上 下
58 / 184
第一部 転生編

第58話 魔物は近づく前に殲滅すればいいじゃない

しおりを挟む
クレイはヴァレットの街から旅立った。

この世界では、交通機関はほとんど発達しておらず、馬車での移動が中心である。馬車の速度は歩くよりは早い(小走り程度)が、それは街中で路面の状態が良い場合であり、悪路では歩いたほうが速い事が多い。(そして、馬車の乗り心地は決して良いものではない。)

馬に乗って飛ばせば、瞬間的には馬車の数倍の速度は出せるが、それも長くは続かない。その速度で長旅を続けようとしても馬が参ってしまう。

当初、クレイは徒歩での気ままな一人旅もよいかと思っていたのだが……よく考えればここは魔物が闊歩する世界である。街は城壁で守られた城郭都市となっているのが普通であり、街の外の移動は冒険者を護衛に雇うのが普通である。

護衛は、貴族の場合は自分たちの子飼いの騎士達を使うが、商人は冒険者に依頼する。

しかし、魔物が出るとは言え、多く人が行き交う街道であればそれほど危険な魔物は出ない。(出れば冒険者に討伐依頼が出るか、騎士達に討伐命令が出て排除される。)弱い魔物なら出たとしてもクレイ一人でも問題はないのだが…

…クレイはたまたま商隊の護衛依頼を見つけたので、それを受ける事にしたのであった。

依頼者は国内の各町に支店を置いて手広く商いをしている大商店で、各街を定期的に行き来して物資の調達/販売を行っているそうだ。

そういう大きな商店の場合は専属の護衛を雇っているのだが、人手が足りない事が多く、よく冒険者を臨時で雇ったりするのであった。

ゴウ 「Fランク? 大丈夫か?」

ジロリとクレイを睨むこのゴウと言う男が、商隊の護衛冒険者のリーダーである。

クレイ 「遠距離攻撃が得意です。役に立てると思いますよ?」

ゴウ 「ふん、まぁいいだろう。だがいいか、勝手な事はするな。俺の指示には従えよ?」

トニー 「大丈夫だって、コイツの腕は俺が保証する」

ゴウ 「お前は?……ふむ、Bランクの斥候スカウトか。なるほど、役に立ちそうだな」

実はアレンのパーティ【黄金の風】は一時活動休止と言うことになったのだ。パティが子供ができたので冒険者を引退すると言い出したからである。

父親のノウズは子供のために稼ぐと張り切っていたのだが、子供のために危険な仕事はなるべくやめてくれとパティに窘められ、ヴァレットを拠点とする事にした。(ヴァレットの近くにあるペイトティクバダンジョンは安定しており、他のダンジョンに比べると比較的安全と言われているのだ。)

アレンは新人冒険者の指導・育成という新しいやりがいをみつけ、他のトレーナーのリーダーとしてかなり重要な立場となっていたため、街を離れられなくなっていた。

しかしトニーだけは、それほど後進の指導にも情熱が持てず、街にとどまる理由もなかったので、冒険者を続けるべく、迷宮都市リジオンに行くというクレイに付き合う事にしたのだ。

トニーは商隊キャラバンの先頭の馬車の屋根の上に登って周囲の索敵を引き受けたのだが、クレイ道連れにされてしまった。トニーが魔物を発見し、クレイが狙撃するという意図は理解していたが、陽に焼けてしまうので、クレイとしてはできたら馬車の中に居たかったのだが。

トニー 「魔物の気配がある……ほれ、五百メートル先に魔物発見だ。ゴブリン数匹。やっちゃっていいよな?」

護衛のリーダーに問いかけるトニー。

ゴウ 「本当か? うちの索敵担当は魔物の気配など感じないと言っているが?」

トニー 「信じないならいいよ。忘れてくれ」

ゴウ 「いや、信じないわけじゃないんだが…」

トニーは手を振って屋根の上に引っ込んでしまった。

それからしばらくして、索敵担当のサリーが言いにくそうにゴブリンが近づいてきている事をゴウに報告したのであった。

トニー 「言ったろ? で、やっちゃっていいか?」

ゴウ 「…この距離で攻撃できるのか? ウチの弓士・魔法士ではまだ届かん距離だが」

トニー 「大丈夫だよ、なぁクレイ?」

返事の代わりにクレイは遠距離狙撃用ライフルでゴブリンを吹き飛ばして見せた。

ゴウ 「おほう! これは、大したもんだな」

クレイ 「役に立つって言ったろう?」

その後はトニーとクレイのコンビは商隊でも重宝される事となった。五百メートルから時には1キロ先の魔物を発見し、ライフルで駆逐してしまうので、護衛達は出る幕もない。もちろんそれで文句があるはずもない。

本来は退治した魔物は埋めるなり燃やすなり処置しなければならないのだが、これだけ離れていればそれも必要ないという事だった。また、冒険者の狩りではないので、討伐の証明部位や魔物の素材を集める事もしないのであった。(よほど希少な魔物であった場合は別であるが。)

だが、比較的平らな場所は良いのが、やはり見通しが悪い場所に来るとそうは行かなくなってくる。

中でも峠超えでは商隊に緊張が走った。いつもここで襲われるのだそうだ。なるほど、両側が切り立った崖になった切り通しのような場所である。そして案の定、上から猿の魔物と鳥の魔物? に襲われたのであった。

これを、主に遠隔攻撃組が弓と魔法、そしてクレイの魔導銃による攻撃で撃退していく。接近を許してしまった場合は近接戦闘担当の護衛が戦う事になるが、今回はクレイの散弾が面白いように魔物を撃退していくので、ほとんど出番はなかったのであった。

結局、特に被害を出す事もなく商隊は次の街へと着くことができた。

雇い主である商会の番頭と護衛隊長のゴウにトニーとクレイは甚く感謝され、次の街へ向かうキャラバンの護衛も引き続き頼まれたのであった。(この商隊はこの街までで、同じ商店の別の商隊が次の街へと行くので、そちらに紹介してもらったのであった。そちらの護衛は人手が足りていたのだが、ゴウと前の番頭が次のキャラバンに熱心に推薦してくれて、参加する事となったのであった。)

そうしていくつかの街を経由して、ついに迷宮都市リジオンへと到着した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

処理中です...