上 下
153 / 184
第三部 暗殺者編

第153話 後頭部に矢!

しおりを挟む
ベアリング構造の軸受を作ることにしたクレイとブラー。

できるだけ硬い木材を使い、木製のニードルベアリングを作り、軸と軸受の間に入れるのだ。木製だし大きさはかなり大きくなるが、純粋に木工だけで作れる。

さらに、軸受に油分を含んだリングを使った。

地球のベアリングは、内部のコロ同士が接触しないよう「保持器」というのがついているモノが多いのだが、保持器なしでも十分であった。木製なので消耗は激しいだろうから、摩耗したら交換する方向で代わりの部品を準備しておけばいいだろう。

結果として、非常に滑らかに動く荷車が完成した。

ブラー 「こりゃあいいな!」

滑り軸受タイプよりはるかに軽く動く。もちろん、非常に高価な魔法が使われた滑り軸受には敵わないが、そんなモノは王族か高位貴族が乗るような馬車にしか使われていない。安価な魔法で作られた粗悪品に比べれば遥かにこちらのほうが良い出来である。何より、魔法を使っていないので非常に安価に作れるのが良い。(摩擦を低減させる魔法が使える魔法使いは非常にレアなので、部品代にそれが反映されてしまうのだ。)

木工職人であれば、誰でも作れる者が多いだろうから、普及していけば木工職人の仕事増にも繋がるだろう。

ブラー 「おい、これは、商業ギルドに登録したほうがいいぞ」

クレイ 「じゃぁ親方と連名で登録してくれ」

ブラー 「お前のアイデアだ、お前の名前で登録するのが筋だろう」

クレイ 「作ったのは親方だ。車輪の加工は多分に親方の技術力があっての事だ」

ブラー 「…そうか? じゃぁ、二人の名前で登録するか!」

クレイ 「ああ、良いよ、それで」

と言う事で、ブラーは荷車を転がし、クレイを連れて商業ギルドに行き、製法の登録を行ったのであった。

この世界にも知的財産権のような制度があるのだ。商業ギルドに登録し、製法を公開すれば、誰でもそのアイデアを買う事ができるようになる。そして一定期間、利用ライセンス料の一部が、登録した者に入るようになるのである。

これが、この世界にベアリグの概念が誕生した瞬間であった。この技術はどんどん普及し、安価な荷車や馬車の軸受にはほとんど採用されるようになった。(高級な馬車には高度な魔法が使われることが多いのであまり採用されなかったが、一部応用されていく。)

さらに、このベアリング構造を木製ではなく金属で作る事で、この世界の工業技術は飛躍的に進歩していく事になるのだが、それはまだ大分先の事である。

そして、歴史書の片隅には、ベアリングの発明者としてクレイとブラーの名前が記されるようになるのだが、それをクレイが知る事はない。

更に言うならば、この文明は3~4千年後に滅びてしまう運命にある。その際、技術も歴史書も消滅、一切後世には残らず消えてしまう。(文明とは、興ってはやがて消えていくもの。もしかしたら文明にも寿命というものがあるのかも知れない…。)







さて、ベアリング式の車軸を作ったが、別に馬車を作りたかったわけではない。滑らかに回る軸受ができたところで、クレイは本来の目的に戻る事にした。

ホイールを宙に浮かせて固定、その軸に “部材” を取り付け、回転させる。いわゆる旋盤が完成したのであった。

弟子に車輪を回させて、回転する木材に刃物を少しずつ当てて削っていけば、簡単に角ばった木材が円柱になっていく。さらに凹凸をつけるように削っていけば、ターニングレッグのできあがりである。

