野生児少女の生存日記

花見酒

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一章 森の少女と獣

初めてのクエスト

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 街から走り出してから数時間、途中休憩を挟みながら目的地へ向かう。向かって居るのは、王都から東に一日程で着く距離にある小さな村、其処では現在ゴブリンの群れによる被害に遭っているとの事。村人達が応戦して被害を抑えているものの時間の問題のようだ。故にローニャは出来るだけ早く向かう為、走る事を選んだ。

数時間後 
 街から半日程でローニャは目的の村に辿り着いた。門番に自分が冒険者である事を伝えて村に入る。案内に付いて行き、村の中を進み、村長の家へ入った。村長に依頼を受けてやって来たと伝える、村長と集まっていた村人は不安そうな顔をした。

「君が冒険者?とてもじゃないがそうには見えない。それに仲間などは居ないのか?」
「居ない…私一人…」

 村長と村人達は更に不安な表情になった

「来てくれたのは嬉しいが…流石に子供一人というのは…他の冒険者を待った方が良いんじゃ…」
「問題ない…私一人で十分」

 村長は村人達とひそひそと何かを話し合う。
 話が終わり村長は渋々納得してローニャに協力を仰ぐ事にした。。
 話がまとまり解散の為に村長の家を出た瞬間。『カンカンカン!』とけたたましい鐘の音が村中に鳴り響く。それと同時に村人達が慌て始める。家に慌てて入る者、武器を取り、門に向かう者も居た、何事かと村長に尋ねると、どうやら【ゴブリン】が現れた様だった。

「タイミングが良いのか悪いのか…」

 とローニャは小声で言いながら急いで門に向った。門を越えると、ゴブリンの群れが村目掛けて走って来る。その数は二十を超えるだろうか、ローニャは剣を抜き、村人の間を抜けて、ゴブリンの群れ目掛けて走り出した。
 目の前までゴブリンが近付く、ローニャは剣を構え、そして先頭のゴブリン数匹の首を通り過ぎ側に跳ね飛ばす。ゴブリン達の足が止まり、それぞれが目を見合わせながら困惑する。ようやく状況を理解するとゴブリン達はローニャに向かって押し寄せる様に襲い掛かった。
 ローニャは押し寄せるゴブリンを縦回転、横回転、叩きつけ等、振り回す様に剣を駆使し、的確に薙ぎ払う。近くで見て居た村人達は、そんなローニャの戦い方に驚いていた。

「何だあれ…本当に子供か?」
「あんな戦い方見た事ない…まるで…獣みたいだ」

 村人達はローニャの力任せな戦い方に手助けすると隙も無く、ただ眺めて居た。
 
 数分後
 ゴブリンの数がかなり減って来た所で、ゴブリン達は雄叫おたけびを上げ逃げて行く、逃げるゴブリンを追い討ちで蹴散らし、残り三匹程になった所でローニャは追撃の手を止める、理由はこれ程の群れなら巣がある筈だと考えたからだ。
 敢えて見逃したゴブリン達が、森の中に入って行き姿が見え無くなった。村人達がローニャに駆け寄り話し掛ける。

「大丈夫か!怪我は?」
「何で逃したんだ!アンタなら仕留められただろ?」
「すげーな君!何処でそんな戦い方を覚えたんだ?」

  村人達が一斉に別々な事を話す、ローニャは

「あいつらはきっと縄張りに戻る…だから敢えて逃した…跡を追って巣を叩く…」 

 と冷静に言う、それに村人達は成程と納得した。そしてその後ローニャも森の中へ入って行った。
 ローニャはゴブリンの痕跡を辿りながら森の奥に進む。付いて来た村人は何故分かるのかと疑問に思いながらもローニャに付いて行く。そうしてようやく辿り着いたのは洞窟だった。
 ローニャ達は物陰に身を潜めながら様子を覗う。入り口には三匹のゴブリンが見張りをして居る。しかしローニャは疑問に思ったその理由は“賢すぎる”からだ。
 ゴブリンは確かに武器を扱う程の知能はあるが、見張りなど統制の取れた動きはあまりしない。だが実際に見張り番が居る、ならば考えられるのは【上位種】がいる可能性がある、ローニャは村人達にその事を伝えた。村人達は驚きローニャに指示を仰ぐ。しかしローニャは考える事無くゴブリンに向かって突っ走って行った。
 突然現れたローニャにゴブリンはパニックになる。その隙を見逃さず三匹のゴブリンを仕留めた。ローニャは村人達の方に振り向き言った

