君に心を

36

重い意識を呼び起こして志津希は目を開けた。抱きしめらる腕を感じる。カーテンからうっすらと日の光が差していた。

「んー…」

志津希は唸りながら凪都の胸にすり寄った。寝ている凪都は志津希が動いてもあまり気にならないらしい。静かな寝息が聞こえてくる。実家から帰ってきた凪都は本当に弱っていてなんだか離れたくなかった。志津希も久しぶりに触れた両親の話に感傷的な気分になっていた。なんとなくふたりともそれを察していてなにも言わずにふたりでくっついて眠った。この気持ちはなんなのだろうか。志津希はわからないふりをしている。

「んー、志津希？」

凪都はぎゅっと志津希を引き寄せた。志津希はそれに抵抗はしない。

「おはよ、志津希。」

「…うん。おはよう。」

「ふふふっ、志津希ぃ…」

幸せそうに笑う凪都。寮代表として生徒の前に立っているあの凪都とまるで別人だ。無防備。思わず志津希も笑いかけた。

「あー起きたくないけど…志津希飯食べなきゃね。」

「うん、起きて。」

凪都はじっと目を見た。そして強く志津希を抱きしめる。苦しい。志津希はとんとんと凪都の背中を叩いた。

「く、苦しいよ…凪都っ」

ふっと力を緩めて凪都は志津希の額に唇を落とした。ぶわっと体に熱が広がる。顔が真っ赤になるのがわかった。

「耳まで真っ赤。…可愛い」

「うるっさい、」

ぐいっと凪都を押しのけて志津希はベッドから降りる。素早く洗面台に足を向ける。ばんとわざと音を立ててドアを閉めた。どくどく脈を打つ心臓をぎゅっと抑える。落ち着かせるように息を吐いた。ふらふらと歯ブラシを手に取る。鏡に映る自分の顔が真っ赤で志津希は目をそらした。いつまでこの関係なんだろうか。急に頭は冷静になる。ふたりの間でなにかが始まったわけじゃないと否定できない。友情以外のなにかが芽生えている。少なくとも凪都は志津希を好きだと言う。恋人しかしてはいけないことをふたりはしている。志津希は自分の目を見つめながら歯を磨く。自分のなにがいいんだろう。そういえば凪都にちゃんと聞いたことがない。そもそもいろいろすっ飛ばしすぎなのだ。凪都の気持ちに応えていないのに凪都はどんどん志津希に迫ってくる。

「…」

やめろ考えるな。志津希は無愛想な自分の顔に向かって唱えた。