だが、その作業は長くは続けられなかった。回転がすぐに止まってしまうからである。

親方ブラー 「こりゃ、しっかり回さんか!」

弟子トム「親方~もう…無理ッス~」

トムは車輪を回し続け、腕がもう限界だと言うのだ。

クレイ 「それはそうだろうな。車輪を外してフライホイールにしたらもう少し楽になるんじゃないか? あと、ギアを着けてもっと高速に回転するようにして…」

ブラー 「待て。なんだって? フライ?」

クレイ 「フライホイール。要するに、車輪をもっと重量のあるものに変えればいいって事さ」

ブラー 「重くなったら回しにくいじゃないか。むしろ軽いほうがいいんじゃないのか?」

クレイ 「重いものが動いているのを止めるのは大変だろう? 回し始めは大変だが、回り初めてしまえば、回転が止まりにくくなるんだよ」

ブラー 「なるほど! それからぎあ? というのは?」

クレイ 「こう、歯車を組み合わせてだな…」

クレイは棒で裏庭の地面に歯車の絵を書き、大きさの違う歯車を組み合わせる事で回転を速くするする事ができる事を説明した。

ブラー 「なるほど! これはいいな! この歯車というのを早速作っておく」

ブラーは木材を使用して歯車を作ると言い出した。なるほど、家具職人なので木工はお手のものである。とは言え、さすがにすぐという訳にはいかない。

もう夕刻になっていたので、また明日という事で、クレイは一端工房を後にしたのであった。



  * * * *



そして、宿へと戻る帰り道…

歩いているクレイの後頭部を鋭い矢が襲った。

完全に油断していたクレイ。

それはそうである。町の中で矢を射掛けられるなどあまり想像しない。

場所は橋の上。

王都の中には何箇所か堀があり、橋が掛かっている。

王都も他の街と同様、王城を中心に、貴族街、商業区、平民区、貧民区と、多重円状に居住区が分かれている。城郭都市はこれらの区画が壁で隔てられている事が多いが、この街は近くに湖があり水が豊富である事から、城壁ではなく堀で区画されているのだ。

橋の上には数人の歩行者が居たが、他に障害物はない。狙撃するには格好の場所なのだ。

射手アンリはかなり遠方の川岸に居た。木の影に身を隠すようにしながらに矢を放ったアンリ。

放たれた矢は高速で飛翔し、弓なりの軌道であるにも関わらず、クレイの後頭部に向かって正確に飛ぶ。

そして、矢が後頭部に到達…

…だが、そこでアンリにとっては予想外の事が起きる。

クレイの防御装備である自動盾オートシールドが発動し、カードサイズの小さな半透明の盾が出現、矢を完全にブロックしたのだ。


しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

隠しスキルを手に入れた俺のうぬ惚れ人生

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
【更新をやめております。外部URLの作品3章から読み直していただければ一応完結までお読みいただけます】 https://ncode.syosetu.com/n1436fa/ アウロス暦1280年、この世界は大きな二つの勢力に分かれこの後20年に渡る長き戦の時代へと移っていった リチャード=アウロス国王率いる王国騎士団、周辺の多種族を率いて大帝国を名乗っていた帝国軍 長き戦は、皇帝ジークフリードが崩御されたことにより決着がつき 後に帝国に組していた複数の種族がその種を絶やすことになっていった アウロス暦1400年、長き戦から100年の月日が流れ 世界はサルヴァン=アウロス国王に統治され、魔物達の闊歩するこの世界は複数のダンジョンと冒険者ギルドによって均衡が保たれていた

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」  パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。  彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。  彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。  あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。  元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。  孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。 「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」  アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。  しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。  誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。  そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。  モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。  拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。  ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。  どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。  彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。 ※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。 ※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。 ※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

一日一善!無職の俺が、おばあちゃん助けて異世界無双!

GARUD
ファンタジー
俺の名前は [久世 雷斗(くぜ らいと)] 歳は18才、高校をギリギリ卒業したため、就職活動を在学中にできず、今は無職──俗に言うニートってやつだ。 今日も俺は就職活動で面接へと向かう。 途中、杖を付いた足の悪いおばあちゃんを見かけ、一緒に横断歩道を渡る。 そして面接に遅れ不採用。 俺は小さい頃から親に 「困った人を見たら自分から手伝ってあげるのよ、そうして毎日善い事を続けていれば、いずれ自分にも善い事が返ってくるものなのよ。」 と言われて育って来た。 翌日、街をぶらついていると、目の前には昨日横断歩道を渡れずに立ち竦んでいたおばあちゃんが居た。 「坊や…おばあちゃんの所に来んかえ?」 おばあちゃんは杖を地面に強く突き、突如おばあちゃんと俺を中心に光円が広がり俺達を包み込む。 俺は余りにも光量に眼を閉じた。 次に眼を開けたら目の前には女神さまが! 一日一善をやってきた俺はついに女神さまからご褒美を授かる! そのご褒美とは──なんと異世界へと行き好きなことを好きなだけしていい!という夢のような話! さらに女神さまから授かったご褒美は死なない体に最高の身体能力!魔法の数々や祝福装備に毎月送金される軍資金!さらにさらにそれらを収納できる四次元収納魔法!女神さまとのホットラインのおまけ付き! 最強チートがここに極まった! 全てを持っているこの俺が、異世界の悪人どもを相手に時代劇も真っ青の勧善懲悪! 無双ハーレムやったるで! 『一日一善!無職の俺が、おばあちゃん助けて異世界無双!』のヒロインであるアンナ視点の物語 『私の旦那様は地上最強でした!』 こちらもラブコメ成分大盛で連載しています!

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

処理中です...