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第一章
第29話 事故
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夕食を食べ終わり、ついさっき風呂にも入って今は自分の部屋に1人。ヘアバンドで前髪を上げたさっぱりスタイルだ。
家にいる時はこれが一番楽でいい。
本当に今日は色々あったな。
学校じゃ新しいクラスメイトと顔を合わせたり、隣の席になった相手に謎の恫喝されたり。確か、月森さんだっけか。
今から明日が不安で仕方ない。
い、いや俺には心強い龍宮寺さんという味方がいるんだ。何とかなると願いたい。
龍宮寺さんとは来週にランニングをする約束も出来たし、いいこともあった。
ハプニングもあったが、それだけなら平和な高校生活と言える。問題なのはその後だ。
絵里香の部屋に不法侵入した青いクマを倒して手に入れた能力の実験を河川敷でしていたら、銀髪のホストに背後から襲われて死にかけた。
十中八九、確実にあの銀髪のホストが青いクマの話していた、世界を滅ぼそうとしている悪いやつ、で間違いない。
あんなのと絵里香を戦わせようとしていたなんて、考えるだけで腸が煮えくり返る。
もう【強欲】で吸収してしまったのでどうしようもないが、精々この力は有効利用するさせてもらおう。
あいつの同族と会ったりもしたが、そこまで悪いやつではなさそうだったんだよな。
青いクマとも話せていたら分かり合えたんだろうか。
「考えるだけ無駄、か」
倒したことに後悔はない。
後悔して、悩むのは時間の無駄だ。
やってしまったことは取り消せないんだから。
俺の中であいつは絵里香を危険な目に合わせようとした悪いやつのままだ。それでいい。
有用な能力をくれた事に感謝だけはしておこう。
結果的にあいつの【変身】のお陰で良い出会いもあった。
魔法少女さんだ。
おそらく、絵里香と同じように妖精に勧誘されて戦う道を選んだ人だろう。
俺が銀髪のホストに殺されかけた時に窮地を救ってくれた。
妖精の姿をした俺を守るために、自分の倍以上もある怪物と戦ってくれたのだ。
見た感じ、俺との年齢が近そうだったが、同じ学校だったりしないかな。
けど、同じ学年にピンク色の髪の人なんていたっけ。少なくとも俺の記憶の中にはいない。だが、悲観するのはまだ早い。
交友関係と視野の狭さには自信があるからな。そもそも俺が知らないだけの可能性の方が高い。
いやいや、しょうがないだろ。
長年続けてきて慣れているとは言っても、前髪で視界を殆どカットして生活しているんだから。
俺は悪くないのだ。前髪を伸ばさざるを得ない生活は大変だが、変な人に絡まれなくて済むという点では助かっているから悪いことばかりではない。
俺には、絵里香と黒板と教科書だけが見えてればそれでいい!
交友関係はどうにもならん。諦める。
明日にでも他のクラス覗いてみるか。
色んな髪色の人がいるけど、半分以上は黒髪や茶髪だ。ピンク色の人は目立つし、すぐに分かるだろう。
魔法少女さんと会っても、俺が青ヒツジだとわかって貰えないのが問題だけど。いや、バレた方が問題か。
絶対にバレないって誓ったばかりだった。
ただ、助けてもらった手前、何かあったら助けにはなりたい。
それに相手の素性が分かっていた方が、今後何かと動きやすいし。
別に仲良くなりたいとかじゃない。まあなれたら嬉しいが、あんまり目立つ行動は避けないとな。
夕食を食べてるときに絵里香に怒られてしまったし。
一昨日の入学式前のことが、学校で軽く噂になっているらしいのだ。
帰ってきたときに絵里香の様子が少しおかしかったのもその所為だったんだろう。絵里香は心配性だからな。
兄さんはもっと危機感をもちなさい! とか色々言われてしまったが、少し噂になったぐらいで大袈裟じゃなかろうか。
まあ、そんな絵里香も可愛くて最高だったが。
絵里香に心配されるなんて、一体俺は前世でどんな徳を積んだんだ?
