友人キャラ×主人公同盟

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第一話

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「このゲームってさあ……」
その友人は、ゲームの途中で急に黙り込んだかと思うと、こんなことを言い出したのだった。
「なんで主人公が『勇者』なわけ?」
何を言っているんだこいつは、と思った。しかし僕はその言葉を口に出すことはしなかった。何故なら僕も同じようなことを考えていたからだ。
主人公は勇者でなければいけないのか? 主人公は世界を救わなければならないのか?
例えば、僕だって主人公になれるんじゃないか? そんな考えが僕の頭の中を駆け巡った。
そして、僕は気付いたらこう言っていた。「いや……別に主人公じゃなくてもいいだろ」
それは、僕の心の奥底から溢れ出た本音だった。
確かに世界を救うことは素晴らしいことだと思う。でも、それはあくまで物語の中の話であって、現実には関係ないことだ。それに何より、自分を犠牲にしてまで成し遂げたいとは思わない。
それからというもの、僕は今まで以上に小説を読むようになった。特にライトノベルを中心に読み漁るようになった。自分が異世界に行って活躍する妄想をしながら読むようになった。
しかし、それでも僕は主人公のようになろうとは思わなかった。むしろ、脇役の方が自分に合っているのではないかと思っていた。そう思いながら読んだラノベの中に、友人キャラというものが存在した。
主人公の一歩後ろにいるような立ち位置のキャラクターである。
主人公に助言をしたり、時には主人公と共に問題を解決したりしているのだ。
それを見た瞬間、これだ! と思った。
僕はこの友人キャラのようなキャラクターになりたい。そして、主人公を支えることのできる人間になりたかった。
こうして僕は、自分のなりたい人物像を見つけたのであった。

「――ということです」
僕は一通り話し終えた後、目の前にいる女性を見やった。彼女は腕を組みながら僕の話を聞いていたのだが、どうにも納得いかないといった表情をしていた。
彼女は昔からの知人で、俺と同じくラノベオタクな先輩である。
友人キャラという人物像について知識を増やすため、僕は知人の彼女に相談をしていたのだが…。
「うーん……」
「何か問題がありましたか?」
「えっとね……」
女性は少し考える素振りを見せたあと、「ごめんなさい」と言って頭を下げた。
「私にはちょっと難しいかなぁ。あなたの言ってることはよく分かったけど、やっぱり私は勇者とか英雄っていう存在に憧れちゃうのよね。だからあなたみたいに深く考えたことはないわ」
「そうなんですか……」
彼女の意見を聞いて、僕は肩を落とした。せっかく良いアドバイスがもらえると思ったんだけど……。
「あ、そうだ!」
すると突然、彼女がパンッと手を叩いた。「ねえ、私が主人公になったらどうかしら?」
「……はい?」
僕の口から思わず疑問の声が出た。
今なんて言ったんだ?
「あの、すみません。よく聞こえなかったのですが……」
「だから、私が主人公よ! そしたらあなたも安心できるでしょう?」
「…………」
一瞬だけフリーズした思考回路が再起動し、ようやく理解することができた。
つまりこの人は、自分が主人公になって僕を助けてくれると言っているのだ。
「……ぷっ」
あまりにも突拍子もない提案だったので、僕はつい笑ってしまった。
「ちょ、ちょっと! 人が真剣に考えてる時に笑うってどういうこと!?」
「ああ、いえ、違うんですよ。別に馬鹿にして笑ってたんじゃないです。ただその発想はなかったなって思っただけで……」
「同じことでしょうが!」
女性は顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
それからしばらく経って、僕らの間に沈黙が訪れた。
お互いに何も言わず、ただ黙々と歩き続ける。
「……まあ、でも」
先に口を開いたのは彼女だった。
「そういう考え方もあるかもですね、あなたが物語の主人公、僕はそれを支える友人キャラ、
とてもいいじゃないですか」
「ふふん、そうでしょう?」
得意げに胸を張る女性を見て、僕は微笑みを浮かべた。本当に不思議な人だなと思う。普通ならこんなこと絶対に言えないだろう。
でも、それが彼女の魅力なのだ。
「じゃあ今日から私が主人公として、あなたが友人キャラとして過ごしていきましょう。まずは何をするべきかしら?」
そう言って僕に問いかけてくる彼女を横目に見ながら、僕は答えを口にする。
「そうですね、とりあえず一緒に買い物に行きますか? 友人キャラらしいことをしようと思いますので」
「うん、賛成!」
満面の笑顔を見せる彼女を見ながら、僕は思う。
やはり僕は主人公ではなくてもいい。
だって、僕は―――。
『この人』の友人キャラなんだから。
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