「帰った方が良い…多分貴方達じゃどうしようも出来ない…」

 村人達に冷たく言い放つ、村人達は一度は拒否しようとしたが、ローニャの冷たい目に理解した様に、そそくさと戻って行った。そしてローニャも一人で洞窟へ入って行った。
 狭い穴の中を進む、剣は扱えない為、ナイフを取り出す、進んで居ると二匹ほどゴブリンが走って来る。ローニャは瞬時に懐に入り込み、顎にナイフを突き刺す。もう一匹がローニャに棍棒を振ろうとするが、天井に当たり、跳ね返るり、蹌踉よろめく。その隙に足を切り付け、跪かせ、脳天に突き刺す。ナイフの血を払いゴブリンの持って居た松明を拾い奥に進む。
 その後も二、三回程ゴブリンを退治し、進み続けて居ると広い場所に出た、天井も高くなり剣を振れようになった。剣を抜き更に進むと奥から声が聞こえた。咄嗟に岩陰に身を隠して様子を伺う、妙に明るいその場所には、無数のホブゴブリンが居た。

〈【ホブゴブリン】とは【ゴブリン】が成長して更に知能を身に付け大幅に強くなったゴブリンの【上位種】である。ホブゴブリンはゴブリンとは違い、様々な武器を扱う、時には魔法を扱う者も居り、その強さはゴブリンが【F】だったのに対して一段上の【E】ランクになっている程で、戦闘経験の無い者はまず太刀打ちできない。〉

 ローニャはこの状況をどう切り抜けるか考えていると、ホブゴブリン達は更に奥に居る何かに話し掛けていた。薄暗くて何も見えず、壁だと思っていたその奥には、確かに違和感があった。薄暗く照らされた壁に意識を集中する。其処には、巨大な何かの気配があった。
 何かは分からないが、確かに其処に居る事は分かる、ローニャ考えた、一旦戻って応援を呼ぶべきか。しかし戻って来る間に村が再び襲われる可能性が有った。数秒悩んだ末ローニャは戦う事にした。
 《身体能力強化・改》《怪力付与・改》《筋力強化・改》《身体加速・改》《反応速度上昇》《視力強化》《命中補正》の魔法を重ね掛け、強化してローニャは隠れていた岩を思い切り蹴り飛ばし、ホブゴブリンを吹き飛ばし二匹仕留める。その瞬間ローニャは木の杭を一本、二本とホブゴブリンの頭目掛けて的確に投げ、仕留める、残り十匹。
 接近し剣を振る、ホブゴブリンの腹を両断し、弓を構えるホブゴブリンに走って行き、矢を躱して、首を刎ねる。魔法の詠唱をするホブゴブリンに杭を投げ仕留める、残り七匹。 
 その後も一匹一匹を確実に仕留めて行き、残り三匹程に成った時。ホブゴブリンを攻撃しようとした瞬間、今まで静かだった巨大な何かは動き出し、そしてローニャと同じ大きさ程の拳が脇腹へ飛んで来た。ローニャは何とかギリギリ回避したものの、反対方向からまたも拳が飛んで来る。ローニャはそれは回避できず剣で防いだものの壁へ吹き飛ばされる。