うん、ないです。
前世で徳を積んでいないんだから、俺は今世で徳を積むしかない。可愛い絵里香の兄に相応しい人になるためにもこれからも頑張らねば。
「やっぱり、人の姿だと少しずつ魔力が減っていく感覚がある」
俺は浮いている。
いや、別に集団の中で孤立しているとかそんな意味じゃなくて普通に浮いている。それはもうぷかぷかと。
人生で2度目の浮遊タイムだ。
1度目と違うのは、妖精の姿ではなく人間の姿で浮いていること。
人の状態でどれぐらい浮いていられるのか試していたんだが、暇になってしまい、今日一日の振り返りをしていたわけだ。
夜、自分の部屋で行う日課の能力確認タイム。
今までは、使い道のない能力を眺めるだけの無意味な時間だったが、新たな能力を手に入れたことで実験が出来るようになった。
これからは有意義な時間に出来そうだ。
「魔力の消費はあるが、まだまだいけそうだな」
キリがないし、浮遊時間の確認は一旦これまでにしておこう。
妖精の姿だったときは、半永久的に飛び続けられそうだったが、人の姿でも半永久的とまで言わなくとも長時間は浮いていられそうだ。
妖精魔法ってかなり燃費がいいんだな。
人の状態でも浮遊出来ることはわかったし、次は透明になれるかも試そう。その前に……。
「自分の能力について、スマホにメモでもしてまとめておくか」
何かにまとめておいたほうが後で見返しやすい。
分かった事とかメモしておかないと忘れちゃうかもだし。
妖精魔法を止めて、床にゆっくりと降り立つ。
「あれ……ない」
スマホは基本的にポケットの中に入れっぱなしにしているんだが、ない。家に帰ってきてからも使った覚えあるし、どこかに落として来たわけじゃないとは思うが。
「マジでない」
ポケットの中にはもちろんないし、ベッドの上とか、布団をめくっても出てこないし。
こういう時は大抵、ベッドの横に落ちてたりするんだが、なかった。机の上にも置いてない。
もうお手上げだ。
少なくとも、この部屋の中にはない。
「しょうがない、あの手段を使うしかないか」
俺の経験上、物が無くなったときに一番に頼るべくは自分の記憶などではない。そんな物は全く当てにならないし、時間を無駄に浪費してしまうだけだ。
部屋を出て、1階のリビングに向かう。
「母さん、俺のスマホ知らない?」
母さんだ。
実家に住んでいる人にのみ許された必殺技だが、その精度は折り紙付きである。
何故だか、無くなった物の場所をピタリと言い当ててくれるのだ。
「しおんちゃんスマホ失くしたのー?」
「うん、家の中にはあると思うんだけど」
どこに行ってしまったんだ俺のスマホ。
「そうね~。試しに電話かけてみる?」
「お願い」
ソファに座りながら、母さんが自分のスマホで電話をかけてくれる。
よし、集中するんだ俺。
これを逃したら、地道に探すしかなくなってしまう。
「うーん、聞こえな……」
「お風呂場の方だな」
微かにだが、着信音と携帯の震えている音が聞こえてきた。
「ありがとう母さん!」
やはり頼るべきは母さんだ。
ギリギリ説立証である。
お風呂場へと向かう。
母さんが電話をかけてくれているうちに急がなければ。
そういえば、お風呂に入るときに脱衣所までスマホを持っていったような気がしなくもない。
しっかりと脱衣所の方から俺のスマホの音がする。
いやぁ、見つかってよかった。スマホって無くなると妙に焦るんだよな。
さっさと脱衣所の中を探して部屋に戻ろう。
ガラッと戸を開ける。
「あっ」
「ん?」
脱衣所の戸を開けた先にいたのは生まれたままの姿の絵里香。
天使がそこにはいた。
バスタオルで体を隠しているが、それでも隠しきれない美しさが溢れている。
「え、えっち」
恥ずかしそうに体をよじっている。
「ほう」
思わず、感嘆の声が出てしまった。
穢れを知らない綺麗な肌が、潤いを与えられてより一層の輝いて見える。
スラリとした肢体に、今年から中学生、女性らしい丸みを持ち始め順調に成長しているようだ。
お風呂上がりで濡れている髪が肌に張り付いて、まだ中学生なのに大人のような色っぽさがある。
「ほう、じゃない!」
