上 下
154 / 184
第三部 暗殺者編

第154話 クレイ、繰り返し矢を浴びる

しおりを挟む
アンリは矢を放った瞬間には、仕留めたと確信していた。弓の達人は『矢が当たってから矢を放つ』と言うそうだ。当たるか外れるかは、矢を放った瞬間にはもう決まっているのだ。的を外す奴は、最初から外れる軌道で矢を放っているに過ぎない。確実に当たる(確信ができる)まで矢を放すべきではない、という事なのだろう。(それが分かる・・・ようになるのは一部の達人だけであろうが。)

はたして、アンリが満を持して放った矢は、確実にターゲットに命中した。

だが、様子を見ていたアンリは目を丸くする事になる。頭を射抜かれたはずのターゲットに倒れる様子が見えない。

そして、ターゲットの足元から火が上がり、すぐに消えた。矢は命中するとすぐに発火し灰になる仕掛けがされている。その火が見えたのである。いつもは頭部や胸部などに見える炎が足元に見えたという事は、つまり矢はターゲットに刺さらず、地に落ちたという事になる。

アンリ 「防がれた?! 強力な防具でも身につけていたか?」

アンリの矢は、闇烏が用意した特製の鏃を使っている。よほどの重装甲でなければ金属製の鎧でも貫通できる威力があるのだ。だが、遠目ではあるが、ターゲットは矢を防げるような防具を身につけている様には見えなかった。

ただ、ターゲットは何が起きたのか分かっていないのか、キョロキョロ周囲を見ていた。ターゲットが自分の方を向いた瞬間にはアンリは物陰に身を隠しており、そのまま姿を消した。



  * * * *



橋を渡っていたクレイの後頭部で突然音がした。

オートシールドが発動して何かを防いだ音のようだ。

何事かと思ってクレイは振り返ったが、足元に燃える木の棒が落ちていた。これはおそらく矢であろう。

攻撃を受けたのだと理解したクレイはライフルをマジックバッグから取り出し周囲を見た。だが、どこから攻撃されたのか分からない。

もう一度攻撃があるならオートシールドが発動するはず。それを見れば、どちらの方向から攻撃してきたのか分かるはずである。

そして、相手を確認しさえすれば、逃さない自信があった。クレイには転移があるからである。クレイは転移魔法陣を光の魔法によって投写する事で対象物を転移させる事ができる。その投写の射程はほぼ無限である。

それを使えば、逃げようとする相手を自分の近くに転移させてしまう事も可能なのだ。そのまま手足を魔導銃で撃ち、抵抗できないようにして捕らえてしまえばよい。クレイは第二撃を待った。

だが、しばらく待っても追撃はなかった。敵はどうやら一撃目の失敗で逃亡したようである。

クレイ 「襲われる原因に、思い当たる節は……

……あるな」

脳裏に浮かぶは某侯爵の顔……

とは言え確証は何もないのだが。

襲ってきた相手も姿は見えず。足元に落ちた矢は既に灰となり風に舞って消えてしまっていた。

屋敷に乗り込んでダイナドーを直接問い詰めたとしても惚けられて終わりであろう。

逮捕し裁判に掛ければ、隷属の首輪を着けさせて本当の事を自白させる事も可能だろうが、よほど確かな証拠がなければ、高位貴族を逮捕して裁判に掛ける事などできないだろう。裁判となっても、高位貴族の関係者は隷属の首輪による証言を強制できないとも聞く。ダイナドーも言っていたが、この国の法律は貴族のために作られているのだ。

いくら考えても仕方がないので、クレイは諦めて宿に帰る事にしたのであった。

しかし……

クレイはその後も、度々攻撃を受けた。

いつも死角から、油断しているタイミングを狙ってくる。そしてその攻撃は常にクレイの頭または心臓など、正確に致命傷を与える場所へと撃ち込まれていた。おそろしい腕である、プロの暗殺者であろう。オートシールドがなければクレイはとっくに殺されていただろう。

だが、何度攻撃を受けても、オートシールドが攻撃を防ぎ、矢は灰になって消えてしまい、犯人の姿も見えない、という事の繰り返しであった。

(アンリも、ファーストアタックが失敗した事で、証拠を残さないよう、さらに慎重に行動するようになっていたので、クレイも射手の影すらも見る事はできなかった。)

矢を射掛けられるタイミングが絶妙で、目撃者も居ない。証拠の矢も消えてしまう。これでは攻撃されたと言っても誰も信じないだろう。






何度も失敗して焦っていたアンリは、さらに強力な攻撃を行う事にした。矢による物理的な攻撃だけでなく、特殊な魔法効果を付与した矢を使う事にしたのだ。命中すると、矢が刺さると同時に火属性や風属性の攻撃魔法が発動し目標にダメージを与えるのである。

アンリは、クレイの防御は物理的な矢は防げても、同時に発生する魔法攻撃までは防げないと読んだのだ。この矢は非常に高価で、あまり使いたくないモノであったのだが仕方がない。これ以上失敗を繰り返す訳にはいかない。

だが結局、アンリの狙いは外れた。クレイのオートシールドは、物理攻撃だけでなく魔法攻撃をも防ぐ能力があるのだ。





度重なるアンリの攻撃は全てオートシールドによって防がれては居たが、だからと言って放置しておく事もできないので、クレイは対策を講じる事にした。オートシールドを改造する事にした。

リルディオンに行ってエリーに協力してもらいながら、オートシールドの魔法陣の内容をアップデート。シールドに魔法反射リフレクションの効果を付与したのである。

そして……そんな事とは知らないアンリが、懲りずに再び攻撃して来た…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...