上 下
3 / 85
序章(プロローグ)

第3話 いくらなんでも横暴じゃありやせんか?

しおりを挟む
俺はたまに街に行き、森で狩った魔物の素材を商業ギルドで売る。

(商業ギルドでは、商売の機を見る能力の高いギルドマスターが出てきて俺をお得意様VIPとして扱うようになったのだ。)

それから市場で調味料や日用品の買い出しする。

そして、昼飯を食って帰る。

それが定番の行動、ルーティーンというやつだな。

だが、その日はいつもと少し様子が違った。昼食を食べていると、その店に、とある冒険者のパーティがやってきたのだが…

庶民向けの店なので客に冒険者がいるのは普通であるが、その日現れた冒険者は少し様子が違った。リーダーが貴族であったのだ。

その貴族の男が、不愉快そうな顔で言った。

男「おい、ここは人間用の店だろう? なんでケダモノが居る?」



― ― ― ― ― ― ―

実は当時、この国の王族・貴族は獣人に対して極めて差別的な意識を持っており、この街(この国)での獣人の扱いはかなり酷いものだったそうだ。

(この時点の俺はそんな事情は知らなかったのだが。)

なんでも、人間の国と獣人の国の間で戦争があり、人間側が勝ったのだそうだ。そして獣人の国は人間に占領された。

※もともとこの街は獣人の街であり、今住んでいる人間は戦争後に(強制的に)移住させられてきた者達なのだそうだ。

生き残った獣人国の国民は最低の身分に落とされた。重労働を義務付けられ、給料は人間の十分の一、税金は人間の十倍。移動を禁じられ、逃げ出したくとも街から出る事も許されない。

王はなぜか獣人を憎んでおり、占領後、獣人を蔑み差別した。国内の貴族もそれに同調し、今に至るのだ。

とは言え、獣人を酷く扱っているのは貴族だけで、街の平民達は獣人に同情的であった。貴族に睨まれるので大っぴらにはどうこうする事もできなかったのだが。

俺は街に来てから、基本、平民としか会っていなかったので、差別を感じた事はなかったわけである。

たまに街で獣人を見かける事もあったが、俺は自分が獣人であったので珍しくもないと特に注視して見た事もなかったのだ。

余談だが、俺は自身を獣人カテゴリに入れていたのだが、後に知り合った人間の賢者に『ケットシーは獣人ではないだろ?』と指摘された。

そもそも獣人は身体能力に優れるが魔法が不得意な者が多いのだそうだ。

魔法に優れる【妖精猫ケットシー】は別名【賢者猫】とも呼ばれ、どちらかというと妖精族や精霊族に近い種族らしい。

俺にはそういう知識がまるでなかったので、外見から自分を獣人だと思いこんでいたというわけだ。(まぁ人間の賢者も知識として知っているだけで、妖精族や精霊族を見た事はなかったそうなのだが。)

確かに、二足歩行の少し大きな猫という外見の俺に対して、その後に出会った猫系の獣人は全員、猫耳と尻尾があるくらいで、それ以外はもっと人間らしい(毛のない猿族に近い)外見をしていた。

まぁ、俺もその気になれば完全に人間と同じ外見に変化へんげする事もできるがな。

ただ、差別があるとか知らなかったし、外見を偽る必要性を感じておらず、そのまま街に入ってしまったのだ。

街の住人達も鷹揚で、俺の外見が若干獣寄りであっても、そういう獣人も居るのだろうと、あまり深く考えなかったようだ。(実際、獣人の中には外見が獣に近い者もたまに居たらしいので、そういうタイプなのだろうと思われたようだ。)

俺が関わった人間はほとんどが商人だった事も大きい。商魂たくましい彼らは、儲かるならたとえ相手が魔物であっても取引をするのだ。

だが、現れた冒険者の男は、『獣人は下賤な存在である』と教育されて育った、典型的な貴族であった……。





冒険者は平民が圧倒的に多い。だが、中には貴族で冒険者をやっている者も居る。

嫡男でない、家を継ぐ事ができない貴族の子弟の中には、成人後、冒険者の道を選ぶ者も稀に居たのだ。この男もそんな一人であったのだろう…

…まぁ、知らんけどな。

すべて後から知った知識による推測だ。なにせ、その貴族の男はその後すぐ殺してしまったからな。

― ― ― ― ― ― ―





貴族の男「私は気さく・・・(な貴族)だから、平民と一緒に食事もするが……さすがに下賤な獣人とは生理的に無理だ…」

その貴族の男が仲間(部下?)に向かってブツブツ文句を言っているようだが、直接俺に絡んで来る様子はなかったので、うるせーな、気に入らねーならさっさと他所の店へ行けよ、飯が不味くなる、などと内心では毒づいていたが口には出さず、俺は黙って食事を続けていた。

だが、その男は横暴な事を言い出した。

男「おい店主! 今日からこの店は人間専用にする! 人間以外はさっさと追い出せ!」

店主「……は?」

男「聞こえなかったのか? この店は人間専用にして、人間以外の亜人、特に獣人は追い出せと言ったんだ」

店主「いや、いや、いや。お客さん、申し訳ねぇですが、この店は開店以来、あらゆるお客様を平等に歓迎するという方針でやってきてまして。いきなりそれは…さすがにちょっと受け入れられませんぜ?」

男「ほう? このザモッチ・バンリー様の命令が聞けないというのか。バンリー男爵家を敵に回す事になるがいいんだな?」

店主(……貴族かよ…クソが…)

男「なんだその顔は? 平民が貴族に逆らったらどうなるか分かっているのか? 不敬罪で処刑してやってもいいんだぞ?」

店主「…………ふぅっ」

店主は額に青筋を立てていたが、一度深呼吸してから、低い声で言った。

店主「…いくらお貴族様でも。いくらなんでも横暴なんじゃありやせんか…?」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

処理中です...