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蝉の恩返し
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黄金色の「夢の女神像」
が設置されている女神公園が近くにある。
夕方、この女神公園で、ひっくり返って、もがいている蝉の幼虫を発見した。
これから羽化するところだったのが、きっと、立ち木から落ちたんだろう。
表向きに戻してやってから写真撮影!
それから、立ち木にとまらせてやった。ここで、また、写真撮影!
ヤツは、今夜、飛び立つだろうな。 何年も土の中で暮らして、この日を待ち望んでいた筈なのに、俺が危うく踏み潰すところだった。
翌日は、 この女神公園で、コスプレ撮影会
が催される。
俺は、昨日と同じ、フィルム式のカメラ(注1)を持って行くことにした。
事前に購入しておいたカメラ参加証を、公園入り口で、カメラ撮影券に引き換え、
撮影に応じてくれるコスプレーヤーを物色した。
人気のコスプレーヤーの回りには、黒山のカメラマンが取り巻いていたので、割り込む余地がなかった。
丹念に探し回ったあげく、昨日の立ち木の下で、『ウルトラQ』に登場するセミ人間に扮したコスプレーヤーを見つけた。
メス形のセミ人間は、チルソニア遊星人
に扮しており、かなりマニアックであった。
このメス形のセミ人間を撮影したいカメラマンは、誰もいないみたいだったので、
すかさず、セミ人間
に、撮影の申し込みをした。
快く、応じてくれたので、セミ人間のパフォーマンスをやってもらった。
ふと、気がつくと、36枚取りフィルムを5本も使ってしまっていた。
俺は、セミ人間のコスプレーヤーに、セミ子と名ずけた。
夕方になり、コスプレ撮影会の終了時刻が近ずいてきたので、セミ顔のかぶりものを取って欲しいと、セミ子に頼んだ。しかし、いまは、羽化したばかりなので、外せれないと、適当な言い訳をされた。
また、名前も、年も、居所も、教えてくれなかった。
明日の朝は、セミ顔のかぶりものを外して来るから、この立ち木の下で、また、会おうという約束をして、今日は、お開きにした。
翌朝は、昨日のセミ顔とは、打って変わり、かわいいコスプレ衣装を着て、セミ子
は、立ち木の下に来ていた。
コスプレ撮影会は、昨日1日だけだと、俺が言うと、セミ子は、これは、普段着ですと、とぼけた。
2日目のセミ子
は、かわいいコスプレ衣装を着ていたので、この女神公園で、遊具、ベンチ、階段、立ち木を利用して、俺とセミ子だけでコスプレ撮影会を行った。
3日目も、2日目と同じコスプレ衣装を着て、セミ子は、立ち木の下に来ていた。
去年の末にリニューアルした中央公園を散策しようということで、向かったが、
途中で、急な雷雨に見舞われ、2人とも、ずぶ濡れになってしまった。
そこで、めしが食え、カラオケやゲームができ、映画が見れ、お風呂も有る、便利な施設(注2)に、駆け込んだ。
カラオケとゲームで、盛り上がった後、俺とセミ子だけでコスプレ撮影会を行った。
こうして、楽しいひとときが7日間、つずいた。
しかし、セミ子との別れは、突然やってきた。
8日目は、夕方迄待っても、女神公園の立ち木の下に、セミ子は、来なかった。
(注3、注4)
そういえば、7日目の別れ際に、少し疲れた、とセミ子が言っていたのを思い出した。
セミ子との思い出は、撮影したフィルムだけになってしまった。
1日目のコスプレ撮影会から7日目までに撮影した全てのフィルムを
DPEに出した。
出来上がりの連絡を受けて、封筒を受け取ったが、中身を確認したところ、印画紙にもネガにも、クマゼミ
しか写っていなかった。
------------------------ 状況設定 ----------------------------
注1: 真実がカメラに映るため、舞台をフィルム式のカメラが全盛の頃に設定した。
なお、デジタルカメラだと、タネが直ぐ判ってしまう。
注2: ラブホのこと
注3: 以下のエンディングの記載は、残酷さが生じるので、省いた。
立ち木の下には、クマゼミの死骸
が転がっていて、蟻が群がっているだけだった。
注4: チルソニア遊星人のメモ
我々が、女神公園の周辺で行った、地球生物の個体A(セミ)と個体B(俺)
との、異なる種間(しゅかん)の意志疎通実験は、
上手く進んでいたが、
地球生物の個体A(セミ)が、短寿命であったため、8日目に個体Aの寿命が尽きた時点で、アボート; abort になってしまった。
が設置されている女神公園が近くにある。
夕方、この女神公園で、ひっくり返って、もがいている蝉の幼虫を発見した。
これから羽化するところだったのが、きっと、立ち木から落ちたんだろう。
表向きに戻してやってから写真撮影!
