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第三部 暗殺者編

第153話 後頭部に矢!

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ベアリング構造の軸受を作ることにしたクレイとブラー。

できるだけ硬い木材を使い、木製のニードルベアリングを作り、軸と軸受の間に入れるのだ。木製だし大きさはかなり大きくなるが、純粋に木工だけで作れる。

さらに、軸受に油分を含んだリングを使った。

地球のベアリングは、内部のコロ同士が接触しないよう「保持器」というのがついているモノが多いのだが、保持器なしでも十分であった。木製なので消耗は激しいだろうから、摩耗したら交換する方向で代わりの部品を準備しておけばいいだろう。

結果として、非常に滑らかに動く荷車が完成した。

ブラー 「こりゃあいいな!」

滑り軸受タイプよりはるかに軽く動く。もちろん、非常に高価な魔法が使われた滑り軸受には敵わないが、そんなモノは王族か高位貴族が乗るような馬車にしか使われていない。安価な魔法で作られた粗悪品に比べれば遥かにこちらのほうが良い出来である。何より、魔法を使っていないので非常に安価に作れるのが良い。(摩擦を低減させる魔法が使える魔法使いは非常にレアなので、部品代にそれが反映されてしまうのだ。)

木工職人であれば、誰でも作れる者が多いだろうから、普及していけば木工職人の仕事増にも繋がるだろう。

ブラー 「おい、これは、商業ギルドに登録したほうがいいぞ」

クレイ 「じゃぁ親方と連名で登録してくれ」

ブラー 「お前のアイデアだ、お前の名前で登録するのが筋だろう」

クレイ 「作ったのは親方だ。車輪の加工は多分に親方の技術力があっての事だ」

ブラー 「…そうか? じゃぁ、二人の名前で登録するか!」

クレイ 「ああ、良いよ、それで」

と言う事で、ブラーは荷車を転がし、クレイを連れて商業ギルドに行き、製法の登録を行ったのであった。

この世界にも知的財産権のような制度があるのだ。商業ギルドに登録し、製法を公開すれば、誰でもそのアイデアを買う事ができるようになる。そして一定期間、利用ライセンス料の一部が、登録した者に入るようになるのである。

これが、この世界にベアリグの概念が誕生した瞬間であった。この技術はどんどん普及し、安価な荷車や馬車の軸受にはほとんど採用されるようになった。(高級な馬車には高度な魔法が使われることが多いのであまり採用されなかったが、一部応用されていく。)

さらに、このベアリング構造を木製ではなく金属で作る事で、この世界の工業技術は飛躍的に進歩していく事になるのだが、それはまだ大分先の事である。

そして、歴史書の片隅には、ベアリングの発明者としてクレイとブラーの名前が記されるようになるのだが、それをクレイが知る事はない。

更に言うならば、この文明は3~4千年後に滅びてしまう運命にある。その際、技術も歴史書も消滅、一切後世には残らず消えてしまう。(文明とは、興ってはやがて消えていくもの。もしかしたら文明にも寿命というものがあるのかも知れない…。)







さて、ベアリング式の車軸を作ったが、別に馬車を作りたかったわけではない。滑らかに回る軸受ができたところで、クレイは本来の目的に戻る事にした。

ホイールを宙に浮かせて固定、その軸に “部材” を取り付け、回転させる。いわゆる旋盤が完成したのであった。

弟子に車輪を回させて、回転する木材に刃物を少しずつ当てて削っていけば、簡単に角ばった木材が円柱になっていく。さらに凹凸をつけるように削っていけば、ターニングレッグのできあがりである。

だが、その作業は長くは続けられなかった。回転がすぐに止まってしまうからである。

親方ブラー 「こりゃ、しっかり回さんか!」

弟子トム「親方~もう…無理ッス~」

トムは車輪を回し続け、腕がもう限界だと言うのだ。

クレイ 「それはそうだろうな。車輪を外してフライホイールにしたらもう少し楽になるんじゃないか? あと、ギアを着けてもっと高速に回転するようにして…」

ブラー 「待て。なんだって? フライ?」

クレイ 「フライホイール。要するに、車輪をもっと重量のあるものに変えればいいって事さ」

ブラー 「重くなったら回しにくいじゃないか。むしろ軽いほうがいいんじゃないのか?」

クレイ 「重いものが動いているのを止めるのは大変だろう? 回し始めは大変だが、回り初めてしまえば、回転が止まりにくくなるんだよ」

ブラー 「なるほど! それからぎあ? というのは?」

クレイ 「こう、歯車を組み合わせてだな…」

クレイは棒で裏庭の地面に歯車の絵を書き、大きさの違う歯車を組み合わせる事で回転を速くするする事ができる事を説明した。

ブラー 「なるほど! これはいいな! この歯車というのを早速作っておく」

ブラーは木材を使用して歯車を作ると言い出した。なるほど、家具職人なので木工はお手のものである。とは言え、さすがにすぐという訳にはいかない。

もう夕刻になっていたので、また明日という事で、クレイは一端工房を後にしたのであった。



  * * * *



そして、宿へと戻る帰り道…

歩いているクレイの後頭部を鋭い矢が襲った。

完全に油断していたクレイ。

それはそうである。町の中で矢を射掛けられるなどあまり想像しない。

場所は橋の上。

王都の中には何箇所か堀があり、橋が掛かっている。

王都も他の街と同様、王城を中心に、貴族街、商業区、平民区、貧民区と、多重円状に居住区が分かれている。城郭都市はこれらの区画が壁で隔てられている事が多いが、この街は近くに湖があり水が豊富である事から、城壁ではなく堀で区画されているのだ。

橋の上には数人の歩行者が居たが、他に障害物はない。狙撃するには格好の場所なのだ。

射手アンリはかなり遠方の川岸に居た。木の影に身を隠すようにしながらに矢を放ったアンリ。

放たれた矢は高速で飛翔し、弓なりの軌道であるにも関わらず、クレイの後頭部に向かって正確に飛ぶ。

そして、矢が後頭部に到達…

…だが、そこでアンリにとっては予想外の事が起きる。

クレイの防御装備である自動盾オートシールドが発動し、カードサイズの小さな半透明の盾が出現、矢を完全にブロックしたのだ。


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