上 下
8 / 85
序章(プロローグ)

第8話 ぶひゃひゃっ! なんて格好だ?

しおりを挟む
すれ違う俺とキムリ。

鎧袖一触。

腕が斬り飛ばされ宙を飛んだ。

飛んだのは……騎士の腕であった。

俺はキムリの剣を躱し、爪斬でその腕を刻んでやったのだ。

なかなかの速度だったが、その程度は余裕で対処できる。森の奥に居る魔物にはもっと速いモノがたくさん居るのだ。

キムリの腕は五分割の輪切りとなって地面に散った。(爪は四本使っているので、切られたモノは五分割になってしまうのだ。)

何が起きたのか一瞬分からず、ドヤ顔でポーズを決めいていたキムリだったが、やや遅れて、剣を持っていた自分の左腕がない事に気づいたようだ。

キムリ「なっ…馬鹿な……! お、俺の! 腕! 腕がぁぁぁぁ!!」

「うるさいにゃ」

キムリ「おい? 来るな、やめろ、俺は武器がないんだぞ……? っうぎゃあぁぁぁあ…!」

さらに俺は爪をふるい、キムリの残った手足も輪切りにしてやった。すぐ死ななないように火魔法で傷口を焼いて止血してやる。親切だにゃ。

「さっき、手足をもいで晒し首にしてやれとか言ってたからしてやったにゃ」

キムリ「お、お前に言った訳じゃ…ない…!」

キムリは助けて欲しそうに部下たちに視線を送ったが、足を埋められた騎士達は、もがいても足が抜けずその場から動けない状態である。

すると、騎士団長キムリは一番近くに居た平民を恫喝し始めた。どうやら騎士団本部に応援を呼びに行けと言っている。なかなかメゲないヤツだな。

言われた平民は慌てて走っていったが放っておいた。直に応援が来るだろうが……

俺は気にせず買い物を再開だ!

商売人達もすぐに持ち場に戻り商売を再開した。応援が来る前にできるだけ売ってしまおうというわけである。実に商魂たくましい。

だが結局、俺が買い物を終えるまでに応援は来ず、俺は街を出て塒へと帰ったのであった。



  +  +  +  +



■シックス

俺はシックス・スヴィル。スヴィル子爵家の嫡男にして、この街を治めるワッツローヴ伯爵家が擁する白鷲騎士団の団長でもある。

街を守るのが仕事の黒鷲とは違い、我々白鷲騎士団の仕事は伯爵家を守る事だ。

つまり伯爵家の親衛隊、いわばエリートであり、黒鷲はその他の落ちこぼれという位置付けだ。

まぁ、黒鷲騎士団長のキムリはそれを認めず、何かと張り合ってくるのだが。

仕事は完全に別なのだが、緊急時には黒鷲の応援に行く事もある。ただ、黒鷲の連中は意地を張って応援要請など出さない事が多いので、見かねた領主の命令で出向く事が多い。

だが、今回は珍しく、黒鷲騎士団のほうから応援要請があった。なんでも、街で獣人が暴れており、なんと団長キムリまでもがやられてしまったというではないか。

キムリはやたらと俺をライバル視してくる男だ。まぁ俺は相手にしていないのだが。しかし格の違いが分からないキムリは、事あるごとにいちいち俺と比べては煽ってくるので、たまに苛つく事もある。

そのキムリが無様に負けたと聞いて、俺はちょっと興味が出て、様子を見に行ってみる事にしたのだが……

キムリはかなり重症だと言う事で、領主邸の治癒師も駆り出されていたのだが……

「ぶひゃひゃひゃっ! キムリ、なんて格好だ?」

治療が終わったキムリの姿を見て、俺は思わず笑い転げてしまった。

キムリ「う、うるさい! あのクソ猫め~~~必ず見つけ出して殺してやる!」

キムリの両手両足は何故か、以前よりかなり短くなってしまっていたのだ。

治癒士達が、手足の部品を全て集めずに接合しやがったとキムリは怒り狂っている。

どうやらキムリの手足は輪切りにされていたようで、その中間の部分がみつからないまま接合されてしまったため、短くなってしまったという事らしい。

治癒師士達の嫌がらせ? キムリは治癒士達に嫌われていたのか?

治癒士達に話を聞いてみると、そんな悪質な嫌がらせはしないと言う。そうではなく、手足の部品はすべて集めようと必死で探したが、みつからなかったのだそうだ。

放置しておけば手足が腐って繋げる事はできなくなってしまうのでやむを得ず、あるパーツだけで治療したそうだ。

キムリ「そんな事ありえねぇだろうが! ……は! まさか…?!」

「?」

キムリ「あのクソ猫が持ち去ったのか? それとも市場の連中か?!」

シックス「良く分からんが…そのザマじゃぁ、もう、騎士も廃業だな。その短い腕じゃぁ、剣もまともに振れないだろ」

キムリ「そんな事はないっ!」

「じゃぁ剣を抜いてみろよ」

俺は剣を抜き、キムリの鼻先に突きつけてやった。いつもなら、俺の速さには及ばないにしても、キムリも剣を抜いて突きつけられた剣を跳ね除けるくらいはしてくるのだが……

キムリは短くなった腕で剣を抜き切れず。慌てて鞘を引き剣を抜いたのは流石だがワンテンポ遅い。

「遅すぎるだろ…」

キムリ「…っ、ちっくしょ~~~!」

キムリは泣きながら悔しがっていた。

まぁ気持ちは分かる。俺だったら、あんな姿にされたら自害を選ぶだろう。

とりあえず、人間を、それも貴族を傷つけた危険な獣人を野放しにしておくわけには行かない。姿を消した獣人について部下に聞き込みを行わせたところ、街の近くの森に塒があると話していたらしい。

俺は即座に討伐部隊を準備するよう命じ、ワッツローヴ伯爵へと報告に向かった。

話を聞いた伯爵は即座に攻撃を許可。俺を指揮官として、魔法師団まで連れて行けと言った。

この街はもともと獣人の街だったのを過去の戦争で人間が奪った場所である。今でも獣人の心を折るかのように厳しく締め付けているのは、獣人達の反抗を恐れての事なのだ。ここで獣人に舐められれば、調子に乗った獣人が反抗クーデターを起こす事すらも、考えられない事ではないのだ。

そして、討伐部隊が編成され、森へと向かった。

メンバーは私と白鷲騎士団の精鋭数人、それから黒鷲騎士団の団長キムリ(犯人の獣人を確認するため)、そして獣人が使ったという魔法に興味があるという魔法士団の団長、モイラーである。

件の獣人の腕が立つという話でも、いくらなんでも過剰戦力な気がするのだが……ここで獣人に舐められてはならんというのがワッツローヴ伯爵の意向だ。獣人に、歯向かったらどうなるかを思い知らせてやる必要があるのだ。

まぁ、面倒だがサクッと行って終わらせて来よう。

キムリはクソ猫をぶち殺してやると息巻いているが、まぁ、慣れない体形になって果たして役に立つかどうか…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

処理中です...