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第三部 暗殺者編

第177話 フルブースト・バーサーカー

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慌ててペイレラに駆け寄り治癒魔法の魔法陣を投写するクレイ。例によって即効性の猛毒であったようだが、なんとか間に合った。即座に解析と解毒剤をエリーに依頼する。

だがまだ敵は全て倒した訳では無い。最初に現れた者達は殲滅完了したはずだが、まだ隠れている者達が複数居るようだ。

断続的にルルとリリの銃声が響いている。

ワルドマ 「リリ! 残党を発見次第撃て! ルル! あそこだ! 魔石を破壊しろ!」

魔力を封じる魔法陣であるが、恐らく、道全体を魔導具とするような巨大な魔法陣を地面に埋め込んだと思われる。だが、魔法陣が巨大であれば、それを発動させるには、大きさに見合った大きな魔力が必要となるのだ。王族や公爵級/侯爵級の人間でもなければ、一人の魔力でそれを賄うのは難しいはずである。なので、複数人の術者が魔力を供給し、かつ、さらに魔石を用いて魔力を補助しているはずである。その魔石と術者をワルドマは探していたようだ。

ルル 「了解にゃ!」

指示された場所を撃ち抜くルル。

ワルドマ 「探せ、他にもあるはずだ! 術者もいるはずだ、見つけ次第撃て!」

ルルは素早く周囲を確認すると、怪しい木を発見した。木の影で何かが動いた気がしたのだ。ルルは確認などせず、すぐさま魔導銃の弾丸を木に撃ち込む。弾丸は木の幹に当たり、粉々に砕いてしまった。そして、カエルの鳴き声のようなうめき声が聞こえた。弾丸は木の影に居た人物の身体も撃ち抜いていたのだ。

撃たれた木は幹の中程が砕かれ上部が倒れ、隣の木に寄り掛かる。そして、隣の木の影に居た人間がそれに動揺し思わず避けようとして、ワルドマに一瞬その姿を見せてしまった。

ワルドマ 「そっちにもいるぞ!」

ルルがその木の幹を打ち砕く。木は倒れ、その影から血がゆっくりと地を濡らしていった。

さらにルルがもう二人の術者を倒し、埋められていた魔石を3つほど発見し破壊したところで、完全に魔法陣の効力が消えた。

即座にボンドが魔法障壁を展開。同時にワルドマが風魔法で周囲の空気を巻き上げ吹き飛ばす。

いつのまにか、霧状の毒が空気中に撒かれていたのだ。ペレイラが毒に倒れた時点で毒ガスをワルドマは警戒していた。猛毒の霧であったので、ギリギリのタイミングであった。

ペレイラはクレイの治療で死なずに済んだが、何故か回復しない。というか、回復するのだが、また弱っていく。毒の影響だろうが、エリーに送ってもらった毒消しを使っても、一時的には良くなったのだが、徐々にまた悪化していくのだ。

ふと、昔(地球時代)に見た映画を思い出したクレイ。西部劇で、インディアンが開拓者の白人を矢で射るのだが、その鏃が着脱式になっていた、というシーンがあったのだ。刺さった矢をそのまま引き抜くと、鏃が体内に残ってしまうのだ。そこで射られた白人は、矢を抜くのではなく、押し込んで身体の反対側まで貫通させる事で鏃を除去したのである。

まさかと思い、さっき引き抜いた矢を見てみると、案の定、矢の先端にあるはずの鏃がない。恐らく鏃に毒が仕込まれており、そこからジワジワ毒が流れ出る仕様なのだろう。

絶対に相手を殺すという恐ろしい執念を感じる。

クレイはペレイラの体の中をスキャンして鏃の位置を確認し、それを体外に【転移】させる。それから再び治癒魔法を掛けると、ペレイラの容態はようやく安定したのであった。

ほっとして顔を上げると、敵の殲滅は終わっていた。ブチ切れたブランド身体強化フルブースト状態で周囲を駆け回り、残党を殲滅して回ったためである。

中にはブランドが勝てないほど手強い敵がいるかも知れないのだから自重して欲しいと思うクレイとワルドマであったが、ブランドとしては後継ぎとしてワルドマが立派に育っているし、クレイも居るので気兼ねなく気持ちよく暴れられるのであった。

ワルドマ 「父上、全員殺してしまったのですか?」

ブランド 「ああ。ペレイラがやられてちょっと頭に血が登ってしまってな、スマン」

バーサーカーと化したブランドが襲ってきた賊を片端から殲滅してしまったため、敵は全員死亡してしまい、襲ってきた者達の目的や背景を喋らせる事ができなくなってしまった。

ブランド 「まぁ、これだけ居るんだ。死体を全部持ち帰って調べさせれば、何かしら情報が出てくるんじゃないか?」

だが、ワルドマとブランドの持っていたマジックバッグに死体を全て収納し、帰ってから調べさせたのだが、身元が分かるようなモノは一切出てこなかったのであった。何人か、王都の破落戸ならずものが含まれていた事は分かったのだが、単に金で雇われていただけであろう。その者達が何故襲ってきたのか、関連性は掴めなかった。

ワルドマは魔封じの魔法陣を発動させていた術者のほうから調べてみたが、そちらも収穫はなしであった。

そもそも、魔封じの腕輪などは古代遺物アーティファクトである。簡易的なモノは作れる魔導具師が居るにはいるが、それでもレアな人材である。そのような人材を借り出して来ればすぐにバレるはずなのだが、出自は不明な者ばかりだったのだ。

急な襲撃であったが、ブレラは準備自体は以前から進めていたのである。準備は万端、襲撃は失敗したものの、痕跡を残すようなヘマはしなかったのであった。

ちなみに、ブレラはどうなったのか…?

怒りのブランドがバーサーカーモードで暴れ回っていた時に、その火魔法を受けて黒焦げになってしまった死体がたくさんあった。その中にブレラの死体があったのか、なかったのか……

わざわざそれを確認しようとする者もいない。

クレイはヴァレットの街に戻ってから “ザ・ワールドレコード”  の情報を確認してみたが、何も得るものはなかった。

襲われた直後なので、今回の襲撃者達の情報はまだ反映されていないのは分かっていたが、過去にクレイを襲った者達の情報も、未だアップデートされていなかったのだ。

クレイ (まぁ、気長に待つさ)

そう、情報が更新されるのは時間の問題であるのだから……


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