君に心を

河嶋 亜津希

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スーツ姿の男の人や綺麗なドレスを身にまとった女の子がぞろぞろとホワイエに集まっている。天井には煌びやかなシャンデリアまでぶら下がっていた。志津希はゴクリと喉を鳴らした。自分の格好を見るとまだギリギリ場に馴染めていているような気がしないでもないことに少し安心する。志津希はぐいっと凪都の腕を引き寄せた。

「メインイベントってここ?」

正面のポスターにデカデカとcampoの文字。志津希は見覚えがあった。

「そう、今日稲瀬の楽団の最終公演でさ。志津希に一度は見て欲しくて。」

けろりとしている凪都はどうやらこんな場所には慣れているらしい。志津希は緊張して体が固まっている。そんな志津希を見て凪都はクスクス笑っていた。

「そんな緊張しなくていいよ。友達が出てるピアノの発表会ぐらいに思っておけば?」

からかうように言った凪都を志津希はぎっと睨んだ。それにまた凪都は爆笑している。

「アルも久々に出るらしいしなかなかチケットも取れないみたいだから楽しんで?ね?」

「取れないって…どうやって取ったの?」

「んーと、幼馴染サービスかな?」

志津希はとぼける凪都に少し笑ってしまった。すんなり受付を通って凪都は二階席に志津希を案内した。広い音楽オールがほぼ満員だ。ざわざわとホールに賑やかな声がこだましている。志津希は席に着くと短く息を吐き出した。

「なんか緊張する…こんなところ普段来ないから」

ぽつんと呟くと凪都はまた声に出して笑った。

「学園のホールと変わらないよ。」

「そうだけど…そういえばあれって多畑くんの家が作ったんだよね?」

少し前にそんな話をした気がする。学園の音楽ホールは一学校のホールにしては広すぎるほどだ。全生徒を詰め込むためにはそうするしかなかったんだろうと思うけどあれは少しやりすぎな気もする。あれを稲瀬の父親が作ったなんて尚更志津希にはスケールが壮大すぎて目眩がする。凪都は志津希の問いかけに頷いた。

「稲瀬の親父さんが稲瀬のために作ったんだよ。学園にいすぎてホールのでかさ忘れないためにとかなんとか…本人はセンスがないとか言って一切使ってないけど」

稲瀬が文句を言う描写がすぐに想像できて志津希は思わず苦笑いを浮かべてしまう。わざわざあの大きなのホールを練習用に作ったって…どういうこと?やっぱりお金持ちの考えることはわからない。志津希はどう反応していいかわからないまま凪都の話に耳を傾ける。

「ま、すぐアルも入学する予定だったしそれも考えてのことだと思う。」

「そ、そっか…」

「今年の秋に文化祭で稲瀬の楽団に来てもらおうって話になってて、実はこれ名目上は下見なんだよね。」

凪都はそう言って悪戯っ子のように笑う。志津希は思わず目を見開いた。

「えっそれ大丈夫なの?僕が来て、」

そんな大事なことに志津希を連れてきてよかったのだろうか。問題はないんだろうけど少し居心地が悪くなる。各学年の寮代表が行事ごとのあれやこれやを決めるのは志津希も知っていた。それは当たり前のように一般代表も参加する。つまり本当にここに座るべきなのは暁美ということだ。ちくりと針が刺さる。一瞬だけ志津希の表情が歪んだのを凪都は見落とさなかった。

「ごめん、余計なこと言ったね。志津希の席はちゃんと稲瀬から俺にもらったから大丈夫だよ。」

優しく表情で凪都は志津希を見ていた。少しだけ志津希は違和感を感じる。凪都はやたらと暁美の話題を嫌った。明らかに暁美の話をしない。今まで一度も凪都の口から暁美の話をされたことがない。だけどふたりが赤の他人じゃないことぐらい志津希にだってわかる。寮代表と一般代表だ。一緒にいる時間だって長いだろう。もやっと心の中に黒い煙が立ち込める。ぎゅっと痛くなった胸を押さえると手首にはめたバングルが志津希を安心させるかのように輝いた。同時に開演のブザーが鳴り響いた。
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