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第一部 転生編
第2話 クレイの存在は迷惑であったようです
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屋敷から出ていく事については、クレイは別に構わないと思っていた。
自分が居れば家に迷惑が掛かる可能性がある事も分かっていたからである。
クレイとしても、できるだけ早急に出ていくつもりではいたのだ。
だが、今はまだ、もう少し。あと少しだけ家に居たい。後少しで何かが掴めそうなのだ。そのためにも、家に籠もって研究三昧をしていられる今の環境は正直有り難かったのだ。
そもそも、家の当主である父親に言われたならともかく、叔母に出て行けと言われる筋合いはない。
ジャクリンはこの屋敷で生まれ育ったが、クレイが生まれた時には既に家を出て独立していたので、クレイとは一緒に住んだ事はない。クレイの父親ブランドにとってはジャクリンは血を分けた妹であるのだろうが、クレイの感覚ではジャクリンはこの家の人間ではない、他人に近い存在であった。
もし、父に出て行けと言われたなら、クレイは素直に出ていくつもりであった。実際、クレイのほうからそう申し出た事もあった。だが、父は、もう少し、大人になるまで家に居ていいと言ってくれ、ずるずると居続ける事になってしまったのだ。その環境に甘えさせてもらいながら、クレイはとにかく研究を進める事にした。いつか家を出て、なんとか一人で生きていけるようになるために……。
特に冷遇される事もなく、クレイにとっては何不自由ない快適な暮らしであった。たまに現れてはジャクリンが出て行けと騒ぐ事はあったが、両親が追い返してくれたし、ジャクリンも今回のような実力行使に出た事はなかった。
それに、これまでは『出て行け』とは言っても、『死ね』とはジャクリンは言わなかった。
だが、今日は様子が違う。ジャクリンはいつものように飄々とした表情をしていたが、本気なのは目を見れば分かった。
両親が居ればそこまで無茶はしなかったかも知れないが、実は両親は王都に用事があり、明日まで不在なのだ。
クレイ 「家主が居ないのを分かっていてやってきたってわけか…」
ジャクリン 「ふん! 兄貴が抱え込んで捨てられないゴミを、代わりに断捨離に来てやったのさ」
クレイ 「人をゴミ呼ばわりとか…、どっちがクズなんだか」
ジャクリン 「もちろんクズはお前だ。教会の鑑定で不良品と証明されたんだ、貴族の世界ではゴミと同じだ。いや、魔力ゼロでは、平民の間でもゴミ扱いされるのは間違いないだろうから、ここでひと思いに殺してやるのが叔母としての愛情ってものだろう」
そう、実はジャクリンがクレイを追放しろと主張するのには理由があった。それは、クレイには魔力がまったくなかったからである。
この世界の貴族は、生まれるとすぐに教会から鑑定士を呼び、鑑定を受ける。そこで、職能や特技、魔力量などが鑑定される。もし優秀な子が生まれれば、その家は貴族社会では高い地位を得る事ができるからだ。
だが、クレイは鑑定であまり芳しい結果を貰えなかったのである。それどころか、最低・最悪の結果が出てしまったのである。
ジャクリン 「職能も特技も不明…、まぁそれはいい。だが、何より問題なのは、魔力がゼロってところだ! そんな奴は、この世界では存在価値はないんだよ!」
この世界の貴族の社会では、能力の低い子供が生まれた場合、捨てられるのが当然であった。実は、クレイを捨てない判断をした両親のほうが変わり者であって、この世界ではジャクリンの言っている事のほうが正しいとされていたのである。
父ブランドは、まだクレイのスキルの内容がはっきりしていなかったので、それが判明すればあるいは、と主張したのだが…
ジャクリン 「何か有用なスキルかも知れないって? だが、仮に有用なスキルであったとしても、魔力がなければそれも発動できないだろうが?」
ブランド 「魔力を必要としないスキルという可能性もある…」
ジャクリン 「魔力がなくとも使えるスキルは、大した事は何もできないゴミみたいなスキルだって事は常識だ」
ブランド 「かりにそうであったとしても、今、生まれたばかりのこの子を捨てる気はない」
