蝉の恩返し

morituna

文字の大きさ
上 下
1 / 1

蝉の恩返し

しおりを挟む
  黄金色の「夢の女神像」

が設置されている女神公園が近くにある。
   夕方、この女神公園で、ひっくり返って、もがいている蝉の幼虫を発見した。 
   これから羽化するところだったのが、きっと、立ち木から落ちたんだろう。
   表向きに戻してやってから写真撮影!
 それから、立ち木にとまらせてやった。ここで、また、写真撮影!
 

   ヤツは、今夜、飛び立つだろうな。 何年も土の中で暮らして、この日を待ち望んでいた筈なのに、俺が危うく踏み潰すところだった。
 
  翌日は、 この女神公園で、コスプレ撮影会

   が催される。 
   俺は、昨日と同じ、フィルム式のカメラ(注1)を持って行くことにした。
 事前に購入しておいたカメラ参加証を、公園入り口で、カメラ撮影券に引き換え、
 撮影に応じてくれるコスプレーヤーを物色した。
 人気のコスプレーヤーの回りには、黒山のカメラマンが取り巻いていたので、割り込む余地がなかった。
 丹念に探し回ったあげく、昨日の立ち木の下で、『ウルトラQ』に登場するセミ人間に扮したコスプレーヤーを見つけた。 
 メス形のセミ人間は、チルソニア遊星人

に扮しており、かなりマニアックであった。
   このメス形のセミ人間を撮影したいカメラマンは、誰もいないみたいだったので、
すかさず、セミ人間

に、撮影の申し込みをした。
  快く、応じてくれたので、セミ人間のパフォーマンスをやってもらった。
  ふと、気がつくと、36枚取りフィルムを5本も使ってしまっていた。
  俺は、セミ人間のコスプレーヤーに、セミ子と名ずけた。
夕方になり、コスプレ撮影会の終了時刻が近ずいてきたので、セミ顔のかぶりものを取って欲しいと、セミ子に頼んだ。しかし、いまは、羽化したばかりなので、外せれないと、適当な言い訳をされた。
  また、名前も、年も、居所も、教えてくれなかった。
  明日の朝は、セミ顔のかぶりものを外して来るから、この立ち木の下で、また、会おうという約束をして、今日は、お開きにした。

   翌朝は、昨日のセミ顔とは、打って変わり、かわいいコスプレ衣装を着て、セミ子

は、立ち木の下に来ていた。
  コスプレ撮影会は、昨日1日だけだと、俺が言うと、セミ子は、これは、普段着ですと、とぼけた。
  2日目のセミ子
は、かわいいコスプレ衣装を着ていたので、この女神公園で、遊具、ベンチ、階段、立ち木を利用して、俺とセミ子だけでコスプレ撮影会を行った。

  3日目も、2日目と同じコスプレ衣装を着て、セミ子は、立ち木の下に来ていた。
去年の末にリニューアルした中央公園を散策しようということで、向かったが、
途中で、急な雷雨に見舞われ、2人とも、ずぶ濡れになってしまった。
  そこで、めしが食え、カラオケやゲームができ、映画が見れ、お風呂も有る、便利な施設(注2)に、駆け込んだ。
  カラオケとゲームで、盛り上がった後、俺とセミ子だけでコスプレ撮影会を行った。

  こうして、楽しいひとときが7日間、つずいた。
  しかし、セミ子との別れは、突然やってきた。
  8日目は、夕方迄待っても、女神公園の立ち木の下に、セミ子は、来なかった。
  (注3、注4)
  そういえば、7日目の別れ際に、少し疲れた、とセミ子が言っていたのを思い出した。
  セミ子との思い出は、撮影したフィルムだけになってしまった。
  1日目のコスプレ撮影会から7日目までに撮影した全てのフィルムを
DPEに出した。
  出来上がりの連絡を受けて、封筒を受け取ったが、中身を確認したところ、印画紙にもネガにも、クマゼミ

しか写っていなかった。

------------------------ 状況設定 ----------------------------

注1: 真実がカメラに映るため、舞台をフィルム式のカメラが全盛の頃に設定した。
    なお、デジタルカメラだと、タネが直ぐ判ってしまう。
注2: ラブホのこと
注3: 以下のエンディングの記載は、残酷さが生じるので、省いた。
立ち木の下には、クマゼミの死骸