バンっと扉を締められてしまう。
「あ、やば」
急なこと過ぎて、見入ってしまっていた。
脱衣所の扉を開けたら中に天使がいたら、誰だって思考力がどこかにさよならしてしまう。
見入ってしまうのも不可避。
ちゃんとノックしてから開ければよかったと後悔するが、あとの祭りだ。絵里香には悪いことをしたな。
着信音が鳴り止まないうちにスマホを見つけないといけないと思って、中に人がいるかもしれないことを失念していた。
そうだ、スマホだ。
「えりちゃーん?」
家にいる時はこれが一番楽でいい。
本当に今日は色々あったな。
学校じゃ新しいクラスメイトと顔を合わせたり、隣の席になった相手に謎の恫喝されたり。確か、月森さんだっけか。
今から明日が不安で仕方ない。
い、いや俺には心強い龍宮寺さんという味方がいるんだ。何とかなると願いたい。
龍宮寺さんとは来週にランニングをする約束も出来たし、いいこともあった。
ハプニングもあったが、それだけなら平和な高校生活と言える。問題なのはその後だ。
絵里香の部屋に不法侵入した青いクマを倒して手に入れた能力の実験を河川敷でしていたら、銀髪のホストに背後から襲われて死にかけた。
十中八九、確実にあの銀髪のホストが青いクマの話していた、世界を滅ぼそうとしている悪いやつ、で間違いない。
あんなのと絵里香を戦わせようとしていたなんて、考えるだけで腸が煮えくり返る。
もう【強欲】で吸収してしまったのでどうしようもないが、精々この力は有効利用するさせてもらおう。
あいつの同族と会ったりもしたが、そこまで悪いやつではなさそうだったんだよな。
青いクマとも話せていたら分かり合えたんだろうか。
「考えるだけ無駄、か」
倒したことに後悔はない。
後悔して、悩むのは時間の無駄だ。
やってしまったことは取り消せないんだから。
俺の中であいつは絵里香を危険な目に合わせようとした悪いやつのままだ。それでいい。
有用な能力をくれた事に感謝だけはしておこう。
結果的にあいつの【変身】のお陰で良い出会いもあった。
魔法少女さんだ。
おそらく、絵里香と同じように妖精に勧誘されて戦う道を選んだ人だろう。
俺が銀髪のホストに殺されかけた時に窮地を救ってくれた。
妖精の姿をした俺を守るために、自分の倍以上もある怪物と戦ってくれたのだ。
見た感じ、俺との年齢が近そうだったが、同じ学校だったりしないかな。
けど、同じ学年にピンク色の髪の人なんていたっけ。少なくとも俺の記憶の中にはいない。だが、悲観するのはまだ早い。
交友関係と視野の狭さには自信があるからな。そもそも俺が知らないだけの可能性の方が高い。
いやいや、しょうがないだろ。
長年続けてきて慣れているとは言っても、前髪で視界を殆どカットして生活しているんだから。
俺は悪くないのだ。前髪を伸ばさざるを得ない生活は大変だが、変な人に絡まれなくて済むという点では助かっているから悪いことばかりではない。
俺には、絵里香と黒板と教科書だけが見えてればそれでいい!
交友関係はどうにもならん。諦める。
明日にでも他のクラス覗いてみるか。
色んな髪色の人がいるけど、半分以上は黒髪や茶髪だ。ピンク色の人は目立つし、すぐに分かるだろう。
魔法少女さんと会っても、俺が青ヒツジだとわかって貰えないのが問題だけど。いや、バレた方が問題か。
絶対にバレないって誓ったばかりだった。
ただ、助けてもらった手前、何かあったら助けにはなりたい。
それに相手の素性が分かっていた方が、今後何かと動きやすいし。
別に仲良くなりたいとかじゃない。まあなれたら嬉しいが、あんまり目立つ行動は避けないとな。
夕食を食べてるときに絵里香に怒られてしまったし。
一昨日の入学式前のことが、学校で軽く噂になっているらしいのだ。
帰ってきたときに絵里香の様子が少しおかしかったのもその所為だったんだろう。絵里香は心配性だからな。
兄さんはもっと危機感をもちなさい! とか色々言われてしまったが、少し噂になったぐらいで大袈裟じゃなかろうか。
まあ、そんな絵里香も可愛くて最高だったが。
絵里香に心配されるなんて、一体俺は前世でどんな徳を積んだんだ?