それから、立ち木にとまらせてやった。ここで、また、写真撮影!
ヤツは、今夜、飛び立つだろうな。 何年も土の中で暮らして、この日を待ち望んでいた筈なのに、俺が危うく踏み潰すところだった。
翌日は、 この女神公園で、コスプレ撮影会
が催される。
俺は、昨日と同じ、フィルム式のカメラ(注1)を持って行くことにした。
事前に購入しておいたカメラ参加証を、公園入り口で、カメラ撮影券に引き換え、
撮影に応じてくれるコスプレーヤーを物色した。
人気のコスプレーヤーの回りには、黒山のカメラマンが取り巻いていたので、割り込む余地がなかった。
丹念に探し回ったあげく、昨日の立ち木の下で、『ウルトラQ』に登場するセミ人間に扮したコスプレーヤーを見つけた。
メス形のセミ人間は、チルソニア遊星人
に扮しており、かなりマニアックであった。
このメス形のセミ人間を撮影したいカメラマンは、誰もいないみたいだったので、
すかさず、セミ人間
に、撮影の申し込みをした。
快く、応じてくれたので、セミ人間のパフォーマンスをやってもらった。
ふと、気がつくと、36枚取りフィルムを5本も使ってしまっていた。
俺は、セミ人間のコスプレーヤーに、セミ子と名ずけた。
夕方になり、コスプレ撮影会の終了時刻が近ずいてきたので、セミ顔のかぶりものを取って欲しいと、セミ子に頼んだ。しかし、いまは、羽化したばかりなので、外せれないと、適当な言い訳をされた。
また、名前も、年も、居所も、教えてくれなかった。
明日の朝は、セミ顔のかぶりものを外して来るから、この立ち木の下で、また、会おうという約束をして、今日は、お開きにした。
翌朝は、昨日のセミ顔とは、打って変わり、かわいいコスプレ衣装を着て、セミ子
は、立ち木の下に来ていた。
コスプレ撮影会は、昨日1日だけだと、俺が言うと、セミ子は、これは、普段着ですと、とぼけた。
2日目のセミ子
は、かわいいコスプレ衣装を着ていたので、この女神公園で、遊具、ベンチ、階段、立ち木を利用して、俺とセミ子だけでコスプレ撮影会を行った。
3日目も、2日目と同じコスプレ衣装を着て、セミ子は、立ち木の下に来ていた。
去年の末にリニューアルした中央公園を散策しようということで、向かったが、
途中で、急な雷雨に見舞われ、2人とも、ずぶ濡れになってしまった。
そこで、めしが食え、カラオケやゲームができ、映画が見れ、お風呂も有る、便利な施設(注2)に、駆け込んだ。
カラオケとゲームで、盛り上がった後、俺とセミ子だけでコスプレ撮影会を行った。
こうして、楽しいひとときが7日間、つずいた。
しかし、セミ子との別れは、突然やってきた。
8日目は、夕方迄待っても、女神公園の立ち木の下に、セミ子は、来なかった。
(注3、注4)
そういえば、7日目の別れ際に、少し疲れた、とセミ子が言っていたのを思い出した。
セミ子との思い出は、撮影したフィルムだけになってしまった。
1日目のコスプレ撮影会から7日目までに撮影した全てのフィルムを
DPEに出した。
出来上がりの連絡を受けて、封筒を受け取ったが、中身を確認したところ、印画紙にもネガにも、クマゼミ
しか写っていなかった。
------------------------ 状況設定 ----------------------------
注1: 真実がカメラに映るため、舞台をフィルム式のカメラが全盛の頃に設定した。
なお、デジタルカメラだと、タネが直ぐ判ってしまう。
注2: ラブホのこと
注3: 以下のエンディングの記載は、残酷さが生じるので、省いた。
立ち木の下には、クマゼミの死骸
が転がっていて、蟻が群がっているだけだった。
注4: チルソニア遊星人のメモ
我々が、女神公園の周辺で行った、地球生物の個体A(セミ)と個体B(俺)
との、異なる種間(しゅかん)の意志疎通実験は、
上手く進んでいたが、
地球生物の個体A(セミ)が、短寿命であったため、8日目に個体Aの寿命が尽きた時点で、アボート; abort になってしまった。
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