると深月の後ろから、厨房の奥に居た調理補助スタッフの酒井がスッと顔を出す。
「僕、真野くんと代わりますよ。真野くん、調理補助いけるよね?
フロアで動いてるよりだいぶ楽なんじゃない?」
「え、あ、いや……でも」
深月はさらに青ざめる。
“会いたく無い人間が客として来ている”、だなんて。
そんな個人的な理由で周りの人に迷惑をかけるわけにはーーー。
だけど、やっぱり“大丈夫です”とは言えない。
臆病な自分に自己嫌悪しつつ、どうしようもできず下を俯く。
「真野くん、気にすんなよ。こんなこと滅多に無いんだからさ。
ほら、僕フロア出るから……ハンディこっちに寄越してよ。」
「………すみま、せん…」
涙ぐみそうになってしまうのを堪えて、深月は素直に応じた。
ホールスタッフがオーダー時に使用するハンディ端末を酒井に手渡し、厨房の奥へと入る。
「じゃ、酒井はフロア出てくれ。
……真野すまんな。ピーク抜ける21時までは何とか居られるか?」
「はい、…すみません。ありがとうございます…」
罪悪感と情けなさで潰れてしまいそうだった。
だけど同時に湧き上がるのは、どうしようも無い安堵感。
周りの先輩スタッフたちの優しさが心底有難くて。
そして。
すぐに気付き行動を起こしてくれた、篠原の姿を探す。
「……………」
篠原は黙ったまま厨房に背を向けて、片付けに使うテーブルダスターを一つずつ畳んでいた。
ホールスタッフの手が空いた時の、小さな時間潰しの仕事だ。
(篠原…………。ありがとう……)
深月たちのやりとりが聞こえる距離で、素知らぬ顔をする振りをして、しっかりと背中で聞いている………
その篠原の頼もしい後ろ姿を、厨房の中からじっと見つめる。
とても静かに、まるで大きな手のひらで優しく覆い隠すように……守ってくれた。
彼の優しさが、愛情がーー…痛いくらい心地よくて、だけど同時に切なくて苦しくて。
こんなもの、貰ってしまってどうするの?と自分に問いかける。
ーーー答えなんてない。
キュウ、と音を鳴らして締め付けられ続ける心臓に、深月はただ喉を詰まらせていた。
25
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
兄弟がイケメンな件について。
どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。
「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。
イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる