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第一章

第24話 魔法少女

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 多少距離は取れたが、あいつから逃げ切ったわけじゃない。
 状況から考えれば今も二三雑談できていたのが不思議なくらいだ。決して呑気に抱っこされてる場合ではないのだ。

 本当なら、いつ追撃が来てもおかしくなかった。
 あれだけ殺意増し増しだったのだ。すぐに追撃に来て然るべき。
 けれど来なかった。その理由は、俺らに攻撃を仕掛けてこない銀髪魔族の様子を見て、すぐに気付いた。

「あいつ、爪が」

 最初は顔しか見ておらず気づなかったが、落ち着けたおかげか遠目からでもはっきりと分かった。
 俺を殺すために伸びていた刃のような長い爪が、ぽっきりと折れている。

 もしかして。

「ヒツジくんを助けるとき、ついでにね」

 俺の視線に気が付いたのか、胸に抱く俺にお茶目なウィンクをしてそう言う魔法少女(仮)さん。
 なんだか、頼もし過ぎるんだが。
 不覚にもドキッとした。
 もしも妖精族の姿じゃなく人間のままだったら、顔が赤くなってた気がする。

 べ、別に好きになったわけじゃないんだからね!

 多分、高校生ぐらいだろうか。見た感じは俺と同じ歳ぐらいに見える。

 女子高生の胸に抱かれてるって考えると、それだけで胸がドキドキしてきそうなもんだが、身体が妖精族になってるから──。
 全く持ってドキドキしてます。もしも人間だったら絶対に鼻の下伸びてる。
 なんだか罪悪感を覚えるが仕方ないだろ。
 
 俺も男子高校生だしさ。
 その上、前世はアラサーのおっさんだったわけだ。
 
 素顔でいると言動のコントロールができないなんて変な制約のせいで常にもっさり目隠しスタイルだ。
 イケメンに生まれたのに今まで彼女の一人もできたことがない。
 ゆえに女性と触れ合う機会なんて皆無に等しかった。
 普段は絵里香のかっこいい兄であろうと、色々と抑圧していたが、こちとら体は健全な男子高校生だ。

 諦めて、チャラ男になるという選択肢もあった中で自分から選んだ道ではあるが、そういう欲がないわけではない。

 妖精さんでいる間ぐらいいいよね。
 普段あれだけ頑張ってるんだから、美少女に抱っこされてたって許されるよね?

「ふふっ、可愛い」

 あ、頭撫でてくれた。すき。

 というか、この人。
 もしかすると俺が思っているよりもずっと強いのか?
 俺を助けるときに、ついでであいつの爪を一瞬でへし折るなんて、 並の芸当じゃない。

 抱っこしてくれてるし、助けてくれたし(仮)さんなんて呼ぶのは失礼な気がしてきた。
 そうだよな、助けてくれたし敬意をこめて魔法少女さんと呼ばせてもらおう。

「やってくれるじゃないか、お嬢さん?」

 当の折られた本人は右腕を庇いながら、俺ら、主に魔法少女さんを怒りを顕にして睨んでいた。
 完全にキレてるな。

 今にもこちらに飛び掛かってきそうな感じだ。

 どうにかしないとね、とは言っていたが、どうするつもりなんだ?
 この人なら俺を連れて逃げるぐらい出来そうだが。
 爪を折られたあいつがこのまま撤退してくれるのが1番理想ではある。 けど、あの怒りようじゃそれは望み薄だな。

「ちょっと待っててね」

 言いながら胸に抱いていた俺を地面におろして、銀髪魔族へと歩いて行く。
 今まで俺を包んでいた温もりが離れてしまった。
 もしかして、戦うつもりなのか。

 不意打ちとは言え、あいつの爪をへし折るだけの力があるんだから、魔法少女さんが強いのはわかったが……。

「おい、いいのか?」

 一緒に置いて行かれたピンク色の猫に話しかける。

「わたちの契約者ならきっと大丈夫ぷち」

 ふわふわと浮いていたピンク猫は俺の横に降りてくると、そのままそこに座った。
 おい、近いぞ。スリスリしてくんな。

 そんな場合じゃないってのに。
 ピンク猫は大して心配したような様子ではない。

 契約者っていうならお前も戦いに行けや。
 いや、呪いがあるから戦えない、のか?
 くそ、わからん。

 どうする、人間の姿に戻れば少しは魔法で援護しながら一緒に戦えるとは思うが、余計な事して邪魔にでもなったら元も子もない。
 正直、自分の能力も満足に把握していない俺なんかが援護してもただ足を引っ張ってしまう可能性の方がでかい気がする。

 それに、俺が人間だとバレないなら、それが一番だ。
 自分の考えてることがクズだってことはわかってるが、元から考えてたことだ。世界を滅ぼそうとしている存在、魔族と戦う上で俺の正体は誰にもバレないようにしたい。
 少しでも家族に迷惑がかかるリスクは減らしたいからな。

 女神はこの世界に魔法があると言っていたが、転生してみれば、魔法なんてものは存在していなかった。
 現代社会において魔法やら特殊能力を使える存在は、やっぱり異質だ。

 魔女狩りよろしく、捕まって実験台になるとか大いに有り得る。もしも魔法が使えることが世間にバレたら大騒ぎになるのは確実だろう。

 そうなれば、家族に迷惑がかかるのは免れない。

 もしも、魔法少女(仮)さんが負けそうになってそんなこと言ってられる場合じゃなくなったら、すぐに人間に戻って加勢させてもらうが。
 ただ、俺の魔法があいつに効く確証はない。

 俺の心配を他所に魔法少女(仮)さんは、銀髪魔族に話しかけた。

 この位置じゃ、遠くてよく聞こえないが。何を話してるんだ?

「たしか──さんだっけ。私と少しお話しない?」

「なぜ貴様が──を知っている」

 声が小さくてよく聞こえない。
 会話はあまり聞こえないが、銀髪魔族が魔法少女さんの発言に驚いているのは伝わってくる。

「他にも色々知ってるよ」

「まあいい、力づくで聞けばいい話だ!」

 急に銀髪魔族が叫ぶと、折れていた爪が鋭く伸び、そのまま魔法少女(仮)さんに飛びかかった。
 あいつの爪再生するのかよ。

「残念」

 戦闘が始まった。多分だが、魔法少女さんが銀髪魔族を挑発して、相手がそれに乗った感じだろうか。
 鋭い爪で切り付けようと、右腕を振るう。相手が女の子だろうがお構いなしだ。

 それを後ろに飛んで魔法少女さんが避ける。
 銀髪魔族の初撃を余裕もって回避した魔法少女さんは、そのまま赤い宝石のついたネックレスを右手で握った。

 何してるんだ?

「きて」

 ボソッと魔法少女さんが何かを言うと、ネックレスの赤い宝石が光を放ち始める。

「は?」

 それに呼応するように俺の横にいる猫のお腹にある宝石も光りだした。
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