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第一章

第32話 魔法の発動

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 今の俺は魔法少女さんに抱き締められた思い出の姿。これからはヒツジくんモードと呼ぼう。
 さて、一番に試さなければならない実験をしようじゃないか。
 
 この姿で攻撃できるか、再確認だな。
 それが可能なら本当にそれが一番なのだ。

 昨日は色々と慌ていたし、そのせいで発動しなかった可能性もなきにしもあらず。
 まあ、あいつの話していた女神の呪いってのもあるし、無理だとは思うが試すだけの価値はある。

 身体も小さくなったことだし、出す炎のイメージも小さめでいこう。

「火よ──っ!?」

 出た。
 妖しく燃えている青い炎が俺の右手の先にふわふわと浮いている。

「お、おお」

 あ、あれ? 出たぞ?
 サイズはかなり小さいが、問題なく魔法は発動した。
 まじか、正直無理だと思っていたから安心よりも驚きの方が強い。

 それじゃあ、前回は本当になんで発動出来なかったんだ?
 本当にテンパってたのが原因なのか?

 いや、ピンク猫は出来るわけないって断言してたよな。
 ううむ。

「あの時と今の違いは……あの魔族がいるかいないか、だな」

 あと慌ててもいない。
 もしかして、攻撃の対象がいなければ問題なく発動できるのか?
 いや、決めつけるのはまだ早い。
 これがこのまま攻撃に使えたら、問題解決じゃないか。

「丁度いい的……」

 ごめんなさい、森の木さん。
 直ぐに火は消すから許して!

「はっ」

 目の前の大きく立派な木に目掛けて、火を飛ばす。
 小さいから被害は少ないはずだ。

「って……消えた」

 それはもう、シュッと。
 木にあたる直前に、消えてしまった。

 なるほど。
 どうやら、攻撃が出来ないのは間違いないらしい。
 ぬか喜びというやつだ。

 くそう、期待だけさせやがって。

 「はぁ」  

 やっぱり顔を隠す方法は別で探さないとダメか。
 今後、魔族と戦う上で、俺の正体を隠す手段は必須だろう。
 ヒツジくんモードで戦えるのが一番ベストだと思ったんだが、そう簡単にはいかないらしい。

 あれなら正体を隠すって点においてはこれ以上ないぐらい完璧だ。けど、やっぱり魔族や怪物との戦いにおいて攻撃が出来ないのは致命的すぎる。
 そもそも戦いにすらならない。
 現に一度死にかけたしな。
 殴られても殴り返せないなんて、そんなものはサンドバッグと変わらん。俺はサンドバッグになるつもりなんてない。

 あんな縛りなんてなければ、妖精族ってかなり強いと思うんだけどな。
 妖精族も何で祝福なんて言って素直に受け入れてるんだろうか。
 自分で戦えるなら何も知らない女の子を魔法少女にして戦ってもらう必要もなくなるはずだ。

 軽く発動しただけの魔法であれだけの破壊力、もっと魔力を込めれば更に威力が上がりそうだし、それに加えて一番大きいのは魔力が常時回復し続けるからその魔法が打ち放題。
 体が小さいから肉弾戦は無理にしても、それを補って余りある魔法と魔力だ。
 現代兵器が相手でも無双するんじゃなかろうか。
 強力な魔法を無尽蔵の魔力でバカスカ撃ちまくれば、勝てる相手なんていないだろ。

 ……恐ろしい戦闘民族が誕生してしまった。
 うん、女神は正しい選択をしたのかもしれない。

 まあ、それはそれにしても何故変身しただけの俺まで女神の呪いとかいうデバフを背負わにゃいかんのかね。
 攻撃出来ないのは、最早確定。
 納得がいかない。
 
 この姿についても、【変身】についてもまだ分からないことが多すぎる。
 この能力が本来はどんな使い方をされていたのかも気になるし。

 前回【変身】した時は、ホストに襲われてこの能力をあまり検証することが出来なかったし、少し情報を整理するか。

「魔力が回復するのは確か、だな」

 ナンパ男3人を眠らせたり、透明になって空を飛んだりしてここに来るまでに消費した魔力がこの短時間でほぼ全快しつつあった。
 眼には見えないが、自分の周りに存在する魔力がお腹の妖精石を通してガバガバ入ってくる感覚がある。

 ピンク猫の言っていたことから考えるに、周囲の魔力を吸収できるのが妖精石、妖精族の特性なのだろう。
 ゲーム風に言うと、MP自動回復って感じか。

「妖精族にこんな能力があるなら何で、【強欲】で手に入れた能力の中に入ってないんだ?」

 本当に謎だ。
 もしそれが出来ていたら、人の状態でも魔力が際限なく使えたのに。無い物ねだりしても仕方ないが、魔力無双とかしたかった。

「能力を得られる基準がわからん」

 この世界に転生してから今まで生きてきたのに【強欲】が発動したのは、青クマだけだったからな。

 今後、魔族を倒して能力が手に入れば一番なんだが。
 魔族は世界を滅ぼそうとしている連中だ。殺すのに躊躇はない。
 たくさん敵を倒して、能力の発動する基準を見極めていこう。これも世界平和のためである。
 
 女神にもう一度会えたら聞けるんだろうが、俺はまだ死ぬつもりなんてない。

 そういえば、昨日結局スマホに能力をメモしてないんだよな。今の内にやっておくか。
 絵里香への謝罪に忙しくてそれどころではなかったのだ。許してもらえて本当に良かった。もしも嫌われたりなんてしたら生きていけない。

「あ、スマホってか俺の服も消えてるんだった」

 妖精になると、衣服も一緒に変身してしまうらしい。
 【変身】する度に全裸になっても困るから有難くはあるが、ポケットに入れてた物とか身につけてた物って一体どこに消えてるんだろうか。
 俺の身体を覆っている家の掃除に使われそうなモコモコに服が変化したのかね? 埃を綺麗に絡めとりそうだ。
 明らかに材質とか変わってるだろ。

 とりあえず【変身】解除するか。
 妖精のままじゃ出来ることが少なすぎるし、魔法の実験もしたいしな。まだ時間はあるし、能力の検証は続けたい。

 全身を青い煙に覆われて、気付くと視点が高くなっている。無事に俺の体に戻れたみたいだ。
 妖精になるときと人間に戻るとき、感覚としてはチャンネルを切り替えるような感じだな。
 【妖精魔法】で透明になったときとは違って、妖精になっている間は、魔力を消費したりしない。
 俺の体がもう1つ増えたみたいな感覚。

「けど、しっくり来るのは断然こっちだ」

 実家のような安心感。例えるならヒツジくんモードは一人暮らしの寮生活みたいなもんだな。
 一人暮らしも寮生活もしたことないけど。

 ポケットの中からスマホを取り出す。
 昨日纏めておこうと思っていた能力について素早くスマホのメモ機能に書き込んで、【妖精魔法】の実験に頭をシフトする。

「火は……問題なく出せるな」

 多分、これは木にぶつけられるんだろうな。
 さっきは火の玉が小さかったからやったが、今回は普通にサッカーボールサイズだ。
 これで実験は流石に被害が大きそうだし、やめておこう。
 
 そう思いながらも、手の上で燃えている火の玉をクルクル回して遊ぶ。将来、金に困ったらマジシャンになって生計を立てていけそうだな。

 自分の至近距離で炎が燃えているのに熱さを感じないのが不思議だ。魔法を出している右手も熱くない。

 妖精魔法で出した火は、俺の知っている火と違うのかもしれないな。凶悪性は普通の炎の何倍もあると思うが。
 水で消火できないって何事だよ。
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