「がっ!」

 壁に叩きつけられ叫び声を上げる。体勢を立て直し近付いて来ていたホブゴブリンを一匹仕留める。巨大な何かは立ち上がりローニャに向かって歩き出す。大きさは五メートル程だろうか、そんな大きさの物が『ドシン…ドシン』と足音を立てながら近付いて来る。何とか倒したいが暗くて多少暗視は効くものの、下半身以外は何処がどの部位なのかはいまいち分からない。感覚で探ろうにもホブゴブリンが残っている為、一点に集中も出来ない。そんな状態だった為ローニャは洞窟の中をただ走り回って逃げていた。
 するとその巨大な何かは足元のホブゴブリンに気付かず踏み潰してしまった、ローニャ少し驚いたがそれ所では無かった。巨大な何かはが直ぐそこまで迫って来た時、残り一匹のホブゴブリンが魔法を詠唱し終えた。そして、発動したのは周囲を照らす《ライト》の魔法だった。ローニャは光に弱い為少し目を細め一瞬視界を奪われたがおかげで周囲が多少明るくなり、巨大な何かの正体が現れた。
 その姿はゴブリン其の物だった。恐らくホブゴブリン以上の種族なのは確かだが、知能は高く無い様に思える。何なのか理解は出来ないものの、倒す以外道は無い。ローニャは巨大ゴブリンに向かって走り出した。
 巨大なゴブリンはローニャに向かって拳を振る、ローニャはそれを躱し、拳は地面を殴った、ローニャはそこから体を駆け上り一気に肩まで登った、巨大ゴブリンはローニャを掴もうとするがその前にローニャは巨大ゴブリンの首を切る

「ふぅ!」

 しかし首が太く骨が硬い為一刀では斬り切れない、巨大ゴブリンは叫び声を上げ、苦しみながら首を手で押さえようとする、ローニャはその手を避ける様に反対側の肩に乗り移り反対側の首の肉を断つ。そして巨大ゴブリンの首は地面に落ちた。それと同時にゴブリンの体も膝から崩れ落ち横たわる、ローニャは地面に着地し剣の血を払う。死んだ自身の主人の亡骸と血塗れのローニャの姿を見て恐れおののき腰を抜かすホブゴブリン、それに気付いたローニャは残りの一匹のホブゴブリンを仕留めた。

 村ではローニャを心配して村人達が門前に集まって居た。

「あの子大丈夫か?」
「幾ら強いって言ってもホブゴブリンは流石に…」
「やっぱり助けに行った方が…」
「いや、それより応援を呼んだ方が…」

 そんな会話をしていると村人の一人が大声を出した。

「おい見ろ!あれ!」

 指差す方向を見るとローニャが歩いて居るのが見えた。村人達は一斉にローニャに駆け寄った、村人達はがローニャを囲みローニャを気に掛ける。そして…

「大丈夫…終わったから…」

 その言葉に村人達は歓声を上げる。こうしてローニャの長い様で短い冒険者としての初めての依頼を完了した。

 あれから村では宴が行われ、ローニャは盛大にもてなされた。ローニャは少し気まずそうにしながらも宴を楽しんだ。その後、持ち帰った巨大ゴブリンの素材を村長や村人に見せたが何も分からなかった。
 
 翌日ローニャは街へ帰る為、村の門の前で準備運動をしていた、其処に村人達が大勢集まって来た。

「もう行ってしまわれるのか、もう少し居てもくれても構わないのですが…」
「ううん…やる事あるし…」
「そうですか…ならば無理に止めはしません…この村は何時でも貴女を歓迎します。貴女はこの村の恩人ですから。」

 その言葉い釣られるように村人達がローニャに御礼の言葉を述べる、ローニャは別れを言い、その村を後にした。

 数時間後、ローニャはギルドに到着した。

「こんにちは!どう言ったご用件ですか?」
「依頼が終わった…ロザリアは?」
「ロザリア先輩は今、別のお仕事で居ません。なので私が対応致します。それでは依頼書と証拠品をご提示下さい」

 受付嬢に依頼達成の報告をし、証拠品の大量のゴブリンの素材が入った袋をカウンターに乗せる、ホブゴブリンの素材を出した辺りからギルド内がざわつき始める、最後に格段に大きなゴブリンの耳を取り出すと受付嬢が慌て始める。