うん、ないです。
前世で徳を積んでいないんだから、俺は今世で徳を積むしかない。可愛い絵里香の兄に相応しい人になるためにもこれからも頑張らねば。
「やっぱり、人の姿だと少しずつ魔力が減っていく感覚がある」
俺は浮いている。
いや、別に集団の中で孤立しているとかそんな意味じゃなくて普通に浮いている。それはもうぷかぷかと。
人生で2度目の浮遊タイムだ。
1度目と違うのは、妖精の姿ではなく人間の姿で浮いていること。
人の状態でどれぐらい浮いていられるのか試していたんだが、暇になってしまい、今日一日の振り返りをしていたわけだ。
夜、自分の部屋で行う日課の能力確認タイム。
今までは、使い道のない能力を眺めるだけの無意味な時間だったが、新たな能力を手に入れたことで実験が出来るようになった。
これからは有意義な時間に出来そうだ。
「魔力の消費はあるが、まだまだいけそうだな」
キリがないし、浮遊時間の確認は一旦これまでにしておこう。
妖精の姿だったときは、半永久的に飛び続けられそうだったが、人の姿でも半永久的とまで言わなくとも長時間は浮いていられそうだ。
妖精魔法ってかなり燃費がいいんだな。
人の状態でも浮遊出来ることはわかったし、次は透明になれるかも試そう。その前に……。
「自分の能力について、スマホにメモでもしてまとめておくか」
何かにまとめておいたほうが後で見返しやすい。
分かった事とかメモしておかないと忘れちゃうかもだし。
妖精魔法を止めて、床にゆっくりと降り立つ。
「あれ……ない」
スマホは基本的にポケットの中に入れっぱなしにしているんだが、ない。家に帰ってきてからも使った覚えあるし、どこかに落として来たわけじゃないとは思うが。
「マジでない」
ポケットの中にはもちろんないし、ベッドの上とか、布団をめくっても出てこないし。
こういう時は大抵、ベッドの横に落ちてたりするんだが、なかった。机の上にも置いてない。
もうお手上げだ。
少なくとも、この部屋の中にはない。
「しょうがない、あの手段を使うしかないか」
俺の経験上、物が無くなったときに一番に頼るべくは自分の記憶などではない。そんな物は全く当てにならないし、時間を無駄に浪費してしまうだけだ。
部屋を出て、1階のリビングに向かう。
「母さん、俺のスマホ知らない?」
母さんだ。
実家に住んでいる人にのみ許された必殺技だが、その精度は折り紙付きである。
何故だか、無くなった物の場所をピタリと言い当ててくれるのだ。
「しおんちゃんスマホ失くしたのー?」
「うん、家の中にはあると思うんだけど」
どこに行ってしまったんだ俺のスマホ。
「そうね~。試しに電話かけてみる?」
「お願い」
ソファに座りながら、母さんが自分のスマホで電話をかけてくれる。
よし、集中するんだ俺。
これを逃したら、地道に探すしかなくなってしまう。
「うーん、聞こえな……」
「お風呂場の方だな」
微かにだが、着信音と携帯の震えている音が聞こえてきた。
「ありがとう母さん!」
やはり頼るべきは母さんだ。
ギリギリ説立証である。
お風呂場へと向かう。
母さんが電話をかけてくれているうちに急がなければ。
そういえば、お風呂に入るときに脱衣所までスマホを持っていったような気がしなくもない。
しっかりと脱衣所の方から俺のスマホの音がする。
いやぁ、見つかってよかった。スマホって無くなると妙に焦るんだよな。
さっさと脱衣所の中を探して部屋に戻ろう。
ガラッと戸を開ける。
「あっ」
「ん?」
脱衣所の戸を開けた先にいたのは生まれたままの姿の絵里香。
天使がそこにはいた。
バスタオルで体を隠しているが、それでも隠しきれない美しさが溢れている。
「え、えっち」
恥ずかしそうに体をよじっている。
「ほう」
思わず、感嘆の声が出てしまった。
穢れを知らない綺麗な肌が、潤いを与えられてより一層の輝いて見える。
スラリとした肢体に、今年から中学生、女性らしい丸みを持ち始め順調に成長しているようだ。
お風呂上がりで濡れている髪が肌に張り付いて、まだ中学生なのに大人のような色っぽさがある。
「ほう、じゃない!」
バンっと扉を締められてしまう。
「あ、やば」
急なこと過ぎて、見入ってしまっていた。
脱衣所の扉を開けたら中に天使がいたら、誰だって思考力がどこかにさよならしてしまう。
見入ってしまうのも不可避。
ちゃんとノックしてから開ければよかったと後悔するが、あとの祭りだ。絵里香には悪いことをしたな。
着信音が鳴り止まないうちにスマホを見つけないといけないと思って、中に人がいるかもしれないことを失念していた。
そうだ、スマホだ。
「えりちゃーん?」
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