ジャクリン 「魔力なしの子を生んだ事が貴族社会に知られたら、ヴァレット家の評判が落ちるぞ?」
ブランド 「そんなものはどうでもよい」
ジャクリン 「相変わらず、出世欲がないのだな。兄貴はそれでいいかも知れないが、一族は困るのだよ! 私もヴァレットの名を名乗る一人だ。もし私に迷惑が掛かるような事があったら、私がクレイを斬り捨てるぞ?」
そしてついに、クレイの存在がジャクリンに迷惑を掛ける事となり、キレたジャクリンが乗り込んで来たというわけであった。ジャクリンは、ライバルの貴族にクレイの事を知られ、嘲笑されたのである。
ジャクリンは女だてらに騎士団長などやってるため、やっかみも多く、隙あらばジャクリンを貶め、騎士団長の座から引きずり下ろしてやろうとする輩が多いのであった。
実は生まれてすぐ、ヴァレット子爵家に “魔なし” の子供が生まれたという噂は貴族社会に広まってしまっていた。わざわざ宣伝したわけでもないのだが、鑑定を行った司祭から情報が漏れたのである。ブランドは極めて実直な性格であったため、司祭に金を渡して口止めするという事をしなかったのだ。
出世競争が激しく、足の引っ張り合いが当たり前の貴族である。そのような噂はすぐに水面下で広まっていったのだ。だが、クレイが気をつかって一切屋敷の外に姿を見せないようにしていたため、その噂は確証がない状態のまま時が経ち、ヴァレット家の三男の存在自体、忘れられつつあったのだ。
だが、クレイもついに十二歳になる時が来る。この国では、貴族の子供は十二歳になると、王都の学園に入学する必要があるのだ。
とはいえ、クレイはいずれ家を出て平民になるつもりだったので、学園に行く必要はなかったのだが、両親が見学だけでもしてみろ言ったのだ。
そして、既に在学中の兄と姉に連れられ学園を見学に行ったが、それがいけなかった。噂だけでしかなかったヴァレット家の三男が実在していたとバレてしまったのだ。別に両親は隠し立てするつもりもなかったので気にしていなかったのだが、学園に通う貴族の子弟達から親にそれが広まり、ついに、ジャクリンのライバル達の知るところとなってしまったのである。
そして、厳しい出世競争の中でクレイに著しく足を引っ張られたと感じたジャクリンは、怒ってクレイを処分しに来たのであった。
自分が居れば家に迷惑が掛かる可能性がある事も分かっていたからである。
クレイとしても、できるだけ早急に出ていくつもりではいたのだ。
だが、今はまだ、もう少し。あと少しだけ家に居たい。後少しで何かが掴めそうなのだ。そのためにも、家に籠もって研究三昧をしていられる今の環境は正直有り難かったのだ。
そもそも、家の当主である父親に言われたならともかく、叔母に出て行けと言われる筋合いはない。
ジャクリンはこの屋敷で生まれ育ったが、クレイが生まれた時には既に家を出て独立していたので、クレイとは一緒に住んだ事はない。クレイの父親ブランドにとってはジャクリンは血を分けた妹であるのだろうが、クレイの感覚ではジャクリンはこの家の人間ではない、他人に近い存在であった。
もし、父に出て行けと言われたなら、クレイは素直に出ていくつもりであった。実際、クレイのほうからそう申し出た事もあった。だが、父は、もう少し、大人になるまで家に居ていいと言ってくれ、ずるずると居続ける事になってしまったのだ。その環境に甘えさせてもらいながら、クレイはとにかく研究を進める事にした。いつか家を出て、なんとか一人で生きていけるようになるために……。
特に冷遇される事もなく、クレイにとっては何不自由ない快適な暮らしであった。たまに現れてはジャクリンが出て行けと騒ぐ事はあったが、両親が追い返してくれたし、ジャクリンも今回のような実力行使に出た事はなかった。
それに、これまでは『出て行け』とは言っても、『死ね』とはジャクリンは言わなかった。
だが、今日は様子が違う。ジャクリンはいつものように飄々とした表情をしていたが、本気なのは目を見れば分かった。
両親が居ればそこまで無茶はしなかったかも知れないが、実は両親は王都に用事があり、明日まで不在なのだ。
クレイ 「家主が居ないのを分かっていてやってきたってわけか…」
ジャクリン 「ふん! 兄貴が抱え込んで捨てられないゴミを、代わりに断捨離に来てやったのさ」
