上 下
136 / 184
第三部 暗殺者編

第136話 認めざるを得んかな

しおりを挟む
ダイナドー 「宰相殿、背後関係を洗ったほうがよろしいのではないですかな? まさかその冒険者が自力で大量の奴隷を用意したというわけでもありますまい? 

それとも、そこにいるヴァレット子爵が支援したとでも?」

王 「ヴァレット家は奴隷制度に反対の立場だ。そのような使い方はしないであろう?」

ブランド 「御意にございます。ダイナドー侯爵の疑問に対する答えも含めて、報告を続けさせて頂いても…?

え~まず、奴隷の犠牲者はゼロ人、全員無事だそうです。使い捨てにするような使い方は最初から想定しておらず、最初からその人数であったようです。

そもそも、奴隷ではありますが、その冒険者は奴隷扱いはしておらず、仲間だと言っておりました。事実、その奴隷達は奴隷扱いを受けておらず、街で一般人と同様に過ごしている様子であったと報告を受けております。

それから、当然の事ながら、我がヴァレット家がその者に奴隷を提供した事実は御座いません。調べて頂いても結構ですが、そもそもヴァレットの領地には奴隷はほとんどおりませんので」

ダイナドー  「ふん、ヴァレット子爵ではないとしても、背後を探ったほうがよろしかろう。その冒険者の背後で糸を引いているのは誰か? 目的はなんでしょうな? ダンジョンを手に入れ、資源を蓄え国に弓引く輩かも知れませぬぞ?」

ブランド 「背後も目的もないでしょう。冒険者はダンジョンを攻略するのが仕事。ただそこにダンジョンがあるから挑んだ、そして踏破を成し遂げた、それだけではないかと思いますが?」

ダイナドー 「百歩譲ってそうであったとしても、そのような兵力は国を揺るがしかねん。まずはその冒険者を捕らえて尋問すべきでしょう」

ブランド 「犯罪者でもない者を捕らえて尋問せよと?」

ダイナドー 「ダンジョンの管理権限も召し上げるべきです。ダンジョンをどこのオークの骨とも分からない冒険者に任せるわけにはいかんでしょう。

ダイナドー 「なんならそのダンジョン、私が管理致しましょう。元々、ヴァレット子爵にダンジョンの管理は手に余っていたようですからな?」

ブランド 「ふ…、侯爵様の手を煩わせる事もありませんよ、ダンジョンの防衛はヴァレットだけで十分間に合っております」

ダイナドー 「スタンピードで大分大きな被害を受けたようだが? ヴァレット子爵も怪我をしたとか?」

ブランド 「…今ではこの通り、元気にやっております」

ダイナドー 「いやいやそもそも~」

宰相 「うぉほん!!」

一堂 「……」

宰相 「ダンジョンの所有権に関しては、ダンジョンのある土地を持つ者にある事になっておる。そしてダンジョンのある一体の土地は、ヴァレット家の所有だ。王家が貸し与えているわけではない」

ダイナドー 「それがそもそもおかしいのです、なぜ子爵ごときが王都の近く、それもダンジョンを持つ土地の所有を認められておるのですか?」

宰相 「王家とヴァレット家の古の盟約により決められた事。それとも侯爵は、王家の伝統と威信に異を唱えられるおつもりですかな?」

ダイナドー 「そういうわけでは」

宰相 「それに、冒険者ギルドは国とは関わりのない独立した組織である。冒険者に対し、国から協力を要請する事はできても、何かを強制する事はできん」

ダイナドー 「建前はそうなっておりますがな。各地域に根ざして活動している以上、冒険者ギルドもその地の王族貴族の意向を無視する事もできんはずです。王が命じればよほどの事がない限りは逆らう事など…」

王 「私はダンジョンを攻略してくれた功労者を捕らえろなどと言う気はないぞ? むしろ、褒美を与えたいと考えておる。その者は平民か? そうか、ならば、爵位を与えて取り立てても良いかもしれんな。本人が望むならだが」

ダイナドー 「得体の知れない者に爵位を与えるなど…」

王 「侯爵もいい加減黙れ。話が進まん」

王が再び威圧を放つ。王の威厳はスキルとして発揮される。ダイナドー侯爵はその圧に言葉が発せられなくなる。普段鷹揚な王が珍しく怒っているのを、さすがのダイナドー侯爵も理解せざるを得ない。

ダイナドー 「はっ………もう、しわけ、ありませn……」

宰相 「無論、その者の出自や人柄も調査するのは当然の事である」

王 「ブランド、その者を連れて来てくれるか? 褒賞を授与すると言ってな」

ブランド 「はぁ、それが……」

王 「なんだ?」

ブランド 「その、その冒険者は現在行方が分からなくなっておりまして」

王 「んん?」

ブランド 「大仕事の後ということで、休暇に入ってしまったようでして。

冒険者ギルドも行方は把握していないとか。

…行方が分かり次第連絡をくれるようにギルドには指示してありますので、今しばらくお待ち頂ければと思います」

王 「うむ。会えるのを楽しみにしておるぞ」



  * * * *



謁見の間を出たブランドに近づいてくる人物が居た。

ジャクリン 「兄上」

ブランド 「ジャクリンか」

ジャクリン 「…クレイ、やったんだな?」

ブランド 「なんだ、知っているのか」

ジャクリン 「奴隷を一人都合してやった。元は優秀な戦力ではあるが、手足のない欠損奴隷だったはずなんだがな。そう言えば、兄貴と会うのも随分久しぶりだな、手足を失う大怪我をして寝たきりになったと聞いていたのだが?」

そう言いながらブランドの体を下から上へと眺めるジャクリン。

ジャクリン 「なるほど、ねぇ。クレイは欠損の治療ができる伝手でも手に入れたのか」

ブランド 「そういうお前は見舞いにも来なかったな」

ジャクリン 「来るなって言ったのは兄貴のほうだろうが……。それより、一体何があったんだクレイの奴は、行方不明の十年の間に?」

ブランド 「…あの子なりに、必死にこの世界で生きようと努力した結果なのだろう。

――魔力の才能だけで安易に子を捨てる貴族の風潮は間違ってると分かったろう?」

ジャクリン 「まぁ、な…。認めざるを得んかな」

本当は、昔クレイを殺しに行った時、魔導具を駆使して生き延びてみせた、その時から、ジャクリンはクレイのことを認めていたのであるが…。

しかも、行方不明になって再び戻ってきたクレイは、さらに強く逞しくなっていたクレイの事を、ジャクリンは眩しく思っていたのだが、素直に言えないのであった。


  * * * *



謁見の間を出たダイナドー侯爵。すぐに侯爵の側近が近寄ってきて並んであるき始める。

ダイナドー 「トニノフ、ダンジョンペイトティクバを攻略した冒険者について詳しく調べろ」

トニノフ 「御意」

トニノフはダイナドーから離れ姿を消した。


しおりを挟む
感想 98

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜

Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・ 神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する? 月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc... 新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・ とにかくやりたい放題の転生者。 何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」       「俺は静かに暮らしたいのに・・・」       「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」       「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」 そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。 そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。 もういい加減にしてくれ!!! 小説家になろうでも掲載しております

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

処理中です...