「それは仕舞って貰って…少し待って居てください!」

 そう言われて待っていると職員が行ったり来たりし始めて、最終的にはカーバッツが出て来る。

「ちょっと奥に来い…」

 と言われ突然応接室に連れて来られ、椅子に座らされる。そしてカーバッツが口を開く

「突然すまんな…とりあえず素材を見せてくれ…」

 そう言われてカバンから巨大な耳を取り出しカーバッツに渡す、カーバッツは暫くそれを眺めて、更にローニャに質問する。

「これを何処で?」
「ここから東に…半日くらい?の場所にある村…その近くの森の中の洞窟に居た…」
「嘘じゃ無いな?」
「嘘つく理由無い…」
「成る程…強かったか?」
「そこまで…ただ大きいだけ…暗くて少し手こずったけど…運が良かった…」
「そうか…武器とか魔法は使って来たか?」
「いや…素手だった…周りに居たホブゴブリンは使ってたけど…」
「…」
「そもそもそいつ何なの?知能低いのに…図体はでかいし…それにホブゴブリン達にボスみたいに扱われてたし…」
「ただの予想だが…こいつは恐らく…だ…」
「それは分かるよ…」
「いやそうじゃ無い…だ。恐らく突然変異で巨大化したんだろう」

 カーバッツの言葉にローニャは耳を疑った

「は?そんな事あるの?」
「極めて稀だがな」
「じゃあ…そのゴブリンは元々ただのゴブリンで…洞窟の中でいきなり突然変異を起こしたって事?」
「ま、そういう事になるな…村がゴブリン共の被害に遭ってたって話だったな…恐らくだが巨大化したそのゴブリンを、後から来たゴブリン共が【上位種】と勘違いしてボスにして、食料を用意する為に村を襲ってたって所だろう」

 ローニャは洞窟の入り口に対して巨大ゴブリンが大きすぎる事に疑問を抱いていたが、カーバッツの言葉を聞きようやく納得がいった。とローニャが考え事をしているとカーバッツが突然立ち上がった。

「こいつを放置してたら被害はきっとその村だけじゃ済まなかっただろう…本当に感謝する」

 と言ってカーバッツは深く頭を下げた。ローニャはいきなりで少し驚いてしまった。

「いや…別に…偶々だから…」
「それでもだ。本当に感謝する…報酬に関してはランクの昇格許可に加えて依頼料に上乗せしとく、せめてもの礼だ…まぁして当然なんだが…まぁとにかく話はこれで終わりだ…改めて礼を言う。ありがとな。」

 カーバッツが頭をもう一度下げる。ローニャは少し照れくさそうだった。そうして話は終わり、二人は部屋を後にした。 
 その後、ローニャのランクは【E】から【D】へ昇格した。そして依頼料に加えて渡された大金に驚愕し、戸惑いながら宿に戻った。
 
 その日の夜 マルクール家 屋敷
 家へ持ち帰った巨大ゴブリンの耳を机の上に置きカーバッツとロザリアが話し合っている。

「お父さん…これってやっぱり…あれ…だよね…」
「ああ…十中八九…【魔暴病】だろうな…最近無いと思った矢先これか…クソ!」
「でも本当に危なかったね…もしローニャちゃんが仕留めてくれて無かったら…きっと大変な事になってたよね…」
「ああ…しかも此処まで巨大化してるとなると、恐らく後数日で【魔獣化】してただろうな…本当に運が良かった…もしコイツがすでに変異していたり、ただのゴブリンじゃ無く…【ホブゴブリン】や【ゴブリンキング】だったら…きっとアイツは死んでただろうな…」
「そう思うと…ゾッとするね…そういえばこの事はローニャちゃんには言ったの?」
「いや…突然変異とだけ伝えたがそれ以上は言ってない…知らない可能性もあるし…何より無駄に不安を煽る訳にもいかん…アイツはまだ子供なんだ…余計な心配はさせたくは無い」
「過保護だな…でもお父さんらしいね」
「うるせぇ…この事は王にだけ報告する。それ以外は他言無用だ。あいつが倒したと言う事もな。良いな?」
「了解です、ギルドマスター」
「よし!もう寝るぞ、もう遅いからな、後…パパって呼んで?」
「やだよ!もう子供じゃ無いんだから。」

 と笑いながら二人はそれぞれ部屋に戻る。こうしてマルクール家での秘密の会議は終了した。
 
 翌日
 しっかりと休息を取ったローニャは何時の朝を過ごしてからギルドに向かった。
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