クレイ 「人をゴミ呼ばわりとか…、どっちがクズなんだか」
ジャクリン 「もちろんクズはお前だ。教会の鑑定で不良品と証明されたんだ、貴族の世界ではゴミと同じだ。いや、魔力ゼロでは、平民の間でもゴミ扱いされるのは間違いないだろうから、ここでひと思いに殺してやるのが叔母としての愛情ってものだろう」
そう、実はジャクリンがクレイを追放しろと主張するのには理由があった。それは、クレイには魔力がまったくなかったからである。
この世界の貴族は、生まれるとすぐに教会から鑑定士を呼び、鑑定を受ける。そこで、職能や特技、魔力量などが鑑定される。もし優秀な子が生まれれば、その家は貴族社会では高い地位を得る事ができるからだ。
だが、クレイは鑑定であまり芳しい結果を貰えなかったのである。それどころか、最低・最悪の結果が出てしまったのである。
ジャクリン 「職能も特技も不明…、まぁそれはいい。だが、何より問題なのは、魔力がゼロってところだ! そんな奴は、この世界では存在価値はないんだよ!」
この世界の貴族の社会では、能力の低い子供が生まれた場合、捨てられるのが当然であった。実は、クレイを捨てない判断をした両親のほうが変わり者であって、この世界ではジャクリンの言っている事のほうが正しいとされていたのである。
父ブランドは、まだクレイのスキルの内容がはっきりしていなかったので、それが判明すればあるいは、と主張したのだが…
ジャクリン 「何か有用なスキルかも知れないって? だが、仮に有用なスキルであったとしても、魔力がなければそれも発動できないだろうが?」
ブランド 「魔力を必要としないスキルという可能性もある…」
ジャクリン 「魔力がなくとも使えるスキルは、大した事は何もできないゴミみたいなスキルだって事は常識だ」
ブランド 「かりにそうであったとしても、今、生まれたばかりのこの子を捨てる気はない」
ジャクリン 「魔力なしの子を生んだ事が貴族社会に知られたら、ヴァレット家の評判が落ちるぞ?」
ブランド 「そんなものはどうでもよい」
ジャクリン 「相変わらず、出世欲がないのだな。兄貴はそれでいいかも知れないが、一族は困るのだよ! 私もヴァレットの名を名乗る一人だ。もし私に迷惑が掛かるような事があったら、私がクレイを斬り捨てるぞ?」
そしてついに、クレイの存在がジャクリンに迷惑を掛ける事となり、キレたジャクリンが乗り込んで来たというわけであった。ジャクリンは、ライバルの貴族にクレイの事を知られ、嘲笑されたのである。
ジャクリンは女だてらに騎士団長などやってるため、やっかみも多く、隙あらばジャクリンを貶め、騎士団長の座から引きずり下ろしてやろうとする輩が多いのであった。
実は生まれてすぐ、ヴァレット子爵家に “魔なし” の子供が生まれたという噂は貴族社会に広まってしまっていた。わざわざ宣伝したわけでもないのだが、鑑定を行った司祭から情報が漏れたのである。ブランドは極めて実直な性格であったため、司祭に金を渡して口止めするという事をしなかったのだ。
出世競争が激しく、足の引っ張り合いが当たり前の貴族である。そのような噂はすぐに水面下で広まっていったのだ。だが、クレイが気をつかって一切屋敷の外に姿を見せないようにしていたため、その噂は確証がない状態のまま時が経ち、ヴァレット家の三男の存在自体、忘れられつつあったのだ。
だが、クレイもついに十二歳になる時が来る。この国では、貴族の子供は十二歳になると、王都の学園に入学する必要があるのだ。
とはいえ、クレイはいずれ家を出て平民になるつもりだったので、学園に行く必要はなかったのだが、両親が見学だけでもしてみろ言ったのだ。
そして、既に在学中の兄と姉に連れられ学園を見学に行ったが、それがいけなかった。噂だけでしかなかったヴァレット家の三男が実在していたとバレてしまったのだ。別に両親は隠し立てするつもりもなかったので気にしていなかったのだが、学園に通う貴族の子弟達から親にそれが広まり、ついに、ジャクリンのライバル達の知るところとなってしまったのである。
そして、厳しい出世競争の中でクレイに著しく足を引っ張られたと感じたジャクリンは、怒ってクレイを処分しに来たのであった。
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