が転がっていて、蟻が群がっているだけだった。
注4: チルソニア遊星人のメモ
我々が、女神公園の周辺で行った、地球生物の個体A(セミ)と個体B(俺)
   との、異なる種間(しゅかん)の意志疎通実験は、
   上手く進んでいたが、
   地球生物の個体A(セミ)が、短寿命であったため、8日目に個体Aの寿命が尽きた時点で、アボート; abort になってしまった。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

宇宙を渡る声 大地に満ちる歌

広海智
SF
九年前にUPOと呼ばれる病原体が発生し、一年間封鎖されて多くの死者を出した惑星サン・マルティン。その地表を移動する基地に勤務する二十一歳の石一信(ソク・イルシン)は、親友で同じ部隊のヴァシリとともに、精神感応科兵が赴任してくることを噂で聞く。精神感応科兵を嫌うイルシンがぼやいているところへ現れた十五歳の葛木夕(カヅラキ・ユウ)は、その精神感応科兵で、しかもサン・マルティン封鎖を生き延びた過去を持っていた。ユウが赴任してきたのは、基地に出る「幽霊」対策であった。

【完結】Transmigration『敵陣のトイレで愛を綴る〜生まれ変わっても永遠の愛を誓う』

すんも
SF
 主人公の久野は、あることをきっかけに、他人の意識に潜る能力を覚醒する。  意識不明の光智の意識に潜り、現実に引き戻すのだが、光智は突然失踪してしまう。  光智の娘の晴夏と、光智の失踪の原因を探って行くうちに、人類の存亡が掛かった事件へと巻き込まれていく。  舞台は月へ…… 火星へ…… 本能寺の変の隠された真実、そして未来へと…… 現在、過去、未来が一つの線で繋がる時…… 【テーマ】 見る方向によって善と悪は入れ替わる?相手の立場にたって考えることも大事よなぁーといったテーマでしたが、本人が読んでもそーいったことは全く読みとれん… まぁーそんなテーマをこの稚拙な文章から読みとって頂くのは難しいと思いますが、何となくでも感じとって頂ければと思います。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

暑苦しい方程式

空川億里
SF
 すでにアルファポリスに掲載中の『クールな方程式』に引き続き、再び『方程式物』を書かせていただきました。  アメリカのSF作家トム・ゴドウィンの短編小説に『冷たい方程式』という作品があります。  これに着想を得て『方程式物』と呼ばれるSF作品のバリエーションが数多く書かれてきました。  以前私も微力ながら挑戦し『クールな方程式』を書きました。今回は2度目の挑戦です。  舞台は22世紀の宇宙。ぎりぎりの燃料しか積んでいない緊急艇に密航者がいました。  この密航者を宇宙空間に遺棄しないと緊急艇は目的地の惑星で墜落しかねないのですが……。

人生カード 決められた人生をぶっ壊して夢を見る

秋水
SF
スーパーコンピュータ『ゼウス』が管理する完璧なディストピアの破壊を目論む主人公の話

†ブラックボックス・ネスト†

猩々飛蝗
SF
ちくわぶアンソロジー企画参加作。猩々飛蝗に「テーマがちくわぶなら何してもいいよ」って言っちゃうとこうなる。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

銀河商人アシュレー

karmacoma
SF
エイリアン大戦から五年が経過し、人間とエイリアンが共存する平和な銀河のもと、軍人を辞めて貿易商人に転職したアシュレーは、妻と娘をを養うためという名目上、お気楽にほそぼそと商売を続けていた。さんかく座銀河を拠点に商売を続けていたが、そんなある日、元軍属の同僚でありヘイムダル社の筆頭であるリーヴァスから要人警護移送の依頼を頼まれる。惑星エイギスの後継ぎと言われるその幼い少女を見て、アシュレーは最初依頼を拒否するが、自分の娘であるミカと仲がよくなった事を受けて、仕方なく依頼を引き受ける事になる。そこからアシュレーとその一家、乗員達のドタバタなトラブル続きの日常が始まっていく。

処理中です...