上 下
97 / 184
第二部 ダンジョン攻略編

第97話 「奴らは盗人だと思う」(ただし根拠の薄い推論です)

しおりを挟む
クレイ 「さて、次は狩ってきた素材を売るぞ」

ルル・リリ 「らにゃ!」

クレイ 「やり方は分かるよな?」

ルル 「もちろんにゃ」

クレイ 「やってみろ」

買取カウンターに移動したルルとリリ。クレイは一歩下がって見ている。

リリ 「買い取りお願いするにゃ」

職員 「手ぶらのようだが?」

ルル 「マジックバッグがあるにゃ」

リリ 「たくさんあるから裏の倉庫に出すにゃ」

職員 「ああ、そうしてくれ」

そんなやり取りをするクレイ達を、ギルドの奥の応接室から出てきた者達が見ていた。

先日ダンジョンで見かけた三人組、キム、ボーサ、ズウである。さらにその後から出てきたのはサブギルドマスターのゴーン。

キムはクレイ達の姿を見つけると、小声でゴーンに言った。

キム 「アイツらだ…」



  * * * *



時は少し遡り、クレイ達が冒険者ギルドに来る少し前。

キムとボーサ、ズウの三人組パーティ “鉄の爪” が冒険者ギルドに現れ、ギルドマスターに面会を要求した。

受付嬢はギルドマスターは不在であると断ったが、緊急の用件だと三人が強く言うので、サブマスターのゴーンに対応してもらう事にした。

大変重要な話だからと三人はギルドの奥にある遮音された会議室で話すと言った。また、邪魔が入らないようにしてくれと頼んだのだ。

ゴーン 「それで、なんだ、緊急の用件とは?」

ボーサ 「いや、それがですね…。なぁ、やめといたほうがいいんじゃないか…?」

ゴーン 「何だ一体???」

キム 「…俺が話す! 実は、ダンジョンの中で妙な連中を見かけたんだ…」






ダンジョンの中でクレイの武器を奪おうとして窘められたキム。

あの時は「善意からだった」と言い、謝って事なきを得たわけだが、その本心は、嘘半分・本当半分といったところであった。

もちろん、百パーセントの悪意だったわけではない。注意してやろうという気持ちが(親切心というより誂ってやろうという気持ちが強かったにせよ)あったのは事実である。

だが、クレイ達を殺して武器を奪う事も、状況次第ではありかなと思っていたのも事実であった。もちろんそれは、よほど上手くいった場合の話。可能性は高くはないとは思っていたが。

キムという男は、絶対見つからない状況なら平気で悪時を働くしそれに罪悪感もない、倫理観などない男だったのだ。

そしてクズにありがちなプライドの高さから、キムは後になってだんだん腹が立って来たのだ。土下座までさせられた、その事が許せなくなってきたのである。(もちろん、キム達が勝手にやった事で、クレイが土下座を要求したわけではないのだが。)

ダンジョンを出て街へ帰る道すがら、キムはクレイにいつかなんとか仕返ししてやれないかと妄想を巡らせていた。そして嫌がらせを思いつき、渋るボーサとズウを説得し、ギルドマスターに話しに来たのだ。

と言ってもやることは、怪しい者を見たと報告するだけであるが。

ギルドが調べて結果何も問題なしならそれでも良し。単に報告を上げただけの自分たちは、褒められこそすれ、それで咎められる事はない。

だが、ギルドに目をつけられ調べられたら、クレイ達にとっては不愉快だろう。ちょっとした嫌がらせにはなる。もしかしたら、クレイ達がギルドと揉め事になり、ギルドに睨まれるようになるかも知れない。





キム 「俺たちはダンジョンに狩りに行ったんだ。だが、何故かダンジョンの中に魔物がまったく見当たらないんだよ。

おかしいと思いながらも、手ぶらでは帰れねぇから、奥へ奥へと進んでいったんだ。そこでアイツらを見たんだよ」

ゴーン 「アイツら?」

キム 「ああ、階層の魔物を根こそぎ狩っ攫っていっちまう奴らが居たのさ。お陰で他の冒険者は獲物がなくなって困っていたよ。これは重大なマナー違反ってもんだろう? そんな冒険者を放置しておいてギルドとしてはどうなんだ?」

ゴーン 「なるほど、それは迷惑だな。だが……ダンジョンの魔物を全部狩ってはならないというルールもない。迷惑だが、明確な犯罪やルール違反というわけでもないな。というか、人払いまでしてしたかった重要な話というのがソレなのか?」

キム 「いや、話はここからだよ。そいつらはたった三人で階層内の魔物を根こそぎ狩っていたんだ。そいつらに話を聞いたんだが、一人はCランク、残りはEランクだと言っていた。だが、おかしいと思わないか? そんな低ランクの奴らが三人で、オークの上位種が出る六階層の魔物もすべて狩り尽くしていたんだぜ?」

ゴーン 「そうだな、そんな事は、最低でもAランク以上でないと難しいだろうな。だが、ランクに不釣り合いな実力を持っている奴もたまには居るだろう」

キム 「いや、見ていたら、妙な武器を使っていたんだ。その武器が強力でな。あれよあれよと魔物が倒されて行った。その場では思い出せなかったんだが、後で思い出したんだよ。あれは…

…サブマス、以前起きたスタンピードの時、領主とその息子が妙な武器を使っていたのを覚えているか?」

ゴーン 「ああ、先端から魔法を打ち出す杖みたいな魔導具だった、マドウジュウとか言ってたような…」

キム 「そう、その、領主家の武器と同じモノだった。奴らはどこでそれを手にいれたんだ?

…これは俺の想像似すぎないんだんが、奴らはそれを領主の屋敷から盗んだんじゃないかと思う」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...